2話 始まりの予感
俺がヒーロー活動をはじめてから次の日の朝
久しぶりに家族だんらんで朝食を囲む。
新聞を広げた親父は俺の学ラン姿を見て一言。
「今日は学校に行くんだな」
横目に嫌味のように言われたが……
長く学校を休んでいた俺に、その一言で済ませてくれる親父に文句などいえない。
「優くん、また具合が悪くなったら言うのよ」
親父の言葉を消すように言ってくれる母には愛を感じる。
具合を気にしてくれる母さんだが、多分俺が学校で虐められて登校拒否になったと勘違いしている。
そんな事を気にするたまでは無いことは十分知っているはずだが……
でもその心配は俺のため。
母さんを安心させるために俺は何か言わなくてはならない。
「ありがとう……もう大丈夫だから心配しないで」
本当にもう問題ない。
幼馴染にことは……うん、大丈夫だ。
「…………」
黙々と食べる朝食。
こんな時の俺は別に話さなくてもいいのだと、割り切っている。
多分両親も同じ考えだろう。
家庭が冷え切っている訳じゃない。
話題がないのなら無理に話さなくてもいいという暗黙の了解があるだけ。
相手への思いやりの結果だと思って欲しい。
それに親父だって俺の事を尊重して、理由も聞かずに学校を休ませてくれていた訳だし。
別に放置されていたなんてそんな事は……無いと思いたい。
ふと親父の読んでいる新聞の見出しが目に入る。
内容は『都心近郊で増える犯罪!こんなやつには要注意!』その後に昨日の俺が助けた女性の記事が書かれていた。
そんな時、母さんが沈黙を破るようにテレビのニュース番組を付け。
コメンテーターが何かを喋っていたのだろう、その一部が耳に入る。
(でもまだ捕まって無いんでしょ? もう一人の赤いタイツ男。早く捕まって欲しいですよ)
「…………」
赤いタイツ……それは紛れもなく俺の事。
俺は昨日、大失態を犯した。
ビルに突っ込んだ後の俺は時間を少しオーバーして、何とか中年男に襲われた女性を助けた。
女性は転んだ時のカスリ傷ををしていたが、それ以上の乱暴された痕跡は無く。
完全では無いにしろ未然に防げた。
ただ……そこまではよかった。
その後に運悪く巡回していた警官に、錯乱した女性を介抱しているのを見られ、強姦と勘違いされた。
まさか昨日の今日でニュースのネタにされるとは……情報社会の恐ろしさを体感した。
”あの時早く向かっていれば襲われる瞬間に助け出せたと思います”
直接頭の中にささやきかけてくる女性の名前は紅穿
紅穿は俺の脳内彼女……じゃなくて。
戦闘服についてきたサポート用のAI。
彼女が言いたいことは俺がマンションの上からもっと早く飛んでいればと言う事だ。
だが忘れないで欲しいのは、あの時ポップアップに邪魔されなければ俺は時間通りにあの場所に行けた。
にしてもAIなはずなのに愚痴とは……
でも公園に設置されていたカメラに姿が映っていたらしいが、紅穿がそれらの情報を隠蔽してくれていた。
さすがアシストというだけはある、彼女がいなかったら俺はヒーローを初日限りでやめていた。
”それと……あ、早くした方がいいです。今、間に合うバスを逃しますとその次のバスが今日だけ遅れる確率が異常に高いです”
これは紅穿の能力で未来演算。
彼女は様々な情報端末をハッキングし、情報を収集することで未来予測を可能とする……らしい。
信じる信じないは俺次第だが、昨日の事で十分理解している。
否定した所で何の特もないと。
俺は長く学校をサボっていたせいで、一日でも欠席はおろか遅刻をすれば留年の恐れがある。
だから早々と朝食をすませ、片手に学生カバンを持ち、行ってきますと言ってから家を出た。
「バスが遅れる理由って何だ?」
歩きながら頭の中の紅穿に聞く。
”色々な要因がありますが、一番として挙げられるのは春先で、バスの新人運転手が道に慣れておらず、学校へ向かう際に道を間違えることから遅れる事になります”
「ほー……」
信じると言った俺は、それでもどこか信じれない自分がいる。
実は今日の朝も夢オチでしたなんて思ったりもしていたが、脳内の彼女が起こしてくれた事で朝一番に現実に引き戻された。
