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熊と狩猟乙女  作者: 魔王の善意
熊編
11/41

デイビー=ダビットソン⑪

その後の訓練も滞りなく進んだ。

訓練メニューの量を僕の隊で合わせるか他の隊で合わせるかについて揉めるかと思ったが、揉めることは一切なく、別の隊のメニューに合わせることになった。

その代わりといってはなんだが、余った時間で狩りをさせてもらった。

他の隊も参加してよかったのだが、彼らは最後まで参加しなかった。

なんだか、僕らだけお金に余裕ができてしまって申し訳ない気持ちだ。


ただ、新人達は訓練にはついていけるが狩猟は苦手なのかあまり成果は出ていなかった。

だが、おかげで新人とベテランとの実力差を見せつける事が出来たので良しとする。

新人達も次の機会には獲物を仕留めると息巻いていた。


明日の演習を追えれば明後日には来た道を帰って遠征は終了だ。


そんなわけで僕は資金に余裕ができたのでお土産の幅を広げようと思う。

ここ数日で既に目ぼしい料理や特産品には目をつけてすでに購入を済ませた。

当初の予定ではミーファちゃんとアレックス君に頼んでリンディさんの好みに合わせて選別する予定だったがすべて買うことができた。

それでも、資金が少し残ったので食べ物だけでなく他に何か・・・

と考えているが、正直何を買えばいいのかわからない。

装飾品は資金面の問題があるので高価なものは買えない。

かと言って安い品を送るのはリンディさんに対して失礼にならないだろうか・・・


だが、悩んでいる時間はあまりない。

明日の昼間に買いに行かなければならないのだ。

昼休みの時間はそれほど長くない。

夕方以降は飲食店以外は締まってしまう。

つまり、今の時間にお店を見て回れないのだ。

おかげで、この時間も何を買おうか迷って歩くこともできない。


「というわけで、何を買えばいいかな?」


仕方なく、僕は宿舎に戻った後でミーファちゃんとアレックス君を部屋に呼んで相談することにした。

リンディさんの弟であるアレックス君に婚約者でもない僕が相談するのはおかしいかもしれないが、アレックス君は快く相談に乗ってくれる。


「姉さんなら何でも喜んでくれると思いますけど、やっぱり形に残るものがいいんじゃないですか?」


「でも、それだとお金がね・・・」


僕は手元のお金を見て少し項垂れる。

お土産を厳選して装飾品を買った方がよかったのだろうか。


「というか、そんなにお土産買ってまだ買うんですか?」


逆にミーファちゃんはそんなに必要ないんじゃないかと言い出した。

まぁ、確かに言いたいことは分かる。

僕の部屋にはお土産に買った特産品が大量にあるのだ。

持って帰るには馬車が必要な量だが、こっちに来る時に輸送に使った馬車に乗せてもらえるので持って帰ることはできる。


「食べ物は家族や使用人にも分けるだろうし、僕の家の使用人の分も入ってるんだよ。」


僕は大丈夫だと豪語して譲らない。

彼女はもう少し食べた方がいいと思うんだ。

少しやせ過ぎな気がするからね。


「そうですか。まぁ、いいでしょう。貢物をして気を引く作戦と言うのもありかも知れませんしね。それに食べ物以外も送ろうという所まで踏み込んだことに敬意を表しましょう。」


「そうですね。遠征のお土産は知人にもしますが、装飾品じゃなくても女性への贈り物となると思い人にしかしませんものね。」


ミーファちゃんの言葉にアレックス君が乗っかってくる。

だが、その言葉に僕は尻込みしてしまう。


(そうか。そう言った贈り物は思い人に対してになるのか・・・)


