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熊と狩猟乙女  作者: 魔王の善意
狩猟乙女編
27/41

リンディ=フォン・リードザッハ②

商家の三男坊、デイビー=ダビットソン。


目的よりも己の矜持を優先する。

軍人としてはあまり褒められた行動ではないだろう。

だが、そこが自分の父親に似ていて素敵だと私は感じたのだ。


暗殺者に襲われかけて以降、私は用心のために家にいることが多くなった。

その間に、人伝に彼のことを調べるのが私の日課になっていた。

毎日のように調査員から調査結果の手紙が届く。


そこには彼の商家が新興のものだということや、その裏にいるモルダン公爵家のこと。

モルダン公爵家の家庭事情が書き連なっている。

ダビットソンというのは彼の母方の姓らしい。

商才のなかった三男坊であるデイビー様は生まれついての大きな体を生かす道として兵士になることを選んだ。


幸いにして、父親同士は兄弟同然に育ったこともあって、モルダン公爵家とは親交があり様々な面でお互いに協力関係を築いているらしい。

立場的に見れば公爵家が一方的に手を貸しているだけにしか見えないが、商才のある商家の当主は婿入りしたダビットソン家を王都の中堅商店だったのを国を跨ぐほどの流通網を築く中堅商店に発展している。

あくまでも、自分達の立場を中堅とすることで各国にある大商店との衝突を避け、それどころか、流通網を貸すことで各国の大商店同士を繋ぐ流通の要になっている。


おかげで、各国の商人達から様々な情報を手に入れることができる。

その情報網はモルダン公爵家が政治を行う上で重要なものだ。

なにせ、周辺国の商人の情報を紐解けばその国の財政状況がわかる。


物流がわかれば内情も丸わかり、とまではいかなくともある程度の情報を入手できる。

諜報員を周辺国に送り込むにしても流通網の中に紛れ込ませればそういったことも用意かつ、迅速に情報の受け渡しもできる。


そういったことをいとも簡単にやってのける商人であるダビットソン家の現当主は、どのように狡猾で冷酷な男なのかと思って少し調査をさせたら、実際はただの優しいおじさんだった。

流通網の強化や発展は人柄の良さと人徳で自然に気づいたものでしかなく、裏がない。

そのためか、良くも悪くも大商人や各国の政治家に嫌悪されることなく、逆にその人柄を利用されてその地位を気づいていた。


流通網の強化は単純に利益の向上を齎し、人の流れを作る。

その流れを各国に点在する大商人や政治家には自分で作るのは難しい。

必ずどこかで邪魔をする者が現れる。

ならば、誰もが利用できそうな人物に任せてしまえばいい。


できれば、何かあった時のために潰しのきく人物で、且つ扱いやすい性格のものがいい。

そこで目につけられたのが彼だそうだ。

こうして、彼は様々な思惑により世界各国の流通網を取り仕切る存在になった。

こう見るとただ利用されるだけの存在のように見えるが、逆にそれを利用して流通網を作り上げるまではモルダン公爵家との関係を露呈させなかった傑物でもある。


モルダン公爵家の存在により、各国の政治家は手を出すのが難しくなった。

一国の大臣の親戚に手を出せばどんなしっぺ返しを返せばわからないからだ。

おまけに、大商人達も彼の作り上げた見事な流通網を活用することで高い利益を出すことに成功していたので、自身の利益を守るためにも流通網を維持するためにダビットソン家には手を出せなくなった。

おかげで、現在は各国の大商人や政治家が手出しすることの難し存在となっている。

存在を消しにかかることは難しく、彼の代わりにこの流通網を維持し続けられる存在はいない。


それが現在の彼の評価だ。

まぁ、それでも根っこの部分が優しいおじさんなので、誰もその存在を危険に思っていない。

寧ろ、『あいつになら任せても大丈夫だろう』と思われている。


己の利潤だけを求めることも、モルダン公爵家の傀儡となることもなく、純粋に商売を楽しんでいる。

そんな人物のようだ。


「デイビー様の人柄の良さはここからきているのかしら?」


ついついそんなことを口から漏らしてしまった。

良家のお嬢様が一介の商人の息子に恋するなんて、まるで夢物語のようでなんだか心が弾んでしまうわ。


そんなどこにでもいる少女のようなことを想う私の下についに知らせが届いた。

私の父が待ち望んだ知らせだ。

だが、当の本人である私にはあまり喜ばしくないものだった。


「エルゲンテア家の領主か。年齢は24歳。若いが評価は悪くないようだな。」


私の新しい婚約者候補の資料を見ながら父は少し苦い顔をした。

年齢が近いことは私としては特に問題ないが、父からすると若く頼りない男に娘をやっていいのか心配なのだろう。

王太子も若かったからいい思い出自体が少ないのかもしれない。

若い新兵は元帥の父からすれば駆け出しのような存在だ。

そういった立場上のイメージが若い領主を訝しんでいる様子だ。


「ですが、父親を早くに亡くして領主になっているのですでに3年ほど領主をやっていますし、評判は上々。特に問題点はありませんし、年が近い方がリンディ嬢も接しやすいと思います。」


私の新しい婚約者候補を見繕ってきた次期公爵家候補たちの中からセオドリック卿がそう言ってエルゲンテア家の当主を必死に押す。

彼はどうしてもエルゲンテアの若領主と私をくっつけたいらしい。

それもそのはず、セオドリック卿には現在婚約者がいない。ただ絶賛片思い中ではある。

そんな彼にしてみれば、前王太子とのいざこざで婚約者候補のいない年の近い私という存在は目の上のたん瘤だ。


父も、『(婚約者として)セオドリックはどうだ?』と私に聞いてきたことがある。

無論、即座に『タイプじゃない』と御断りを入れたが、父からすると家格としてセオドリック卿の実家であるモルダン公爵家は同じ四大貴族であるために王族を除けば最上級の婚約者候補だ。