”まだ疑っていますね。では今から予測しましょう……二つ目の右の曲がり角から水色のトラックが出てきます”
「…………」
少し歩いていると確かに水色のトラックが出てきた。
だがこの程度はGPSを駆使すれば推測出来る範囲。
続けて紅穿は言う。
”次の信号で止まる車の数は右に3台、どれも軽自動車で黒、黒、白の順です。それと左からおじいさんが犬の散歩をして歩いてきます”
また少し行った先の信号に差し掛かかり、青になるのを待つ。
切り替わると確かに言われた順に自動車が止まり。
いつもこの時間に犬の散歩をしている爺さんとすれ違う。
ま……まぁこの程度だったら……まだ分からん。
”次の右に曲がった突き当り、歩道橋の影に女子高生がいます”
紅穿の一言に足を止めかけた。
「それはないだろ」
即、否定。
”女性の名前は早乙女彩音。歩道橋の柱の影で赤橋優人様をお待ちです”
「いや、そんな事はないから! 俺を待ってる?……やめてくれ」
早乙女彩音は俺の幼馴染で、同じ高校に通っている……が、こいつには彼氏がいる。
サッカー部のエースで……超がつくほどモテる先輩。
先日彼女の教室でたまたまそれを目撃した俺は、ショックのあまり学校に行けなくなった訳で…………
それなのに何で俺を待っているとか……無いだろ。
「…………」
「ゆうちゃん、具合大丈夫?」
悲しい事に紅穿の言ったとおりに早乙女彩音は居た。
大丈夫? なわけない……初日から顔を合わせるなんて。
今日は何時もより早くに家を出たから居る訳はないと思ってた。
だから躍起になって否定した。
でも居た。
そうか、あの先輩と待ち合わせしてたのか。
適当に納得をして、心の傷口が疼く。
何も言わず通り過ぎる事にしよう……これ以上考えると本当に辛い。
「待って……どうしたの?」
どうしたのって……こっちが聞きたい。
何で追いかけてくるんだ。
本当に俺を待っていた様に見えるからやめてくれ……
惨めな気分になる。
「ゆうちゃん!」
後ろから腕を掴まれた。
柔らかい手だ。
この手があんな野郎に触れたと思うと……クソ。想像しただけで虫唾が走る。
硬直する顔の筋肉、俺は奥歯を食いしばりながら言う。
「彩音……その、何だ。俺なんかに構ってたら先輩に申し訳ないんじゃないか?」
振り返って面と向かってはい言えなかった……情けない。
それでも言っちまった。
自分言って何だが……グサリと心に突き刺さる……はぁ……痛え。
彩音の手の力がぬけ。
再び歩きだそうとした。
その時。
”赤橋優人様、待ってください。彼女は何か言おうとしています。それに困惑した表情を解析したところ、高確率で誤解が生じている可能性があります”
「……なんだよ誤解って」
”そこまでは分かりませんが彼女の話を聞いてあげるべきだと、思います”
さすが完全自立型AIとやらは違う、まさかここまで個人として意見されるとは思わなかった。
”具体的に何をするわけではありません、ただ聞いてあげてください”
すでに見えているバス停へと向かう足を……止める
でも振り返れない……
じっと待つというだけなのに、俺の脆い不屈の精神が歩きだそうとする。
早くなんとか言ってくれ……
待っていると後ろから急に手が伸びてきて、柔らかい手で抱きしめられる。
胸が詰つまり……持っていたカバンも手から落ちる。
すすり泣く幼馴染の鼻音。
彩音の声が聞こえてきた。
「ゆうちゃん……あの時わたしを迎えに来てくれたんだね。嫌な物見せちゃってごめん。でも……違うの。寝て起きたわたしに無理やりあの人が勝手にしただけなの。ごめんなさい……気がつけなくて。ゆうちゃんはいつもわたしの事を気にかけてくれてるのに……私……」
「…………」
強ばっていた力が抜けていく。
それとは別に切ない気持ちがこみ上げてくる。
ああ、本当に……紅穿の言った通りだ。
ちょっしたボタンの掛け違い……
一人で勘違いして引きこもって。
なんて間抜けなんだ。
一言でもあいつと付き合ってるとか聞いたか? 言ってないじゃないか。
彩音も辛かったのに……俺ってやつはヒーローになれたとか浮かれてて……クソ。
でも……やり直していいのか?
