≪大騎士≫①
≪大騎士≫になるには二通りの方法がある。
現大騎士に勝負を挑み勝つこと。
二つ目は試合で御前で優勝すること。
≪大騎士≫なったものは元帥の地位と『青の騎士団』の指揮権を得る。
ただ何よりもすごいのは≪大騎士≫という名に認められる【最強】という称号。
現状、我が国の≪大騎士≫は病気になり。病状は悪化の一途を辿っている。
そこで、御前試合が行われることになった。
無論。僕も御前試合に出場する。
といっても、僕は四大貴族の後押しもあり、本戦からの出場だ。
まぁ、予選に出ても出なくても僕が負けることはない。
何せリンディさんとの結婚の約束もある。
それに、この国に害悪をもたらそうとしている三大侯爵家の一つ。
マヴィウス公爵の動向も気になる。
しかし、何もしかけてこないままついに僕は準決勝に勝利し、残すところはあと一試合。
選手の控室に行くとそこには、ダグラスさんがいた。
神妙な顔つきで入ってきた僕を見た。
「見事な勝利だった。さすがだな。」
ダグラス元帥に褒められて少しうれしいが、今何かひっ迫した事態が起きていることは容易に分かった。
「決勝で戦うお前の相手はマヴィウスの手のものだ。あやつめ、勝つために異国の戦士をこの国に招きよったのだ。」
異国の戦士。
ダグラスさんは差別意識で、こう言ったわけではない。
マヴィウス家が招いた異国の戦士。それは、クーデターを画策するには都合がいい。
なにせ異国の戦士ならば、愛国心がない。
クーデターを行うのにこれ以上ない存在だ。
これはより一層気合を入れて決勝戦にのぞばねばならない。
「気をつけろよ。デイビー。マヴィウス家が選んだ最高の切り札だ。
念には念をいれねばならんぞ。どこに奴の刺客が潜んでいるやもしれん。」
はい。より一層の精進をしなければならない。
「では、わしは失礼する。」
ダグラス元帥が帰った後、今度は次兄のビーレイズ兄さんがやってきた。
僕の実兄なのですんなりとなかにはおってこれたらしい。
「すごいじゃないかデイビー。あと一勝で≪大騎士≫に手が届くぞ!」
そんなことを言いながら兄は持ってきた飲み物を入れてくれる。
「少し早いが祝祭だ。グイっと言ってくれ。」
僕は兄に言われるままに飲み物を一気に流し込んだ。
その瞬間だった。僕は次の瞬間全身が脱力し、地に伏してしまった。
皆が周囲で何か言ったり走ったり慌ただしく動いていることだけは何となく理解できた。
リンディ視点
「ああ~!!」
デイビーに毒が盛られたという話は瞬く間に広まった。
そして、その方を聞いてまるで子供のように泣きじゃくるのはデイビーの婚約者であるリンディ嬢であった。
「デイビー様がこんなことになるなんて…
私は呪いを振りまく悪魔なのかもしれないわ。」
「お嬢様!お気を確かに!!今はそれよりもデイビー様の様子を見に行くべきかと!」
「そ、そうね。まだデイビー様の病気がどの程度かわからないものね。」
いつも傍にいてくれる。メイドと共にデイビー邸へと向かった。
デイビー邸に到着してから颯爽とデイビー様の部屋に駆け込んだ。
そこには大きなベッドでなぜか男たちが集まって何かをしている。
よくよく見るとデイビー卿はこっちを向いて笑いかけてくれるが、弛緩剤で表情筋がうまく動いておらず、弱弱しく見えた。
「リンディ様。大丈夫ですか?」
男たちの集団に呆気に取られていた。私の思考がよく知る友人の声で我に返る。
「あれは何をやっているのかしら?」
「あああ、あれは動けない筋肉に刺激を与えて弛緩剤の効果を少しでも緩めるために外側からマッサージで筋肉をほぐしている最中ですわ。ほかにも試したい方法があるのでよかったら見学されますか?」
「そうね。そうしようかしら。」
「サウナで体を温めて緊張をほぐすのはどうかしら」
「それはいい考えですね。老廃物を出して薬膳を食べれば少しはましになるでしょう。」
リーファはそう言って召使たちに簡易的なサウナを作らせた。
怖い。
現状のデイビー様は恐ろしく貧弱で覇気がない。
今ならば赤子が顔に乗れば引きはがすこともできずに窒息死するだろう。
「いつ解けるの…」
蹲った小さな顔でまるで子供に返ったかのようにミーファに告げる言葉。
「医者の話では数日は動けないだろうとのことです。」
その言葉を聞いた瞬間私は大量の涙を流した。誰にはばかることなく泣き続ける。
まるで幼児のようであった。
「やっぱり私に幸せな生活は遅れないのよ!!不幸を呼ぶ凶兆それがあたしなのよ!!
