表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熊と狩猟乙女  作者: 魔王の善意
熊編
21/41

デイビー=ダビットソン㉑

四大貴族の方々との話し合いが終わり。

その後に少しばかりの情報交換を終えてから数日。


僕は大騎士へと至る大会への参加表明をしたことを副官達に告げた。

なにせ、大騎士になれば『青の騎士団』への入団は免れない。

大騎士は青の騎士団の団長でもある。

つまり、大騎士になることは青の騎士団への異動が行われることになる。


「隊長。今までお世話になりました。」


「隊長の下で働くの楽しかったのになぁ~。あ、俺の異動先はブルーノさんの下がいいです。」


「ご結婚。おめでとうございます。」


ミゲルさん。ガレット君。信じてくれるのはうれしいけど。

僕が優勝できるかどうかまだわからないよ?

あと、やっぱりついて来てはくれないんだね。

そして、ミーファちゃん。いきなり何を言い出すんだい?

結婚なんてすぐにできるわけじゃないか。

そもそも優勝しないことには、僕とリンディさんの結婚は元老院からの反対のせいで多分できないんだよ?


「いやいや、まだ優勝できると決まったわけじゃないんだよ? 最近は訓練の量も減ってまだ小隊の隊長だった時より勘も鈍ってるだろうしさ。」


「「「・・・」」」


僕がアタフタしながら言葉を返せば、3人は「何言ってんのこいつ?」とでも言いたげな目で無言の返答を返してきた。

いや、でも訓練の時間が減ってるのは本当のことなんだよ?


「まぁ、隊長が寝言を言うのはいつものことですからね。仕事に戻りましょう。」


「そうするか。」


「それもそうですね。」


こうして、僕を置いて3人は行ってしまった。

みんな、酷いよ・・・


「はぁ・・・」


溜息をつきながらも仕事を始める僕だった。

上司の切実の悩みを無視するだなんて・・・ みんなひどいよ。


大騎士になる。


宣言したのはいいが、正直言ってなれる気はあまりしない。

最近はデスクワークが多いし、何よりこの国には僕よりもすごい人たちがたくさんいる。

それぞれの騎士団の団長や兵団や領邦軍にも実力者は多いと聞く。

それに、長年に渡って武門の家を継いできた貴族の人達は大騎士になることを誰もが狙っている。

そんな人達の間に元小市民な僕が入って戦いになるのだろうか。


だが、優勝しなければリンディさんとの結婚はできないし・・・

ああ、悩ましい・・・


休日の間に体を動かし、剣を振ってみたが、相手がいないので訓練としては物足りない。

やはり対人訓練のほうが何かと練習になる。

部下との訓練もいいが、やはりここはもう少し上の実力者と戦いたい。


そういう訳で、僕は『緑の騎士団』の団長室にきていた。

やはりここは歴代でも最強と謳われる我らが『緑の騎士団』の団長こと、エッフェル=フォン・バーンスタインさんに一手ご教授願おうと思ったのだ。


「・・・」


僕のお願いを聞いたエッフェル団長は重苦しい雰囲気を抱いたまま口を開かない。

この人は昔から何を考えているのかよくわからない。

なんだか、難しい顔をしていることが多い人なんだよね。

ただ、戦場では的確な指示を出してくれるので、上司として信頼できる人物だ。


だからと言ってさすがに、マヴィルス家の反乱のことやリンディさんとの結婚については話していない。

ただ大騎士アークナイトになる大会に出るので、その前に腕を磨きたいから組み手をしたいとお願いしただけだ。


この人と組み手をすればより強くなれる可能性は高い。

なにせ現在の大騎士や近衛騎士団の団長と共に剣の腕を磨き、大騎士を決める国王陛下の御前試合において決勝戦で現大騎士と激闘を演じたそうだ。

それに、噂では決勝戦前に怪我を負ったせいで敗北したとも聞いている。

それほどまでに有名で実力のある人物なのだ。


この人と組み手ができれば僕は大騎士になる上で欠けている何かを掴めるかもしれない。

この人と手合わせをしたのは数年前の僕が『緑の騎士団』に入団して以来だ。

あの時は全く歯が立たなけど、今ならばもう少しいいところまで行けると思うんだ。


「ダメだ。残念ながら手合わせはできない。」


だが、そんな僕の思いを一蹴する言葉が団長の口から放たれる。

なぜダメなのだろうか。

わからないならば聞くしかないので聞いてみると、団長は真剣な顔つきで話し始めた。


「デイビー。国王陛下の御前試合にはお前だけが出るわけではない。あれは大騎士を目指す王国中の騎士たちが集まる祭典だ。場合によっては他国の人間が出ることもある。そして、大騎士の座を狙っているのはお前だけではないのだ。そう。この私もその一人なのだよ。」


ハ・・・!