リンディさんへ何か贈り物をと考えていたが、特産物ならば前回の夜会での約束と言うことで特に問題ないが、思い人への贈り物として品を送るとどうだろうか。

まるで、「あなたのことが好きです」か「狙っています」と好意をアピールしていることにならないだろうか。

その場合、リンディさんが良き友人枠で僕のことを見ていた時、この贈り物を理由に「誤解させてごめんなさい」と言うことになるかもしれない。

彼女は素敵な女性だ。

きっと今も遠くから多くの貴族の男達が彼女を狙っていることだろう。

そんな貴族達に平民での僕が太刀打ちできるのだろうか。


「やっぱり、やめようかな・・・」


そう考えるとなんだかナイーブになってきた僕はついうっかりそんなことを口にしてしまう。


「何言ってるんですか。そんなの認めませんよ。言い出したんですから最後までやりましょう。」


ガッシリと両手で肩を掴まれてミーファちゃんが眉間に皺を寄せた顔を近づけてくる。

その鬼の形相に傍にいるだけのアレックス君が怯えている。


「わかったから、そんなに怒らないでよ。」


僕は彼女を引きはがすと話を戻した。


「香水とかどうですか? 姉さんは妹と違って同じ物を愛用せず、気分に寄って替えているので良いと思いますよ。」


アレックス君の意見を聞いてそれは妙案!と思ったがミーファちゃんが否定した。


「駄目です。安い香水はにおいがきつく品質が良くありません。高級品に慣れたリンディ様に渡しても迷惑になるだけでしょう。」


確かに、高級品に慣れたリンディさんに下手な物を渡しても失礼だろう。

これが位の高い貴族ならば形だけ受け取った後で、捨てるか使用人に下賜して終わりだが、彼女は優しい。

僕に気を使って気に入らなくても使う可能性がある。

かといって安くてもいい品を僕が選べるとは思えない。

商家の息子だが、残念ながら香水の良し悪しは分からない。

化粧品や美容品についても同じでそっち関連は全く分からない。


「商家の息子なのに分からないんですか?」


ミーファちゃんが「使えない」とでも言いたげな眼でこちらを見てくる。

そんなこと言っても僕はお金の計算や文字の読み書き、宝石や食材の目利きは学んだけどファッション関係は勉強していない。

元々後を継ぐ必要性もその気もなかったからそこまで真剣にしていないし、すべてを覚える必要性もなかった。

いや、僕に才能がなかったのが最大の理由だろう。


というか、分からなくてなぜミーファちゃんに僕は攻められるような視線を受けているのだろうか。

さっき自分で「香水はダメだ」と否定していたじゃないか。


「そうなると、やはり小物でしょうね。」


「小物ですか?」


ミーファちゃんの提案にアレックス君が疑問を投げる。

小物を送る意味が解らないのだろう。

確かに、小物って部屋のイメージに合わせて揃えていたりするから相手の部屋がどんなのか分からないとあげ難いよね。

それとも、ミーファちゃんはリンディさんの部屋に入ったことがあって内容を知っているからアドバイスをくれるのだろうか。


「アドバイスはしません。さっきも言いましたが、あなたが選ぶから価値があるのです。送り主が気に入るものを送りたいという気持ちは分かりますが、本人が欲しい物は大抵自分で手に入れます。」


ミーファちゃんはあっさりと僕の期待を裏切った。

そして、僕自身が選ぶことの大切さをもう一度語る。

最後に確かに名門貴族の令嬢ならば気に入った物は何でも手に入るだろう。


「装飾品は名門貴族の令嬢に送るならばそれなりに高価な物じゃないといけません。すでにお付き合いをしている方や結婚して奥方に迎えたのなら普段の家で使用してもらってつけてもらうことができますが、貴族のパーティーなどでしか会わないのならそこでつけて来ても恥ずかしくない品でないといけません。これは衣装や香水もそうです。安くともいい品はその人のセンスによります。センスのいい人なら安さを気にせず良い物を選んで問題ありません。逆に身に付けることでその品が有名になり需要が高まり高級品になることもありますからね。」


