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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
第一章、黒い森の少女
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取り敢えず全部売っ払え

三時間後、ウィンとアリスは勇者の泊まっている宿を訪れていた。


前日、その宿で待ち合わせをしようという話になっていたのだ。


しかし、何故ただ単に宿を訪れる事だけに三時間もかかったかと言うと、それにはよんどころない理由があった。



◆◇◆◇◆



ブロムシュテット王都は(とはいえこの世界における大都市の殆どが同じ様な構造なのだが)大きく分けて四つの区画に別れている。



まず、王城を中心とした貴族などが住む館のある特上級区。


次に豪商など、貴族では無いが金持ちが住む上級区。


その次は一般庶民の暮らす中級区。

外壁によって守られているのはここまでである。


そして最後に貧困層が暮らす下級区。

強力な魔獣が現れたり、魔物の大反乱が起こった時にまっさきに犠牲が出るのはこの地区だ。


下級区には更に貧しい者達が暮らすスラム街も点在しているが、それは区画としての頭数にすら入っていない。


余談だが、冒険者ギルドは中級区の中程にある。



そして、一般市民が宿と言えば、普通はやはり中級区にあるこれまた普通の宿屋の事なのだ。



当然ウィン達も中級区の宿屋に泊まっていた。



しかし、ナタリーとチェルは普通ではなかったようで。



なんと、上級区にある高級宿に泊まっていたのだ。(二人部屋、室内に浴室完備、夕食朝食付き、etc.)



始め.ウィン達は教えられた名前の宿を探して中級区を駆けずり回っていたが、知っている人が全くいなかった。


そして、ある商人にその宿が何処にあるか尋ねると、上級区にあると教えられたのだ。


ウィンなどその意味が一瞬理解出来ず、その商人にもう一度確認してしまったほどだ。



それぞれの区画は城壁によって阻まれており、それぞれの門で検問を通過しなければならないのだが、下級〜中級区は犯罪でも犯していない限り、基本的には自由に行き来できる。


しかし、上級区ともなると暮らしているのはそれなりの身分の者が大半を占めるため素性の知れない者を無闇にいれるわけにもいかない。


そのため、上級区の住民からの招待状ないしはそれに準ずる通行証が必要になり、検問の厳しさも段違いになってくる。



きっとナタリー達は勇者パーティーという事でほぼフリーパス同然だったのだろう。



しかしウィン、アリスは国一のパーティーと言われようとも、結局は只の冒険者である。


ロイドの助けを借りても、上級区検問通過の手続きなどにそれ相応の時間を食ってしまっていた。



そして無事検問を通過し、現在に至るのであった。



◆◇◆◇◆



ウィンとアリスはナタリー達と待ち合わせた上級区にある宿を訪れた。


その豪華さに圧倒され、タジタジとなってしまっていた。


豪華さに加え、明らかに格好からして二人だけが周りから浮きまくっていたのでそれも更に二人を萎縮させる結果となった。



「しかしなんだこれ、泊まるだけなのにこんなゴテゴテした装飾とかいらんだろうに……」


「ほんとにね…彫刻やら絵画やら、値段の事考えただけで眩暈がしてきたわ」



根本からして庶民な二人であった。


と、そこにチェルがやってきた。


「やあ!またせたね」


「いや、今来た所……ってか俺達軽く二時間近くは遅刻してるはずなんだがお前らの方が遅いってどういう事だし」


「あら、ナタリーちゃんは何処?」



チェルが来たことで、緊張が少しだけ緩み饒舌になった二人に同時にモノを言われたチェルは、少し混乱したものの何とか両方の問いに受け答える。



「遅くなったのはナタリー様の支度がなかなか整わなかったからだね……今もまだ支度中だよ」


「……前も言ったがお前も苦労してるんだな、…なんなら俺達も手伝おうか?」



と、アリスが自分の顔よりより頭一つは高い所にあるウィンの頭を持っていたロッドの頭で叩いた。



「んガッ!?」


「ちょっとあんたやっぱり馬鹿じゃないの?」


「なっ、馬鹿ってアリス何でそうなるんだよ!?あと痛えよ!!」


「あら?年端もいかない女の子の荷物を覗くなんてウィンってばそういう趣味だったのかしら。どうりで大人の美人がいても反応しない訳ね〜」


「なっ、違ッ…!!」



アリスに物凄い目で睨まれて口を閉じるしかなくなったウィン。



そこへ更にチェルが光の入っていない目で「やっぱりロリコンじゃないですか、そんな気はしてましたけどね」などと言って追い打ちをかける。


この時には既に、ロリコン駆逐モードに入ったチェルの抑揚の無い敬語は早くもウィンのトラウマになりかけているのであった。



そこへやっと勇者が現れた。



「「………」」


「……はぁ」


「な、何で皆そんな反応するのよ!!」



ウィンとアリスはそれを見た瞬間言葉を失い、チェルはやれやれとばかりに深々とため息をついた。



何せ、勇者ナタリーは明らかにその身の丈に合わない大荷物を背負っていたのだ。



「ど、どうしてこうなる。……いや、どうしてこうなった………」


「こ、これはまた凄いわね…」


「ぅ、い…言いたいことを言えばいいじゃない!!」



ウィンとアリスが明らかにドン引きしているのを見て、ナタリーが涙目になる。



「取り敢えず全部売っ払え」


「「「ド直球!?」」」



◆◇◆◇◆



結局、売れるものは売り、使えるものは残し、使えないけどナタリーがどうしても取っておきたいという物は冒険者ギルドの個人アイテム預かり倉庫(その名の通り、アイテムを預けたり引き出したり出来るサービス。有料。)を使うことになった。



「あっ、ウィン酷いっ…!!」


「別にいいだろ……ったく、こんなの幾らでも変えがあるだろうに」


「私、枕変わると眠れなくなるのよ!!?」


「枕が変わると眠れなくなると言うのなら、どんな場所でも眠れるようになればいいじゃない」


「暴論!?」


「勇者ちゃん。意外と人間慣れればどんなことも出来る物なのよ」


「ええっ!?アリスまでっ!!」



……そんなこんなで結局勇者パーティーの旅立ちは次の日へ繰り越されたそうな。

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