……なん…だ…と?
「はあっ!!」
バシュッ!!
「トウッ!!」
ザンッ!!
次の日、街から出た勇者パーティー一行は先ず、互いの力量を知るために冒険者ギルドで魔物討伐の依頼を受けていた。
四人が近場の森に入り、二手に別れてから数時間後。
冒険者組(ウィン、アリス)は、勇者組(ナタリー、チェル)が狼の様な大型犬大の魔物__魔狼の群れを倒して行くのを少し離れた場所で見ていた。
見ていたと言ってももちろん魔狼はそんなこと御構い無しに襲って来るので時々戦闘はする。
しかし飛びかかってくる魔狼全てをウィンとアリスが交互にほぼ一撃で屠っていたため、戦闘(と言う名の無双)があったのは最初だけで現在魔狼はウィン達よりも弱いであろう勇者組の方へと流れて行っていた。
「ねえウィン、ナタリーちゃんがへばってきてるわ」
「かーっ、体力ねえなぁ……大丈夫かあんなんで。アリスの方がまだマシな動きするぞ」
「……あなたの基準がおかしいのよ」
「……なん…だ…と?」
アリスは魔導師なのでやはり動きがウィンよりも鈍いのだが、それでもウィンについて行っていた分、他の魔導師や剣士を圧倒出来る程には体力もスピードもついているのだが、ウィンに言わせるとまだまだらしい。
なんせウィンは下手をすると一日中山の中を走り回って討伐対象を探し、その上で討伐を成功させるといった普通ならあり得ないようなことを時間の無駄だといったような理由でサラリとやってのけるのだ。
そんなある意味化け物であるウィンについて行けているアリスもアリスで、規格外なのは当たり前の事であった。
「まっ、まああの年であれだけ動けてれば上出来なんじゃねえの」
視線を泳がせるウィンをアリスがシラーッと見つめると、ウィンは引きつった笑みを浮かべてナタリーを褒めた。
と、劣勢の勇者組がアリスの目に入る。
「そろそろ助けましょうか。チェルがナタリーちゃん庇っててキツそうよ」
「おおっ、本当に庇ってる。流石騎士、かっくいー!」
「ふざけてないで、ホラ行く!!」
「あいよっ!っと」
軽いノリでウィンが駆け出す。
ウィンが大地を蹴るたびに土が爆ぜ飛び、ウィンはあっという間にナタリー達を囲んでいる魔狼の群れに到達する。
そこからはウィンの一方的な蹂躙だった。
頭をかち割り、首をへし折り、頸を飛ばし、腹を突き。
あっという間に狼の死骸が量産されていく。
辺りにはキツい血の匂いが立ち込め、次第に魔狼が怯え始める。
普段なら普通の狼とは比べ物にならない程見事な連携で旅人を翻弄する魔狼達。
ナタリーの様に体力が尽きるまで追い詰めてから捉え、貪るのが習性。
本来魔狼の毛や皮膚は硬く、容易く断ち切れる様なものではないし、無理に切るとあっという間に剣が使い物にならなくなる。
寧ろ初心者にしてはナタリーは良くやった方である。
しかし、今回は相手が悪かったのだ。
ウィンの剣に関するテクニックに加え、化け物じみたパワーにスタミナ。
ドラゴンをも殺めるそれらは魔狼如きでは相手にもならなかった。
ある程度数を減らしてからウィンが他の魔狼よりも一回り大きい一匹をわざと殺さずに蹴り飛ばす。
キャインと悲鳴の様な声をあげて吹き飛んだそいつは地面を転がり、それが止まるとしばらくは立つことができずにフラフラしていたが、立ち上がれる様になると一目散に逃げ出した。
するとそれを皮切りにして魔狼全体が文字通り尻尾を巻いて逃げ散った。
「何だ、群れのリーダーだったのか」
まあウィン自身は『何かデカいのが邪魔臭ぇ!!』などと思い、なんとなく蹴り飛ばしただけだったのだが。
「……ウィンは相変わらず化け物ね」
「化け物ってなんだよ……俺の見込みだと爺もこれくらいできると思うぜ」
「爺も化け物でしょうに」
アリスが呆れた様に軽口を叩くのだが、実はそう言ったアリスも他の冒険者からすれば化け物達の内の一人である。
「す、凄………」
「な、なんたる剣速。……これがドラゴンスレイヤー…」
一方勇者達は疲れからへたり込んでウィンの力量に戦慄していた。
そんな二人をみてウィンが笑う。
「おいおい、勇者さんよ。……魔王を倒すなら先ずはこれくらい軽く出来なきゃ話にならんぞ?少なくともドラゴン二匹は一人で相手取れる位にはなって貰わないと困るな」
と、その口から吐き出されたのはとんでも無い無茶振りだった。
魔狼
狼が魔力を蓄えたものだと言われる。
身体強化を本能で使っているので身体能力は普通の狼の比ではなく、テレパシー能力まで有するのか群れの連携が異常なまでに統率されている。
一般人が襲われれば瞬く間に喰われてしまう。
身体強化のせいなのか、筋肉や骨格が退化し、普通の狼よりもかなり小さい。
(因みに、他にも狼系統の魔獣は多数存在するが、魔狼はその中でも最弱である)