このロリコンめ!
翌朝。
アリスとウィンは冒険者ギルドに向かっていた。
昨日、半ば眠りながら歩くウィンを支えながら共に宿に戻ったアリスは二度と同じ轍を踏むものかと、クドクドと説教を交えながらウィンに釘を刺していた。
「昨日みたいにふざけるのはもう流石に無しよ?」
「分かってる分かってる。全くしつこいな……それにしても勇者って言っても想像してたのと全然違ったよなぁ、まあガキが元気なのは良い事だしいいんけどさ」
「そうね、以外と腹黒そうだったわね……チェル、だっけ?従者弄りに容赦が無かったわよね。あ、あと今日は爺に会っても嫌味言うんじゃないわよ?だってキリがないんだもの」
「ああ。ハイハイ、そこはできたら頑張る事にするわ」
「それは言う気満々なのっ!?」
と、そんな調子で冒険者ギルドの前までやって来た二人だったが、冒険者ギルドの様子がおかしい事に気が付いた。
何事だとウィンとアリスがそっと中の様子を伺うと、女騎士__チェルシーが暴れていた。
「お嬢様に手を出すなぞとは言語道断!話しかけたくばまずはこの私、チェルシー・キングストン=バッキンガムを倒してからにするがいい!!」
「なあ、アリス」
「何かしら?ウィン」
「今日はもう宿に戻って休まないか?」
「奇遇ね。私もそうしようと思った所なのよ」
そのまま二人がこっそりその場から立ち去ろうとした時。
「ねえ、あの馬鹿を止められるのはあなた達位しかいないんじゃない?」
案の定勇者__ナタリーが声をかけて来た。
「うげっ、なんで俺達がそんな事をせにゃならんのだ」
「原因である勇者様が止めるのが一番手っ取り早いと思いまーす」
苦虫を噛み潰したような顔で露骨に嫌がるウィン。
全てを勇者に押し付けてさっさと逃げ出そうとするアリス。
「ボディーガードが警護対象より弱いわけないでしょ」
三人の間に微妙な沈黙が降りる。
「えーっと、あの、勇者様?」
「弱くて悪かったわね!!」
「胸張っていうことじゃねえから……」
「チェルシーを止める位、ドラコンスレイヤーのあなたなら余裕でしょ?」
そう言いながらナタリーがウィンを見る。
ドラゴンスレイヤーはドラゴンを個人撃破する事が出来る者に贈られる称号だ。
ドラゴンと言ったらそれこそバカみたいに強い事で有名であり、本来ならば到底単独で倒せるような相手ではない。
「うっ、えっと、ま…まあ、な?」
遠回しにやれと言われたウィンはしどろもどろになりつつ、仕方なく冒険者達を血祭りにあげているチェルの所にガシガシと頭を掻きながらやる気なさげに歩いて行く。
と、チェルの狙いがウィンに向く。
「やはり貴方もだったか。このロリコンめ!!」
「あー、なんつうのかな……とりあえず落ち着けっ!!」
ウィンは落ち着けっ!!と言う声と共に愛用の長剣を鞘に収まったまま、ウィンに向かって飛びかかったチェルの頭に目にも留まらぬ速さで振り下ろした。
ゴスッッ!!というおよそ人から出たとは思えない音と共に脳天に直撃した重たい長剣によって脳を揺らされ、そのまま床に叩きつけられる様にして倒れるチェル。
「とりあえずこれでいいか」
ふぅ、と息を吐きうんうんと頷くウィン。
「止まったわね」
とりあえず伸びたチェルが目を覚ました時に再び暴れだせないように、慣れた手付きで縛り上げておくアリス。
「アレを止める(物理)だなんて……」
その様子を唖然と見つめる勇者。
その後、アリスに回復魔法をかけられ目を覚ましたチェルが「バカになったらどうしよう」などと頭をさすると、その場にいた冒険者も含めた全員が皆一様に苦い笑をこぼしたのであった。
◆◇◆◇◆
「私達がここに来た理由。それは薄々お察しになられているかと思います。」
「まあのぅ…お主が何を言いたいのかはこの場にいる全員が分かっておるじゃろうて」
所変わってギルドマスターの部屋。
昨日の大騒ぎとは打って変わり、そこにはピリピリとした空気が流れていた。
「要件は一つ。ウィルフレッド・ウィルコックスを私のパーティーに剣士として迎え入れたい、と言うことです。」
「だが断る」
「ちょっ、ウィン!?」
勇者が言うなり間髪いれずにウィンがバッサリ切り捨てた。
幼い勇者の顔に驚きが浮かぶ。
勇者パーティーに選ばれるのはこれ以上ない栄誉であると言うのに。
「っ!!…それは、何故ですか?」
理由を聞いた勇者の金色の瞳と視線を合わせてそらさないウィンの黒い瞳は何時になく真剣だった。
__そして、その目にあるのは明らかな拒絶の意志。
「理由は、『俺が』勇者の国の事を大っ嫌いだから。理由は言えないんだがその国の城に勇者パーティーとしてついて行くなんてことは死んでもしたくない」
勇者の国。
勇者を選び、送り出すための国。
代々勇者が旅立ち、帰って行く国。
もちろん途中で死ぬなどして帰れなかった勇者や、未だに行方不明の勇者なども数多くいるが、その功績は計り知れず、ほとんどの国はこの国に借りがあるとまで言われている。
大抵の者が憧れ、賞賛する国。
故に、国としての発言力も強い。
女騎士チェルシー・キングストン=バッキンガム、そして勇者ナタリー・アーロンの故郷でもある国。
ウィンは、そんな国の事を大嫌いだと言った。