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熊と狩猟乙女  作者: 魔王の善意
狩猟乙女編
34/41

リンディ=フォン・リードザッハ⑨

弟と共に父の説得が終わった私は、友人のミーファとの旧交を温めることにした。

彼女が家を出る時に手助けを行ったのだが、そのせいで貴族ではなくなった彼女との接触はできうる限り取らなくなっていたのだが、デイビー様との接触を自然に図るためには弟だけでなく彼女の力も必要となる。


「お久しぶりです。リンディ様。」


待ち合わせのカフェでお茶を嗜んでいるとミーファがやってきた。

ここは貴族時代に彼女が好んでいた場所で、少々平民が来るには値段と品位が高いのだが、今回は私がいるので彼女も気兼ねなくやってきた。


「ええ、お久しぶり。」


私は軽く挨拶を返し、席に着くように促すと給仕のものを呼ぶ。

彼女は少し懐かしそうにメニューを手に取って眺めると、いつも彼女が頼むお決まりのセットを注文した。

そうなるだろうなと思いつつ、一応今回の相談料として彼女にはこの店で買える品をお土産に渡すことを伝えて何がいいか考えておいてもらえるように促した。


「よろしいのですか? リンディ様にはお世話になっていますし、私としては気兼ねなくここに来れるだけでありがたいのですが。」


「ええ、是非受け取って欲しいの。その代わりと言っては何だけど。ここでの話は他言無用の上で協力を確約していただきたいの。」


私の返答に満足して頷いた彼女に私はデイビー様とのことを彼女に話した。


「た、隊長と婚約?! 本気ですの?」


彼女の中ではデイビー卿は男性として問題があるのか。

私とデイビー卿の婚約話は予想外の出来事であったのか。声を荒げるが、それも一瞬こと。

すぐに、この場にはふさわしくないと思ったのか言葉を正す。


確かに、見た目で家を見れば人外に思えるほどの大男で顔も決して整っているわけでもない。

だが、それでも私はデイビー様との婚約を前向きに考えていることを彼女に話した。


「しかし、隊長は平民ですよ? そのあたりはどうするのですか?」


私の話を聞き、どうやら彼女は私の意思の固さを理解してくれたようで、素直に協力の意を示しはしたものの疑問を投げかける。

そう、デイビー様は平民。そして私は公爵家の令嬢。そこには埋めがたい差が生じている。


「大丈夫よ。その辺のことに抜かりはないわ。今回の件には四大貴族と国王陛下も一枚噛んでいるの。

デイビー様は適当な理由をつけるか。どこかで戦があればその時の褒美として爵位を頂くことになるわ。」


「なるほど、前王太子殿下が作った王家への借りをここで使われるのですか。ですが、爵位を得たとしても新参者の貴族に歴史ある四大貴族の令嬢が嫁ぐのは難しいはず・・・ ということはまさか。隊長を≪大騎士≫にでもするおつもりですの? 現≪大騎士≫様の容態はそこまで悪いのですか?」


