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まずは出会います

私立鳳凰高校はその昔、皇族や華族が通ったとされる。幼稚園から大学までの一貫校であり、現在でも名家の出身の者や資産家の子息が多い、ドラマの設定ではなく本物のセレブ達が集まる学校である。

名のあるこの学校に入ろうと、僅かにある一般受験枠を目指し、切磋琢磨をして勉強する学生も多くいるのが特徴だ。そんな一般人は入学後に絶望を覚える。苦労して入った煌びやかな世界は、家柄や血筋、財力と言ったバロメーターで構築された、確固たるヒエラルキーが既に存在するからだ。新参者で一般人である編入組は、自然と最下層に組み込まれてしまう。勉強や運動、芸術と言った分野で何か秀でていなければ、特段目立つこともなく高校生活を終える。

そんな一般人の相原大地は溜息をつく。


「なんだよ、これ」


このクラスのムードメーカーで溌剌とした性格を表す赤髪と、切れ長の瞳を持つ日向旭が呟いた声に思わず苦笑が零れた。黒の瞳と髪の自分とは正反対の存在に、見ればわかるだろ?と言おうとして、そんなに親しくもない彼に八つ当たりみたいな感情をぶつけるのもどうかと思い、やめる。

机の中身が散乱していた、教科書やノート等、全て自分の私物。唯一の救いは、水や墨をかけられた訳じゃないことと、ポエムや交換日記等やるタイプではないので、見られても良い物ばかりだと言うこと、ぐらいか。体育の時間が終わり、クラスメイトが続々帰ってきては、足を止め、此方を伺う視線が鬱陶しかった。ここで泣きわめいたり、怒ったり、何かしたら相手の思うつぼなのだろう。冷静に分析している暇があるなら、いち早く片付けるべきだな、膝をついて拾い始める。床に散らばったプリントやノートを揃えながら、皆の視線から顔を隠すように俯いた。幸いにも長めの前髪が、見たくないものを遮断してくれた、早く集めないと、焦る気持ちとは裏腹に、時間の流れがゆっくりと感じて、もどかしい。皆、何処かに行って欲しいのに、野次馬は増えるばかりだ。


「こんな陰湿なことやるぐらいだったら、名乗り出ろよ!俺が相手してやるからな!」


旭が唸るように叫んだ。正義感溢れる瞳に、誰もが押し黙る。編入組に至っては大地と同じく目線を落としていた。こんなことは日常茶飯事なのだ、最下層の人間にとっては。

体育の後片付けをし、すぐに着替えて戻ったのに、いつもはお喋りをしてゆっくりと戻ってくる旭が、何故か誰よりも早くクラスに着き、発見してしまった。

どうせ誰も名乗り出ないし、先生に言ったところで、何にもならない(もし何かしてくれても揉み消される)ことを知っているだけに、此方の都合で申し訳ないのだが、大声で騒がないで欲しい。そんな事情を知らない彼は憤慨して見せる。それは最上層の許された特権。


「大地!お前も何かされているなら言えよな!」


クラスメイト達に聞き取り調査を勝手にし始めた旭を、皆が面白がって囃し立てる。其れを眺めながら頷くことは出来なかった。そんなこと言われても。


「そんなこと言われても出来るはずないのにね」


騒がしい教室で、自分にだけ聞こえる冷ややかな声が脳裏に響く。自分の思いが口に出てしまったのかと、焦って顔を上げると。


「どうぞ」


いつの間にか、教科書やノートを拾い集めてくれた少女がいた。彼女の名前は宮内璃音。日向旭の幼馴染で、化粧品ブランドを牽引するメーカーのお嬢様。人目を引く美貌の持ち主だが、傲慢さはなく、小さく微笑む姿が似合う、大人しい性格。ムードメーカーかつトラブルメーカーの旭が大きくしてしまう火を、いつも消火するのが、彼女だ。成績も優秀なので、生徒会からも役員をやらないかと誘いがあるそうだが、自分には身に余ると言った理由で断ってしまうので、その控えめな態度も男子生徒から人気になっている。

ちなみ日向家は誰もが憧れるバッグのブランドメーカーの(あぁ見えても)御曹司。クラスメイトとは言え、この二人に声を掛けられたのは初めてのことだ。よりにもよって、こんな現場を見られてしまうとは。


「ありがとう…ございます」


ゆるりと長い睫毛が持ち上がり、澄んだ瞳に、写り込む自分を見ていられなくて、手元へと視線をずらす。白く細い指先が自分の物を大事そうに触れているのを、不思議な思いで見つめながら、紙の束を受け取る。

同い年なのだから、敬語もどうかと思うのだが、最下層の人間としては何が不敬に値するかわからない上流階級の人間に対して、一線を引いてしまうのが常だった。

先ほどの声は彼女だったのだろうか、いや、そんなことがあるはずはない。

にこり、と笑みを零す青色の瞳はうつくしかった。


「良いのよ、別に敬語じゃなくても」

「あ…はい」

「だから良いって言っているでしょ」


想定外の言葉に、上の空で返事をすると、ころころと笑われた。クラスメイト達の下卑た其れではなく、何処か気安さがあって、心地が良いものだった。

最上級と呼ばれる人間なのに、自分の為に床に膝をついてくれる、その優しさが眩しい。自然と、上がる口角に、初めてこの高校に来て良かったと思えた。


「あ!璃音!お前またライバル増やしやがって…!もうやめろって」

「何のこと?」

「裏で“姫”とか言われてるけど、全然違うんだからな!調子に乗るなよ!」

「だから何のこと?!いっつも変なことばっかり言うんだから、旭なんて知らなーい」


旭を騒ぎ立てると、璃音はあっさりと自分の席に戻っていく。先ほどの態度とは違い、子供っぽさが滲み出る其れは、幼馴染特有のものだ。

そして旭が璃音のこととなると、意地になってトラブルを起こすとは有名な話である。彼女だけは知らないみたいだが。



短編として作成しましたが、思った以上に長くなってしまったため、連載にしました。

転生悪役令嬢の設定を生かしきれないと思いますが、お付き合い頂ければ幸いです(ぺこり

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