そうか。

大騎士を目指しているのは当然ながら僕だけじゃない。

エッフェル団長は現大騎士のヨルダンさんと同い年だからてっきり出ないと思っていたけど。

団長もヨルダンさんもまだ30代。

十分に大騎士の座を狙える実力も実績もある人物だ。


ヨルダンさんは諸事情により引退だそうだけど。多分、病気か何かなのだろう。

その点、エッフェル団長は健康そのものだ。

団長が大騎士を目指さない理由が見つからない。

ヨルダンさんさえいなければ・・・

いや、決勝戦前に怪我さえしなければ『大騎士になっていた』とされる実力持つこの人は今は上司ではなく、大騎士の座を巡り争う宿敵ライバルなのだ。

お互いに手の内を見せるわけにはいかないということか。

仕方がない。

そういうことならば、引くしかない。


「団長。貴重なお時間をいただいて申し訳ありませんでした。では、次会うときは闘技場の上で。失礼しました。」


僕は頭を下げて礼をすると団長室を去るのだった。

そうだ。

僕の知る強者は皆、大騎士の座を巡り争う競争相手なのだ。

こうなったら自分で訓練を重ねるしかない。


「ふぅ。久しぶりに、狩りにでも行くかな。」


そんなことを考えながら僕は仕事に戻るのだった。


~緑の騎士団 団長室~


「ふぅ・・・ いったか・・・」


デイビーが手合わせを申し込んできた時はどうしようかと思ったが、何とか追い返すことができてよかった。

あの男と戦ってただで済むとは思えない。

まだあの男が入隊したばかりの時ですら、本気で戦わなければならないほどだったというのに・・・

今戦ったら果たして何分持つことか・・・。

団長として、上司として、負けることは許されない。


「別に試合を受けてもよかったのでは? 負けても、デイビーに花を持たせてやっとことにすれば問題ないでしょう。」


「馬鹿野郎! あいつと戦って瞬殺されて『手加減してやったんだぜ』なんて言っても説得力に欠けるだろうが!!」


隣にいる副官のレージに対して思わず声を荒げてしまう。

確かに、レージのいうことも一理ある。

だが、それは途中まで善戦していた場合にできる方法だ。

あの怪物と数合打ち合っている間、押し負けずにいられるのか。最悪でもあの怪物の攻撃をいなし続けなければならない。

若い頃の私なら・・・

いや、それでも無理か・・・


今から数年前。

まだ、デイビーが入団したばかりの頃だった。

その頃の私はまだ緑の騎士団の隊長格に過ぎなかった。


だが、その実力を認められ、大騎士になる御前試合の大会に出る許可が下りた。

私は必死に技を磨き、体を鍛えて大会に臨んだ。

その結果、順当に勝ち上がり、決勝の舞台に上がることを許された。


そのせいだろう。

私は舞い上がっていた。

技も体も出来上がっていたのに、心が未熟だった。

決勝の相手は騎士学校の同期であるヨルダンだということはわかっていた。

いや、わかっていたからこそ。私は舞い上がっていたのだ。

なにせ私は、騎士学校時代。あの男に負けたことがなかったのだ。


翌日の勝利を確信し、完全に舞い上がっていた私は、ほんの出来心から新しく入ってきた新人たちに修行をつけてやることにした。

明日の御前試合に勝てば、大騎士となり『青の騎士団』に異動になる。

その前に、軽く新人を甚振ってやろう。

そんな浅はかな気持ちで臨んだ新人いびりで、私は過ちを犯した。


図体のデカい。

ただそれだけの男。

そう思っていたデイビー=ダビットソンとの手合わせにおいて、私はミスを犯した。

同じ新人として入った仲間たちが次々とやられ、甚振られたのを見て激昂したデイビーの一撃をいなし切れなかったのだ。

おかげで翌日の試合は片腕に力が入らなかった。


それから、私は真摯に人と向き合うことを覚えた。

そのおかげだろう。

歴代最強の緑の騎士団団長として名を馳せている。

大騎士になれなかったことを悔やんではいるが、自分の未熟さを知り、さらには、自分より大きな才能を育てる機会を得たことには感謝している。


デイビー。


お前なら勝てる。

