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熊と狩猟乙女  作者: 魔王の善意
熊編
13/41

デイビー=ダビットソン⑬

宴が終わると、部下達はなぜか毛布にくるまってその場で寝だした。


「では、女性陣は部屋で雑魚寝しましょうか。帰るのは明日と言うことで。」


ミーファちゃんがそういうと女性隊員達がメイド達に連れられて部屋へと上がっていく。


「え? 泊まるの?」


「ええ、そう窺っております。部屋がないという理由で一応断ったのですが・・・ 雑魚寝で構わないとおっしゃられまして。とりあえず、毛布のみ人数分用意しました。」


俺の疑問に対して執事のバルトラさんが答えてくれる。

というか、そういう話し合いの内容は俺にも話を通して欲しい。

俺はそう思いながらも部下達を咎めには行けない。

なにせこれからお帰りになるリンディ嬢の見送りがあるのだ。


「それでは、本日はお招きいただきありがとうございました。」


公爵家の令嬢にふさわしい優雅な佇まいで一礼するリンディさん。


「いえいえ、こちらこそ。色々と準備を手伝って貰ったみたいで申し訳ありません。」


そんな彼女にペコペコと頭を下げる情けない僕。


「ウフフフ。これくらいはどうってことありませんわ。では、失礼します」


そう言って笑みを浮かべると、馬車に乗り込み去って行った。

去っていく馬車が見えなくなるまで見送ると僕はバルトラさんやメイド達と共に屋敷に戻る。


「ふう。突然の事態だったけど。乗り切れてよかったよ。」


「ええ、本当に。私もミーファ様よりお話をいただいた時はどうなるかと思いました。」


僕の言葉にバルトラさんが同意して頷く。

その割には、僕に何の相談もなく話を進めていたことには目を瞑ろう。

なんたってリンディさんと明日会う約束を直接取り付けることに成功したのだ。

そう思ってガッツポーズを取った僕。


(ああ、でもなんだろう・・・ 明日の約束、大丈夫かな・・・ というか、どんな服来て行こう・・・ というか、プレゼントは本当にあれで大丈夫なんだろうか?)


「そ、そうだ。バルトラさん。少しいいかな?」


「なんでございましょうか?」


「いや~。そういえば、みんなにお土産があるんだ。ちょっと付き合って貰ってもいいかな?使用人達の数があやふやで数があってるか確認しときたいんだ。」


こんな時こそ、頼れる使用人。バルトラさんにアドバイスを貰おう。

使用人へのお土産とリンディさんへのお土産にプレゼント。渡す前に品を見てもらって必要なら品を入れ替えるのもありかも知れない。

そう思い、持って帰ってきたお土産の下に向かう。


「これはまた・・・」


僕のお土産を見たバルトラさんが驚いている。

なんだろう。何かおかしなところでもあったのだろうか。無性に心配になってきてしまった。


「ど、どうしたんですか?」


思わず、心配になって尋ねてしまった。やはり、事前に聞いておいて正解だったのだろうか。


「ああ、いえ。あまりに数が多い物でして・・・ 一体いくつ買ってこられたのですか?」


目の前にあるお土産の山を見て尋ねるバルトラさん。


「ええっと・・・」


あれ?そういえば、何個買ったんだろう。

あんまり覚えてない。

特産品の多い地方だったからなぁ~。


「リンディさんへのお土産もあるからそのせいじゃないかな? AHAHA・・・」


バルトラさんと眼を合わせない様に彼とは反対方向の斜め上方向を見て答えると、最後は笑って誤魔化す。


「旦那様。いくらなんでもこの量は・・・ それに、ほとんど食材だと見受けられますが・・・。」


「ああ。実はリンディさんと地方の特産品の話で盛り上がってね・・・」


そう言って僕はバルトラさんに夜会でのリンディさんとの会話の内容を話した。

すると、あきれたようにバルトラさんは大きなため息をついて話し始める。


「理解はしましたが・・・ それにしても、数が多すぎでございます。こういった贈り物はただ数を送ればいいというわけではございませんぞ。」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。いくらおいしくとも一度に大量に買ってこられましても、食品には賞味期限がございますからな。期限を超えた物を口にするわけにはいきませんし、期限を超えない様に食すためにも分量を弁えねばなりません。」


