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いくらでも卵焼きくらい持ってくるよ

高嶺の花、そんな存在に声を掛けられただけで一般人の自分は、十分幸せだった。それ以上は望んでいなかったのに、どうしてこうなったのだろう?


「私は大地とお弁当食べるんだから、旭は食堂に行けば良いじゃない」

「そんな話聞いてないけど?」

「何でいちいち、旭に話さないといけないの。別に私の勝手でしょ」

「俺が屋上でお弁当食べるのも勝手だろ!」

「もぉ、私がお弁当分けてあげたんだから、偉そうにしないでよ」


璃音に誘われて屋上でお弁当を食べることになったときは、旭がいるもんだと思っていたので、二人っきりと聞いた時は驚きを隠せなかった。まぁ、話を聞きつけた旭も結局合流することになったので、結果的には三人でお昼を一緒に取ることになった。旭の分は、明らかに一人分ではない璃音のお弁当を分けてある。

屋上と言っても、テラス付きでちゃんと椅子やテーブルが設置されており、食事がしやすい空間。秋の日差しが温かく、食後も居座っていたら眠ってしまいそうだ。


「明日からお弁当持ってくるし!」

「じゃあ、明日から食堂に行こうね?大地」

「そしたら俺も行くからな!」

「えぇと…」


お金持ち学校だけあって、食堂はフルコースで出てくるらしい。一般人の金銭感覚では到底行けない場所なので、大地は一度も足を踏み入れたことはないし、これから先もきっとないだろう。お小遣い3か月分は、きっとなくなってしまう。


「大地のお弁当、美味しそうね」


二人の会話についていけず言葉に詰まった大地に、プラスチックのお弁当箱を覗き込んだ璃音が微笑んだ。


「そうかぁ?」

「そうよ。愛情が詰まっているって感じ」

「璃音のお弁当の方が美味しそうだよ。料理人が作ったんでしょ?」


僭越ながら、タメ口の許可が出た(というか敬語だと怒り出してしまう)ので、大地も普通の友達に話すように接するようになっていた。


「まぁね。私は大地のお弁当の方が好きだけどな」


自分の、仕出し弁当のような重箱のお弁当を眺めながら、璃音は笑っていたが、その瞳には少しだけ暗い影が落ちている。二人と一緒になるようになって、彼女の表情の変化に気づくようになった。噂通りの“姫”ではないと。


「良かったら食べてみる?」

「本当?!良いの?」


身を乗り出した璃音は、今度は喜色満面の笑みを浮かべていた。陰りが潜めたことにホッとしながら、口に合うかわからないけど、と青色のお弁当箱を差し出す。


「卵焼き、貰って良い?」

「もちろん。あ、でもうちのは砂糖がメインで入ってるけど…」

「え?卵焼きに砂糖なんか入れんの?!」


大丈夫かな、と聞く前に旭が驚愕に大きな声を上げる。いや、料亭のだし巻き卵でも砂糖は入っているんじゃなかったっけ?そんなに驚かなくても良いのに、と苦笑を零す。


「家庭料理だと、“普通”なの」

「ふーん、なんで璃音が知ってるんだ?」

「女性のたしなみよ。大地、一個貰うね」

「うん」


震える箸、恐る恐る、口に運ばれた卵焼き。砂糖入りなので焦げている時もあるが、今日は見事な黄色だ。お母さん、グッジョブ、と心の中で親指を立てた。


「…やっぱり、美味しい!」

「口に合って良かったぁ」


ゆっくりと咀嚼した後、白い喉を鳴らして嚥下した璃音。まじまじと見つめてしまったことに今更ながら恥ずかしくなり、顔を伏せた。

あれ、璃音が言った『やっぱり』ってどういうことだろう?何処かで食べたことがあるのだろうか。

大地が首を捻った瞬間、懐かしい、と零れた呟き。其れは凄く小さな声で、酷く冷ややかで、水面に波打つ波紋のようだった。


「へぇ、じゃあ俺にもくれよ」

「駄目よ、大地の分が無くなっちゃうじゃない」


今度は楽しそうな声音、先ほどの言霊は、風が運んできた空耳だったのかな。


「えー、ケチー」

「じゃあ、また今度ね」

「約束だぞ!」


旭の一方的な言葉に、頷いて見せた。

璃音を通して、旭と共にいる、そうすると自然に彼らに守られることになる。一般人の自分には何の後ろ盾もないが、名家の“友達”と言う武器が出来るのだ。其れは皆が望んで手に入れられるものではない。

二人といると、随分呼吸が楽になり、クラスでの振る舞いを気にしなくて済む。有難いことだ。




卵焼きエピソードについて

作者は関東人のため、家の卵焼きは砂糖入りでした。

(醤油や塩コショウ入りの時もありますけどね)

砂糖入りに違和感を覚える人もいるかと思いますが、地域の食文化の違いということで、ご了承ください。

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