声をかけて良いのか?
こんな俺でも受け入れてくれるのか……
でも彩音は今、俺の背中で泣いている。
よく考えろ……ぶれるんじゃねえ……それだけで十分じゃないか。
「…………ごめん彩音。お前も辛かったのに一人で勘違いして」
「ううん、私もボケっとしてて……前々からしつこい人だとは思ってて。でもこれ以上ゆうちゃんに迷惑かけられないと思って言えなくて……そしたら無理やりあんな……」
彩音は声を押しこらえて、それ以上潰した言葉は発音されない。
思い出すのも嫌なことなのに……
……無理やりと言う単語に殺意が沸く。
それを気づけなかった自分に反吐が出る。
絶対に許せねえ。
抑えきれない衝動に拳に力がこもり、自然と体重を前にかける。
「ゆうちゃんだめ!……いっぱい欠席してて、下手なことしたら留年しちゃうよ!」
彩音は長年の付き合いなので俺の行動を理解しているし、今の俺の感情も分かっている。
「じゃあどうしたらいい? お前がこんなに悲しんでて、何もしなかった俺はどうしたらいい?」
「…………こっち向いて」
言われた通りに後ろを向くと、涙目で鼻をすする彩音が上目使いで立っていて。
「…………!」
不意だった……怒りで沸騰仕掛けていた頭の中が真っ白になる。
目の前にあるのは彩音の顔、唇に重なる温もり……
初めてのその感触が、どんな衝撃よりも強く、全身を貫いた。
「な……んで?」
唇が重なっていた時間はごくわずか。
目の前にいる彩音は涙しながら微笑んで言う。
「私、ゆうちゃんが好きだから」
ハニカミながら言う言葉。
何かを上書きするような行動。
でも俺だって……ずっと……
「……お……俺もだ」
本来なら俺が先に言うべき言葉だった。
早く言っておけばこんな事にもならなかった。
彩音が傷つくことは無かった。
そう思うと、周囲の目など気にも止めずに、俺は大切な幼馴染を抱きしめていた。
バスが出発しかけていたが、なんとか遅れずに乗り込む。
これで紅穿が言っていた事が本当なら遅刻することはない。
変わらない一緒の通学路だが今日は違う……いや今日からは違う!
紅穿が居るからとかではなく。
となりから感じられる、何時もより温かい人肌。
彩音は何も言わずに俺の腕にくっついている。
じっと離さないと腕を絡め。
もちろん俺の腕は彩音のその胸に挟まれているのは言うまでもない。
むず痒くも感じるが、しっかりとこの手を握っておこう。
離さないように……
揺られるバスの中、俺は小さくつぶやく。
「……ありがとう、紅穿……」
”私は赤橋優人様のアシストAIです。様々なサポートはもちろんの事、精神ケアも行います”
毎度言われるフルネームと最後の様というのが慣れない。
今後ともヒーローとしてやっていくのであればもっとラフな関係がいい。
「……その、なんだ。様とかやめてくれ……名前もただの優人でいい」
”では優人……いえ優人さんとさせてください”
紅穿は本当にAIなのかと疑いたくなる、なんで俺の下した命令に意見を述べるんだ。
でも、そのおかげで誤解が解けたわけだし……悪くないと思うことにしよう。
「……それでいい……」
”再認証しました。それでは提案なのですが優人さん、このままだと少々話づらいので精神共有レベルを一つあげる事をおすすめします”
精神共有……ってどういうことだ?