「なるほど。」


僕はバルトラさんの指導の下でお土産の数を適切な量になるように調整することになった。

とりあえず、日持ちする物とそうでない物に分けた後で特におすすめのものを少しだけ持って行くことになった。

残念ながら選考から落ちた残りの品は実家やモルダン家に送ったり我が家で食べたりすることになる。


「ふぅ。こんなものかな。」


十数分ほどで仕分けを終えた僕とバルトラさんは使用人たち様のお土産を持ってその場を後にする。


「旦那様。お客様がお見えです。」


すると、部屋を出たところで侍女長に声をかけられた。


「こんな時間に? バルトラさん。何か聞いてますか?」


時間的にもう夜も遅いので後ろにいるバルトラさんに質問する。

こういう時間帯の訪問は事前に話が通っていてもおかしくない。


「いえ、私は何も存じません。 どなたがおいでなのですか?」


バルトラさんは僕の質問に答えた後で、侍女長に向き直って誰が来たのかを尋ねる。


「それが・・・」


侍女長は少し気まずそうに僕とバルトラさんを見た後でゆっくりと答えた。


「マヴィウス公爵家の当主であるアールヴ=フォン・マヴィウス様とそのご息女であるアリスティーゼ=フォン・マヴィウス様です。」


その言葉に僕とバルトラさんは目を見開いて驚いた。

マヴィウス公爵家。

ここ最近まで名前も知らなかった高位貴族だが、最近知った情報を聞く限りではあまりいい噂の無いお家だ。

寧ろリンディさんとお近づきになりつつある僕にとっては敵なのではないだろうか。


「旦那様。」


僕の顔を見てバルトラさんが声をかけてきた。その声は少し怯えが混じっていた。

そのことに気づいて周囲の顔を見れば、バルトラさんも侍女長も青い顔をして怯えていた。

どうやら、『敵』と認識したために余程怖い顔をしていたのだろう。

侍女長なんかは目を合わせないどことか両腕で体を抱いて震えている。


「すみませんでした。では、行きましょうか。侍女長さんは飲み物の用意をお願いします。」


「かしこまりました。お客様は客室でお待ちです。」


僕の言葉を聞いて侍女長さんはそういうと飲み物を取りに行った。

僕はバルトラさんを伴なって客室へと向かう。


「申し訳ありません。少しだけお時間をいただけますか?」


途中、バルトラさんがそういうので少しだけ立ち止まる。

その間にバルトラさんはメモを取り出して何かを書くと近くにいた侍女に渡した。


「お待たせいたしました。」


そう言ってバルトラさんが帰ってきたので改めて客間へと向かった。

さっきのメモはいったいなんだったのだろうか。

よくわからないが、バルトラさんのことだ。

何か手を打ってくれているのかもしれない。

そう思い客室の扉を開けた。


「お待たせして申し訳ありません。」


「いえいえ、こちらこそ。夜分遅くに申し訳ありませんでした。」


僕が遅れてきたことを詫びて一礼すると、男が立ち上がり一礼した。

その隣で同じように女性が一礼する。


(これがマヴィウス家の現当主とその娘か。)


そんなことを考えながら着席を促して、僕もソファに座る。

バルトラさんは僕達と同じタイミングでやってきた侍女長の持ってきたワゴンからティーセットを取り出してお茶の準備を進める。


「初めまして、私がデイビー=フォン・ダビットソンです。」


「噂は聞いておりましたが、本当に立派な体格のお人だ。初めまして、私の名前はアールヴ=フォン・マヴィウスと申します。御存じないかと思いますが、一応は公爵の地位にあり、この国の法務を司る三大公爵家の一つに数えられております。それから、こちらは娘の。」