私の話を聞いてすぐさまその後のことまで彼女は推測して現≪大騎士≫についての追及をしてくる。

我が国最強の騎士が病で倒れていることは軍内部では噂になっている。

しかし、他国への情報漏洩の為に戒厳令が敷かれ、現≪大騎士≫の容態については彼女は知らないようだ。

ただ、これについては私も詳しいことは聞いていない。

しかし、父の様子や王家の動き、『青の騎士団』の腐敗状態から見てかなり深刻であることは予想できる。


少なくとも、できるだけ早いうちに次の≪大騎士≫候補を必要とする程度には・・・

既に、何人かの貴族たちは次の≪大騎士≫を自分達の手駒から出すために画策している。


「そうね。私とデイビー様が婚約するには≪大騎士≫になるか。もしくは、尋常ならざる戦果を挙げるかのどちらかしかないわね。」


「戦果ですか。戦いがあればすぐにでも上げれそうですが、それほど大きな戦は起こらないのでは?」


ミーファの言う通り。現状、大きな大戦が起こる可能性は極めて低い。

先の戦いで活躍した『緑の騎士団』とその中でも精鋭とされる《華剣のオスカー》の部隊の活躍は広く知られている。

我が国の最高戦力とされる『青も騎士団』抜きでの大勝利に周辺各国は二の足を踏んでいる。

ならば、大きな戦など起きずあったとしても小競り合い程度だろう

それでは報奨を与えるのは少し難しいが、ないならこちらから攻めるの一つの手段として四大貴族は考えているのかもしれない。


それにしても、先程から彼女と話していて疑問に思うのだけど。

ミーファはデイビー様が≪大騎士≫になることを信じて疑っていないように見えるのは、なぜだろう。

近くで実力を知る彼女ならではの根拠があるのだろうか。あるのならば聞いてみたい。

私は彼女にデイビー様が≪大騎士≫になれるかどうかを問うてみた。


「なれますね。もちろん。変な妨害がなければの話ですが・・・」


そう言って彼女はいつも飲んでいる紅茶を口に含んだ。


「何を根拠に言っているのか。聞かせてくれないかしら?父との交渉が捗ることになるわ。」


彼女のこの余裕の表情と自信に満ちた顔に思わず問いかける。

デイビー様のどこに≪大騎士≫足り得る根拠があるのか。問いかけずにはいられなかった。


「それは・・・ ええっと・・・」


しかし、そんな私の期待に対して彼女は言葉を濁す。

その後、少しというには長い時間彼女は考え込んでからこう言い放った。


「あの人が負けるところが想像できませんわ。」


それは根拠でも何でもない。ただの主観的的な感想だった。

しかし、同じ舞台に所属しともにデイビー様と戦場を駆けた彼女の言葉に私はなぜか満足してしまった。


その後、デイビー様の部隊に弟を送り込むことや、デイビー様へのアプローチなどについて話し合い。

定期的に情報交換のためにここで会う約束を取り付けて、彼女とは別れた。


彼女からの有益な情報として、デイビー様に恋焦がれている女性はいないこと。

それとデイビー様が恋焦がれている女性がいないことについての裏が取れたことは私にとって行幸だった。

あとは、私がどのようにアプローチしていくかが問題だが、それは状況の変化に合わせて修正が必要なので大まかなスケジュールを作っていくことにした。


まずは、出会い。

弟を介して不自然にならないようにしなければならない。

これは既に父と弟、ミーファに任せてある。

騎士団の親睦会に我が家式に招待すれば、自然に騎士団の長である父や母、そして私達が紹介されるのは間違いない。

これで、自然に挨拶を済ませた後、デイビー様と二人きりの時間を作りアピールしていけばいい。


衣服は前王太子殿下が私に着させようとしていた胸元が開いた艶やかなドレスを着よう。

少し胸元が開き過ぎていて恥ずかしいけれども、これもデイビー様に私が女であることをアピールして向こうから私にアクションを起こしてもらえるようにするための一環。


次にデイビー様と出会う口実を作るためにもできるだけ会話を長引かせたい。

しかし、ミーファからの情報ではデイビー様は幼少期から容姿が大きく怖がられることも多かったために積極性が乏しい。

ここは、ミーファから入手したデイビー様の目利きを利用しよう。

商家の生まれであるデイビー様は、目利きがよくそういった物を見る目がある。


ここは胸元にペンダントをつけてアピールしつつ宝石について話をしよう。

そこからお互いの共通項を探りつつ会話を弾ませれば、また次回にと持ち越すことができるかもしれない。

我ながらいいアイデアだわ。


父も親睦会で何かしようと企んでいるようだが、それはそれで父の起こしたことに関することで話題が増える。

あとは、私がデイビー様の心をどれだけ引き付けられるかにかかっている。

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