「……まあ、好きにしろ」
”はい……調整が終わりました、以後、精神共有で表層の意識を共有します。確認のため何か言ってみてください”
そうか、声に出さなくても、考えるだけで喋れるのか。
”…………そうだな。じゃあ改めて言わせてもらう。本当にありがとう。お前をおかげで上手く行った。今後一切疑ったりはしない”
”…………”
紅穿は何も言わなかったが、照れているようにも思える。
これでちゃんとしたパートーナーとして紅穿を信頼出来るようになった気がする。
でもこれはまだ始まりに過ぎない。
改めて晴れ晴れとした気持ちでヒーローとして俺は活動が出来る。
今の俺は最強だ! なんてたって手を繋いでいるんだ。
もうヘマなどはしない、少しでも世界から悪を消せれば良い。
そんな決意を抱いていると、通う高校の前にバスが止まった。
学校の門をまたいでも彩音とはずっと手を繋いでいた。
視線が刺さる。
なにせ俺の隣にいるのは、この学校で一番のといって言い程の美人。
そんなアイドルが俺と手を繋いでいれば、見られるのは当たり前。
別にそれが気になるわけでもないし、バスを降りる時に彩音は『やっぱり手を繋いでたらまずいかな……』なんてい言ったから、俺は何も言わずに手を強く握ってやった。
俺はそんなつまらない理由で彩音の手を離しはしない。
やっと掴んだ手だ。
下駄箱につくと、ヒソヒソと話し声が聞こえるが全てどうでもいい。
そのまま自分の教室まで、彩音の手を離さなかった。
「じゃあ次は昼休みだな」
「途中の休憩時間で来ちゃダメかな?」
「授業の支度して余裕があれば……」
自分で言うのも何だが……むずがゆい。
ここは俺の教室の前。
いつもと違う雰囲気の俺達に教室の中から視線が飛んでくる。
実は今までにこんな会話は日常的にしていたような気もするが……意識するとなんだか気恥ずかしい。
そんな俺が頬を掻いていると、また彩音は俺を抱きしめてきて、すぐに離れた。
その行為に何の意味があるか分からないが、彩音は笑いながら自分の教室へ歩いていく。
彼女の背中はリズムを刻み上機嫌。
さっきまで泣いていたのが嘘のよう。
振り返り教室入ろうとした瞬間、3人の男子共が俺の前を阻む。
「どどど、どういうことだ!! なんで早乙女さんがお前なんかを抱きしめた!!」
メガネをかけた背の低い男子は卓球部、副部長の山田隆二。
そういえばこいつには彩音と俺が幼馴染と言う話もしていない。
「てかお前、急に登校してきたとおもったら、手を繋いでラブラブしやがって! 何があった!?」
次の中肉中背、目が開かない男子事、佐藤砂山。
詳しく知っているという事は、ここから登校途中の俺達を見ていたらしい。
ちなみに中学からの知り合いだ。
「あれ? でもサッカー部の部長と付き合ってるなんて噂があったような……」
そして最後に背の高い新聞部員の鈴木五郎。
どんな噂もこいつの耳に入るが、今その事を聞かされただけで怒りがこみ上げる。
だが今は大人しくしていないとまずい。
せっかく彩音が俺を冷静にさせてくれたから。
もし俺が激情をぶちかましながら上級生の教室に殴り込めば、停学と留年のダブルパンチ。
下手をすれば退学だ。
紅穿と相談でもしながら今後の復讐でも考えよう。
俺の正義に反さないぐらいに……だ。
ただその怒りをすこし発散させたくて、つい口が滑る。
「彩音とは両思いだったからな。ちゃんと付き合う事になった」
キスもしたは流石に言えなかったが、それだけでもこの三人には十分なダメージ。
石のように動かなくなったのを確認して、となりを通る。
窓際の前から2番目、それが俺の席。
カバンを机の横に引っ掛け。
紅穿と今後の復讐もそうだが、ヒーローとしての相談を始める。
”なぁ、今後の活動としてヒーローを続けていくわけだが。俺がここにいる間に事件が起きたらどうやって向かうか相談しないか?……”
はたして授業中に抜け出すなんて出来るのだろうか?