僕が自己紹介をするとアールヴさんもまた自己紹介を始めた。

確かに、四大貴族と違い法務を司る三大公爵家はあまり表には出て来ないのでそれほど有名ではない。

そして、アールヴさんが娘を紹介しようと視線を向けて言葉を途中で止めたことろで隣にいた女性が声を発する。


「初めまして、わたくしはアリスティーゼ=フォン・マヴィウスですわ。」


この女性も生まれついての気質なのか。英才教育の賜物なのか。

リンディさんに見劣りしない優雅な一礼をしてくれる。

ま、まぁリンディさんを間近で見てきた今の僕ならスルーするのはそう難しくない。


「それで、ご用件はなんでしょうか。」


お互いに挨拶を済ませたので、僕は早速とばかりに本題について促した。

そんな僕の横ではバルトラさんが紅茶とお菓子を出している。


「ええ、実は最近になって実力で貴族になられたデイビー卿にご挨拶を思いまして窺った次第です。」


そう言ってアールヴさんは差し出された紅茶を一口飲む。


「こんな夜更けにですか?」


当然、僕はそんな彼を怪しんで質問を投げかける。

なったばかりの頃ならばともかく、三カ月以上。いやもう僕が貴族になって四カ月にもなるのだ。

それで今更やってきたことに疑問を感じるなと言う方が難しいだろう。


「まぁ、おかしいとはお思いでしょうが、これにも理由がありましてね。モルダン公爵家やその他の四大貴族との合議がありまして、ね。」


そう言って彼はバルトラさんを横目に見る。

その視線につられて僕もバルトラさんを見ると彼は申し訳なさそうに頭を垂れた。


「申し訳ありません。旦那様。実は旦那様が夜会に招待されなかったことや他の貴族の方々が挨拶に来られなかったのには事情がありまして・・・」


そう言って彼は言葉を途中で止めて顔を上げると僕やマヴィウス家の人達を見る。

その理由をここでは話していいのか判断しかねるのだろう。


「すみません。その辺の話を聞いていないので窺ってもよろしいですか?」


僕はアールヴさんにバルトラさんの話を聞いてもいいのか尋ねる。

彼は「構いませんよ」と言って差し出されたお菓子に手を付けだした。


「ではちょっと失礼して・・・」


そう言って立ち上がった僕にアールヴさんは「ここで話されても構いませんよ?」言ってくれたが、丁重にお断りした。

さすがに、人前でそんな裏事情的な話をするのはどうかと思う。

まぁ、僕と違って相手はその裏事情を知ってそうなんだけどね。


それから、バルトラさんと一旦部屋を出てその裏事情を聴いた。

話の内容は思ったよりも簡単なものだった。

単に、貴族になったばかりの僕が『貴族としての礼節や作法を覚えるまでは接触は避けて欲しい』という話がモルダン家から出たらしい。

まだどこの派閥にも属していない僕が何か問題を起こすことを危惧してのことだそうだ。

まぁ、確かに貴族としてなんの作法も礼節も知らない僕じゃ、人知れず失礼なことをしてしまう可能性もある。

それで他家や他派閥と抗争を起こしでもしたら目も当てられない。


そんなわけで、僕はバルトラさんと礼儀や作法を覚える毎日を送り、バルトラさんが合格を出した数日後にすでに顔見知りともなったリードザッハ家の次期当主であるアレックス君の入隊祝いのパーティーが行われた。

正直な話。

あんな微妙な時期にパーティーを行うのおかしいのだが、リードザッハ家としては『リンディ嬢と僕を接近させる』と言う目的と『次期当主があの熊の下で修業に励んでいる』という二つの目的のためにモルダン家に話を通したらしい。

この目的を聞いて僕はアタフタしてしまう。


だって、一つ目の目的である『リンディ嬢と僕を接近させる』ってどう考えてもリードザッハ家公認ってことですか?

そ、そんなまだ心の準備が!!

あと二つ目の目的はよくわからない。

僕の下で修業に励むと何かあるのだろうか?

まぁ確かに、『緑の騎士団』の精鋭部隊に所属したとなれば世間体はいいのかもしれないが、それなら『青の騎士団』に所属した方がより効果が高いのでは?

と、首を捻ってしまう。


まぁ、ともかくとして、そんな理由もあって僕が貴族になってすぐに何の話もやってこなかったのは『モルダン家の気配り』であって『僕が嫌われているわけ』じゃないことがわかって一安心だ。


本当はまだまだ聞きたいことがあるのだけど。

今はアールヴさん達を待たせているので後日改めて聞くことにしよう。


「先程は失礼しました。」


部屋に戻った僕は早速頭を下げる。


「いえいえ、構いませんよ。こちらも、会っても問題ないことを確認後、夜分遅くにもかかわらずこうして訪ねて来ているわけですからね。」


アールヴさんは年齢に似合わず人懐っこい笑みを浮かべる。


「そう言っていただけると幸いです。」


僕は優しいアールヴさんに情けなく笑みを返すことしかできなかった。

聞いていた話だとなかなかの野心家だそうだけど。話してみるとそれほど悪い人じゃないのかもしれないと思えてくる。


「ええっと。それでは夜分遅いですし、顔合わせも終わったのでおかえりになりますか?」


今日は遠征から帰ってきたばかりだし、先程まで宴会もあって疲れているので、用事が済んだのなら今日は帰ってもらおうと話を切り出した。

いや、本当に今日はいろいろあって疲れたので早く僕も休みたい。


「いえ、実は今日はもう一つお話を持ってきたのですよ。」


僕が帰ることを促すとアールヴさんが待ったをかける。


「実は今日急いできたのもその件についてでしてね。」


「はぁ・・・」


どうやら、挨拶は建前でやはり本命の話があるらしい。

それなら、最初から言って欲しいものだ。と思いながらため息ににも似た返事を返して先を促す。


「実は私の娘は今年で二十歳になるのですが、未だに婚約者や特定の相手が見つかっていない状態でしてね。」


ん?

突然何の話だ?


「そこで、今現在相手を探しているのですが、どうでしょう?」


だから何が?


「私の娘と婚約しませんか?」


え・・・?


僕はいったい何の話をしているのか全く理解できないよ。

誰か教えてくれないかい?


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