頑張るんだぞ。


「団長。きれいにまとめてますけど。完全に団長の独りよがりですよね? デイビーを育てたの元第三隊の隊長のオスカーさんでしょ? 先の戦いの傷が深くて引退した。」


「心を読むなよ! あと、そのことは伏せとけよ!!」


緑の騎士団団長と副団長は今日も仲良く仕事に励むのだった。



~宣戦布告~


それはデイビー隊長やミゲルさん、ガレットさんと4人で移動中のことだった。

前方から『青の騎士団』の制服を着た豚。

いや、肉団子が歩いてきたのだ。


ぷよんぷよん


一歩歩くごとに揺れるそのふくよか過ぎるお腹は、どう見ても騎士団に所属する人間の体型ではない。


「フハハハ! ひさしーな。 デイビーよ!」


「久しぶりだね。チャール君。元気にしてるかい?」


無作法にも隊長の前に立ち。威張り散らす豚。

隊長はそんな豚のことを気にすることなく、挨拶を返す。

いや、確かこの豚はこう見えて隊長より階級は一個下だが、『青の騎士団』の団長補佐で、伯爵家の当主だから総合的には上なのか?

どう見ても、階級と地位を金で買った成金にしか見えない。


「ハハハ!! 元気に決まっているだろう!このドン・チャール!健康そのものよ!見た前!この私のお腹を!」


ぽぷよんぽぷよん


豚がお腹を叩くたびに変な音が聞こえる。

幻聴だろうか。

人間のお腹からこんな音が出るのか?


「ハハハ。君は相変わらずだね。そうだ。ヨルダンさんは体調がすぐれないのかい?」


隊長は楽しそうに笑いながら豚に『青の騎士団』団長について尋ねる。

確かに、まだ30代半ばで大騎士を引退するとあっては体調面が気になるのはお人好しな隊長なら仕方がないことだろう。


「ほほう。貴様もその噂を知っていたのか。2年程前から病気でな。治ると思っていたのだが、なかなか治らないようでな。最近では引退を考えているそうだ。それでだな・・・」


豚はまるで「ここだけの話だぞ?」と勿体ぶってヨルダン大騎士団長の引退と御前試合について話し出した。

隊長はそれを知らないふりをしながら苦笑いで返している。

私やミゲルさん。ガレットなどは今知った風を装っているが、悪いがその情報は私たち全員知ってる。

別に欲しくない。

だから、『すごい情報だろ?』って感じでドヤ顔しないで欲しい。

あと、こっちを見つめるな。

豚の分際で私に興奮しないで欲しい。

養豚場にでも行ってこい。


私はそっと一歩下がってガレットとミゲルを盾にする。

隊長は頑張って豚に話を振っているが、豚はチラチラとこっちを見てくる。

正直気持ち悪い。

隊長、私だけ先に行ってもいいですか?

というか、頑張って話をしなくていいので早くここから去りましょう。

本当にこの隊長は、気が利くのか気かないのか。


「ま、次期大騎士の座は私が頂くがな! 私の雄姿を見ているがいい! ブハハハ!!」


豚は満足そうに笑いながら隊長に宣戦布告をした。

そもそも隊長も出るのに、お前みたいな豚が出て勝てると思っているのか?

いや、その前に豚如きが予選を突破できるのか?

まさか、推薦で本線から出るわけじゃないわよね?

だって豚だしね?


「そこでだ。お嬢さん。どうだね?私と今夜ディナー・・・」


「ごめんよチャール君! 遅刻しちゃうから先に行くね! ほら、みんな行くよ!」


豚が私の前に出てきた瞬間、隊長は間に入って頭を下げると、私を先に逃がしてくれた。

ミゲルさんとガレットが頭を下げて礼をするフリをしながら豚の進路を妨害してくれる。

なんという連携のうまさ!

毎日、連携の確認をしている甲斐があるというものだ。


「ああ! 待ちたまえ!!」


豚が咆哮を上げたところで後の祭り。

私は聞こえないふりをして一心不乱に競歩で逃げた。


彼の名はチャール=フォン・ベリーキッス。

通称ドン・チャール。

二つ名は『肥沃な豚』

現在は私、ミーファのストーカー。

デイビーの騎士学校の同期。

噂では槍の名手。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