まさか等身大の自分ソックリのロボットをナノマシンで作るとか……いやいや、昔のアニメじゃあるまいし……それはないか。
”変身していないのであれば、処理能力が比較的に上がりますので、それを利用してみるのはどうでしょう”
処理能力を上げて何するんだ? ……てっあれ? 俺の考えている事まで読めてる?
”察しがつく程度には”
「聞こえてんのかよ!」
つい叫んでしまった。やばい……
先程から注目の的だった俺は激昂を飛ばしたと勘違いされ。
周りの生徒は急に視線をそらす。
やっちまった……
”まあいいか……その処理能力をあげて具体的に何をするんだ?”
”日本全土の情報を統合して、警察無線を傍受し犯罪を未然に防ぎます”
”すごいな……じゃあとりあえずそれをやっておくか”
”了解しました”
これで俺が活動してない間でもある程度は平和が保たれる。
丁度会話も終わるとチャイムがなり、見計らったかのように教師も入って来た。
今だ石化した三人を教師は一瞥してから通り過ぎ、何事も無かったかのように点呼を取り始める。
点呼をとって居る最中、気のせいだろうか……早速遠くで警察のサイレンの音が聞こえた。
何時もより警察の音が五月蝿い外を眺めつつ、一限目は紅穿と復讐について話し合う。
未来予測によれば……このままだと俺は昼休みにやつらに呼び出されるらしい。
もしそこで俺が暴行事件に巻き込む、もしくは巻き込まれる状況になると、どちらも俺は留年になる可能性があるらしく。
真っ当に相手をするわけにはいかない。
とりあえずはその回避策として上がったものの中で、一つ。
奴らの弱みを握り、暴露するという案を通すことにした。
あまりにも紅穿頼りな気がして、情けない話だが。
俺はその案を聞いてニヤける口が止まらない。
なにせ紅穿はあらゆる情報端末にハッキングを仕掛け、情報をとってくる。
情報化社会でこんな事をされれば、奴らはすでに丸裸も同然。
”すぐに、取り掛かれ”
”はい…………解析終了……こいつらは腐ってますね”
ん? もう終わったのか……恐ろしく早い。
にしてもあまり仕入れたくない情報だったのか、紅穿が初めて悪態をついた。
どんだけヤバイ情報なのだろう……
”それって今見れたりするのか?”
”はい、優人さんの視覚情報に割り込み、情報の開示が可能です”
紅穿が言ったそばから目の前に半透明のウィンドウが表示される。
”開きたいと思った情報を拾います、慣れるまでには少々時間がかかりますが。頑張ってください”
何故そこは投げやりになるんだ……分からん。
扱うのは確かに少しコツがいる、ファイルを開くだけなのに行ったり来たり。
授業時間の半分を使い、やっと中身が観れる。
まず最初に映像が飛び込んでくるが……どれもいい物ではない。
モザイクがかからないと見れないような動物の死体やら、女子生徒の裸体や暴行……鬼畜の所業が映し出されている。
学生にしては行き過ぎている……
これだけやっていてバレない物なのか……
その中にターゲットとなる女子の名前が書いてあり、彩音の名前も入っていた。
”すまん。こんなの見たくないよな。匿名で即警察と学校に連絡を入れてくれ、あとなるべく女子生徒の画像は特に加工して……”
最初から何発かぶん殴ってやりたい気持ちもあったが。
俺の手の届かない話になった。
こんなものでは本当に気が収まらないし、こんな形で終わるのが許せない。
復讐が虚しいなんて言う奴が居るが、俺は逆に腸が煮えくり返りそうだ。
15分ほど頭の中で考えられる拷問をできる限りシュミレートする。
そんな怒りに震えていると、優しい手が俺の手を掴んだ。
いつの間にかチャイムは鳴り終えて
1限目授業は終わり、短い休憩に入っていた。
そして心配そうに彩音が俺の顔を覗き込む。