しかし、セオドリック卿は線が細く頼りないイメージがあるので、好きになれない。

おまけに、私が知る限りでは半年ほど前から一人の令嬢に恋心を抱いてから全く進展がない。

いや、一応頑張ってはいるようだが・・・相手にされていないのではないだろうか。


内面も外見も悪くもないが良くもない。

そんな感じだ。

そんな彼は自分に矛先が向かないために必死になってエルゲンテア家の領主を押す。

それはもうグイグイと・・・

私は全く持って興味がわかないので適当に話を流すことにした。

父はその後も真剣にエルゲンテア家の当主の人となりなどを質問していたが、聞き流した私の耳には何も入ってこなかった。


「まぁ、人柄を直接見てから決めても問題はないでしょう。リンディ嬢も人柄は気になるでしょうし、一度夜会で直接会う機会を設けますので、会ってみてください。」


そう言って長く続いた話をまとめたのはタルトリアの次期当主たるアダマン様だった。

今年で33歳になるとは思えないほどの若々しさを持つこの当主は、本来ならば私の一番の婚約者候補に挙がるはずの人物だったのだが、残念ながら何人もの妻を持つ多妻家であるために候補から外れた生粋の遊び人である。

いい歳にもなってタルトリア家の当主の座を継ごうとしない四大貴族最大の問題児とされる彼だが、その優秀さは誰もが認めているために父も今回のところは引き下がるようだ。


「まぁいい。こちらでも調べておこう。」


こうして、父が席を離れたことで話は終わった。

私も席を離れようとしたところで、アダマン様から制止が入った。


「リンディ嬢。少しよろしいですか?」


「かまいませんよ。なんでしょうか?」


私がその場に留まって尋ね返すとアダマン様はセオドリック様や他の次期当主陣を帰らせた。

一応、周りにはそばに控える侍女たちがいるので二人っきりではない。

まぁいくら遊び人のアダマン様でも私には手を出さないだろう。

そんなことをすれば四大貴族内の結束に亀裂が入ってしまう。


「いやなに。どうやらリンディ嬢にはエルゲンテア家の当主殿はあまり好ましくないように見えたのでね。あなたと2人だけになれば、何か聞き出せるかと思いましてね。」


「!」


アダマン様のお言葉に私は息を飲んだ。

確かに、興味はなかったがそれを悟らせない程度には演技はできていると思い込んでいたからだ。

思わず息を飲み、目を見開いて改めてアダマン様の顔を見れば、『やはり』とでも言いたげに自分の抱いた感想が的中していたことを確信して笑みを浮かべていた。

その表情を見てこちらの内情を悟られて恥ずかしくなって顔を隠すように扇子を取り出して広げる。

落ち着きなさいリンディ。

まだ全てがバレたわけではない。

いきなり飛び出したよくわからない婚約者候補に興味を示さなくても特におかしくはないはずだ。

ここはうまく話を誤魔化して・・・


「リンディ嬢。他に好きな男性がいるのでは?」


「な、なんのことですの?」


話を誤魔化したかったのに先手を打たれた。

思わず声が裏返ってしまった。

これでは動揺していることがバレバレだ。


「やはりそうですか。なんなら、その方を婚約者候補にするのをお手伝いしても構いませんよ?」


我が意を得たりとばかりに攻め立てて来るアダマン様の追撃に私はどうすればいいのかと視線を泳がせる。


「何か言いにくいことでもおありですか?もしや、地位の低い方なのですか?仕事の方は我々四大貴族の地位を使っていい職を回すことができますが・・・。爵位が低くともリンディ嬢が個人的に好いておられるならばそこそこの爵位があればダグラス卿も許されると思いますが・・・ まさか、騎士爵ではないですよね?少なくとも男爵位でなければ我々としても後押しがしにくいのですが・・・」


私の態度からアダマン様は少しだけ眉間に皺が寄る。

彼からすれば、私に想い人がいること自体は何ら問題ではないのだろう。

その相手が貴族であれば、婚約者候補にでも挙げて私に選ばせればいい。

多少爵位が低くとも私が気に入った相手ならば父は渋々了解するだろう。

四大公爵家の後押しがある以上、仕事も生活も後から向上できる。


だが、勘のいい彼は気づきつつある。

私の想い人が爵位を持っていないことに・・・。

さすがに、貴族の令嬢が平民と結婚するのは世間体が悪い。

地位の低い男爵位や子爵。もしくは高位貴族でも三女以下の多くの子女がいる家ならばともかく、王太子妃候補にまでなった貴族の令嬢が平民と結婚なんて外聞が悪すぎる。

おまけに、私は前王太子の素行の悪さの一端を被せられるという汚名を吹聴されている身だ。

ここで自分から外聞を広めると家名にも傷がつく。

それはさすがにできない。


「アダマン様。何か誤解しているのでは?わたくしにそのような心当たりはありませんわ。」


なんとかそう言ってこの場を誤魔化す。

だが、アダマン様は私を胡散臭そうなものでも見るように見つめた後、無言で部屋を後にした。

あの目は明らかに疑っている。

いや、優秀なあの方のことだ。

すぐに何かしらの手がかりを掴むだろう。

何とか妨害できないかしら?


わたくしはなんとかアダマン様の追撃を逃れるためにあの手この手で妨害工作を考えるが、結果はうまくいかなかった。


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