私があの方を愛さなければ、あの方のことをただ見守っているだけなら!
こんなことにはならなかったのに…
私は本当に…不幸を呼ぶ存在なのかもしれないわ…」
そんな少女の声を聴いた誰かが言った。こっちにおいでください。
そういわれて私は彼のいるベッドに近づいた。
近くで見ると彼の顔は青白く生気が感じられなかった。
こんな状態で明日の試合に間に合うのか。立つこともままならぬ体で一体何ができるというのだろう。そんな私の思いを察したのか。
「明日の試合。僕は勝ちますよ。」
声は弱弱しく信じるに値しない言葉。だけど今は…今だけはその言葉を信じることしかできなかった。
デイビー視点
翌日。
僕は事の顛末を聞かされることになった。
僕の兄でるあるビ-レイズがなぜあんなことをしたのか。それは兄の恋人が何者かに誘拐されたらしい。そして、ビーレイズ兄さんはその恋人を引き渡す代わりに僕に毒をもったらしい。
毒見もせずに飲んだ僕のほうに問題がある。しかもそれが実の兄からもたらされるなんて考えもしなかった。
倒れた日の翌日、僕は今日行われる決勝戦に向けてどうするべきかを考える。
医者の話だと、筋肉を弛緩させる薬だったそうだ。
兄は事情を説明し、無事救助されたそうだ。
しかし、飲まされた薬の量的に2~3程度は動かせないらしい。
そんな僕を心配してか。ミーファちゃんとリンディさんがやってきて、全身マッサージやら水風呂に付け込まれた後で高温の部屋に放り込まれた。
後から聞いたがあのお高温の部屋はサウナというらしい。
それを何度か繰り返しは分からないが2人が頑張っているのだ。僕も負けられない。
そう思って、立ち上がろうとしてこけてしまった。
何とか剣を手にして立ち上がると、そこには思いがけない人がいた。
リンディ嬢とダグラス元帥だ。
「毒見もせずに飲食を行うのは貴族としての自覚が足りん。まぁ、もう終わった話故どうでもよいがの。」
ダグラスさんはそう言い終わると颯爽とどこかに行ってしまった。
僕が、剣を杖代わりにして色のを見て不安そうな顔をする。
「大丈夫なのですか?」
「ええ、必ずあなたを迎えに行きます。」
リンディ視点
デイビー様の控室から外に出て考える。
どうして何もかもがうまくいかかないのだろう。
前王太子の一軒から始まり他の結婚相手はどれこれも問題がある。
そうした貴族の柵のない結婚相手が決まったと思ってらこの不始末。
もう結婚をあきらめて田舎でせいかつしようかとほんきでなやんでしまった。
「リンディ様大丈夫ですよ。」
そう言って声をかけてミーファだった。
「うちの隊長は少し強すぎるので、いいハンデになると思います。」
「はっはっは。確かにそうかもしれねーな。」
「確かになうちの隊長を毒で殺さなかったことを後悔するだろうよ。」
面白そうに笑うがレッド君とミゲルさん。
激励を受け僕はリンディさんに近づいた。
「この戦いが終われば、僕たちは正式に婚約することになります。だから、信じて待っていてください。」」