「具合やっぱり悪いの?保健室行く?」
その声に強ばった肩の力を抜く……
どうやら張り詰めていた俺の表情が具合が悪いように見られ。
彩音に不安の表情を作らせてしまった。
「いや、大丈夫だ。それよ」
(サッカー部に所属する部員は職員室へ集まりなさい。もう一度言うサッカー部に所属する部員は職員室に至急集まりなさい)
唐突校内放送だったが、対応が早い。
「ん? 何があったんだろ」
「彩音が気にすることじゃない」
本当に気にすることじゃない。
多分気にしてしまえば彩音は思い出し悲しむ。
そんな顔だけは見たくない。
せめて今だけは……
「えー、突然ですが今日の所は学校はお休みになります。明日も休校になる恐れがあるので、その時にまた連絡が入るので注意しておいてください」
久しぶりの登校。
2時限めにして学校が休校になった。
それもそうか……あんな集団事件が警察や報道機関にばれれば授業どころの騒ぎではない。
紅穿もそのぐらいの事は予想していたのに言わなかった。
多分分かっていたのに俺に教えなかった。
そんな気がする。
でもこうなる事は分かっていても俺はやっていた。
教師の言葉に疑問を投げかける生徒もいたが、休校となった事で大半が喜んでいる。
ただ全貌を知っている俺は喜べない。
むしろそんな彼らに苛立ちさえ覚え。
本当の事を暴露しようかと思ったが、そこまで愚かな行動は取らない。
帰りのホールームが終わり。
身支度を済ませ、廊下に出ると。
彩音のクラスは早めに終わっていたのか、既にいた。
「まだ午前中だし、どこかよってくか?」
「うん!!」
気晴らしにと思い、今日は彩音を連れ夕方まで遊ぶ。
ちょいちょい警察車両が視界に入るのが後ろめたいが。
彼らの本来の仕事だ。
何も問題は無い。
夜…これからが俺のヒーローとしての時間。
真っ暗な摩天楼の上。
昨日とは違い俺は戦闘服を着ていない。
春先で冷たい風が吹く……
それでも紅穿を取り入れている事で体、内の温度管理がされ寒くはない。
この摩天楼から見える街並みが昨日とは違う、多分警察車両が多いからだ。
実は今もまだ紅穿に警察無線を傍受させている。
なにせ日本全土だ。
これをやめてしまえば、少しでも悲しむ人が出るのは必然。
俺一人で全てを助けるなんて不可能だと理解していた。
警察をフルに活用するのも手段の一つ。
せめて彼等が手に負えない事件を担当するのがヒーローとしての役目だと割り切った。
俺は事件が起きないかと待っているのだが……起きるわけがない。
こんな状況下で本当に警察が手に負えなくなるような事件が起きるのだろうか?
多分それも紅穿が動かせば未然に防ぐ。
やばい……俺もしかして……いらない子?
今もまた視界に映る都市のマップには黄色い点が白い点と重なり赤くなる……そこで青い点が追いかけて赤い点と重なる。
このマップの意味している構図はこうだ。
白色の点は一般人
黄色い点は犯罪を犯す手前の要注意人物。
赤色い点は罪を犯している人。
青色の点は警察……
まるでゲームを見ているようで。
青い点を動かして、黄色が赤に変わった瞬間に。
自動的に青は追尾する。
もはや俺の出番など微塵もない。
二日目にして俺の存在価値が無くなった。
”……やめましょうか?”
「いや、続けてくれ。俺がいなくても大丈夫ならそれでいい……それに越したことはない」
別に誰かに見られたくてヒーローをするんじゃない。
戦闘服を着る理由は彼らを常に救いたいと言う意志だ。
初日はテンションが上がってしまいやらかしたが。
そんなヘマはもうしない。
だから今もかたずを飲んで見守っている。
「…………」
”…………ブラックポイントの出現を確認、第一禁じ項目の開示が可能となりました”
「…………は?」