そう言ってミーファちゃんは装飾品や香水を送る時の注意事項を述べる。

僕とアレックス君はそれを聞きながらフムフムとメモを取る。


「その点、小物はいいですよ。部屋に置くことを前提としているために部屋に入らなければ見ることができない。つまり、使っているのかどうかを気にしないで済みます。捨てられたり下賜されたりしたとしても送ってしまえば部屋に置いているのかどうかは入るまではわかりませんので、夢を見ることができます。おまけに、これと言ったセンス入りません。なにせ、送った物は基本的に相手の私室に飾られます。私室の内容を知らない以上、たとえその部屋に合わなくとも贈り物だから仕方がないのです。貴族の女性は淑女と言うイメージを両親たちに植え付けられますが私室は憩いの場ですのでその方の趣味で彩られます。外でのイメージや彼女の好みを送っても部屋に会わない可能性は十分ありますし、逆の可能性もあります。故に私は小物をお勧めします。」


ミーファちゃんの演説とも思えるアドバイスは実にそそられる提案だった。

確かに、多少センスが悪くとも小物ならば誰かに見られることはない。

渡した本人と受け取った相手だけの秘密にできる。

リンディさんは送られた物が気に入らなかったからと言ってそれで馬鹿にする人じゃない。


「それはいいかもしれないね。その方向で探してみるよ。」


「そうですか。これ、街の地図と店の位置です。色付けして分かりやすくしましたので迷わないと思いますので、できるだけ多くの店を回って良い物を選んでくださいね。」


ミーファちゃんは僕の返事が気に入ったのか用意周到に準備された街の地図をくれた。

地図には宝石店、装飾店、呉服屋に小物などを売っているお店が色分けされている。

これならば迷う心配も探す手間も省ける。

というか、この地図はいつの間に用意したのだろうか・・・


「ありがとう。参考にさせてもらうよ。」


この地図のことについては聞かないことにした。

僕はミーファちゃんにお礼を言ってこの話は終わり、解散となった。


翌日、演習を前にしてミーファちゃんから少し残念なお知らせが来た。


「申し訳ありません。体調不良で数名の女性隊員が本日の演習に出られなくなりました。」


これにより、我が隊は人数が少ない状態で演習に参加しなければならなくなった。

演習の内容は各部隊同士の練習試合だ。

チームワークと各隊の練度を見るために部隊 対 部隊の団体戦で行われるので相当な怪我人も出て危険だ。

体調不良の隊員は死ぬ危険性もあるので出すわけにはいかない。

男性の隊員ならば「ビビったのか?」と煽って出すこともできるが、相手は女性。

無理に出ろとは言えない。

特に男と違って女性の体調不良の内容は聞くと変態扱いされる可能性があるので、僕の場合はこうして直接言いに来るのではなくミーファちゃんが一手に引き受けている。


「分かった。じゃ、部隊の編成からしないとね。」


こうして僕は朝から抜けた人員のために部隊の再編成をして演習に臨むのだった。

演習は各部隊。

今回ならば『緑の騎士団』『赤の騎士団』『領邦軍』『兵団』の四つが総当たりを行うという極めて激しいものだ。

特に僕達『緑の騎士団』は数が少ないので苦戦を強いられるのだった。


午前中の演習を終えて、僕は昼休みに早速街へと出かけた。

街につくと早速昨日、ミーファちゃんに渡された地図を広げてお土産を探す。

お店に入ると様々な商品群に圧倒されて何を買えばいいのかわからない。


小物と言っても色々な種類がある。

部屋に飾る物であるからぬいぐるみやクッションだけでなく、化粧品を入れるケースや宝石を収納するケースなど様々だ。

花瓶や室内で育てる観葉植物の入った鉢もある。

どれも、部屋に飾ってもいい様に清楚で綺麗にできているので目移りしてしまう。


(でも、僕の部屋にはこういうのがないから、どんな物がいいのかわからないな。)


小物という区切りで商品を探しに来たが、どうもアバウトすぎたようだ。

もう少し絞り込んでくるべきだっただろうか。

とりあえず、あまり大きな物や高価な物は除外する。

高価な物は金銭的な都合で、大きな物は持ち運びの観点からあまりよろしくないだろう。


私室に飾る様の小物ならば運ぶのはメイドか本人だろう。

そうなると、女性でも持ち運びのしやすい物がいい。

植物は世話をしなければならないので向こうのメイドさんの仕事を増やす可能性があるのでこれも除外する。

花瓶も「貰ったら使わなければ・・・」ということを危惧して買わない。

化粧品や宝石用のケースはすでに持っているだろうから買うのはよそうと思う。

すでに気に入った物を使っていた場合に、「貰ったものだから」と渋々使う可能性がある。


そうなるとやはりぬいぐるみかクッションがいいだろう。

ぬいぐるみならいくつもあって問題ないはずだ。

クッションはまぁ、大量にはいらないだろうけど一つぐらいならば増えても問題ないだろう。

そんな風に考えてそっち方面で絞り込んで、いくつかの店を見て回るがなかなかいいのが見つからない。


貴族御用達の店のぬいぐるみはすごく素材がいいのか肌触りも完成度も高い。

だが、高くて買うことができず、かと言って他の店ではそこまで良い物ではない。

リードザッハ家の令嬢に送るには少し完成度が甘いのではないだろうかと思ってしまう。

まぁ、ぬいぐるみの良さが判っているとは言い難いのでなんとなくなんだけどね。


それに、すでに20歳を超えている女性にぬいぐるみを送るのはどうなのだろうか。

少し子供っぽ過ぎやしないだろうか。

そんなことを考え出すと余計に尻込みして買う気が失せてしまう。


「何かお探しですか?」


どうしようかと思いながらウロウロとしていると、店員さんが声をかけてきた。

普段なら買い物をしていても僕の外見を恐れて店員さんが近づいてくることはないのだが、この街の店員さんは度胸があるのかどこに行っても話しかけられる。


「女性への贈り物に何か良い物はありませんか?」


行く先々で店員さんが話しかけてくれるので、最初は戸惑いながら尋ねていた僕だったが、何度も尋ねられるのでもう馴れたものだ。


「そうですね・・・ これなんていかがでしょう。」


そう言って彼女が出してきたのは時計だった。

時計の周りには色鮮やかな花がデザインされている。

時計としてだけでなくインテリアとしても華やかな品物だ。


「時計か・・・ 部屋にあってもおかしくないし、実用的だからいくつかあっても問題ないか・・・。」


既にいくつかの店を回り終えている上に時計を見ると昼休みもそろそろ終わりだ。

品としてもとてもいいものなので「これにしよう!」そう思い購入を使用と先程の店員さんにお会計を願い出る。


「相手に送る時にはこちらの紙に愛の言葉をご記入ください。きっとお喜びになりますよ。」


だなんて恥ずかしいことを言ってきたのでやんわりと否定しておいた。


「まぁ! そんな奥手なようでは相手に逃げられてしまいますよ!男ならビシッと決めてください!」


そういって、女性はなぜか僕に食って掛かる様にレターセットを押し付けてくる。

そんな様子に呆気に取られながら店員さんを見ているとふと気づいた。


「君もしかして・・・」


僕が訝しげな顔で覗き込むと店員さんは「やべ・・・」小さく呟いて視線を逸らした。

髪型と衣装が違うので最初は分からなかったが、彼女はどう見ても僕の部隊の女性隊員だ。

確か今日は、体調不良で宿舎で休んでいるはず・・・


その後、彼女を問いただすと彼女と同じように何人かの女性隊員が午前中に街に繰り出して僕が送る品を前もってリサーチして各店で店員のフリをして待ち伏せしていたらしい。

なるほど、今日やたらと店員さんが話しかけてきたのはそういうことだったのかと思いつつ、嘘の報告をした罪は重い。

午後からの演習では地獄を見てもらおう。

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