贖わなければならない
だいぶ間が空いてしまったせいでなんだか何時もと雰囲気が違うような……(汗)
お詫びと言っちゃ何ですが少し長めでお送りいたします。
「あー、ゴホン、えーっと……皆、とりあえず落ち着こう。
深呼吸だ、深呼吸。 ……と言うか人が真面目な話をしているというのに君達は……、呆れを通り越して謎の感動すら覚えるな」
いつの間にやらとんでもない方向にずれていた話題を戻したのはレイフだった。
あんまりといえばあんまりな空気に居た堪れなくなったウィンは何事もなかったかのようにそれに乗っかり、アリスもまたぎこちなくだがそれに従った。
「ああ、すまん。 ……で、エルフ側としてはラナをどうしたいんだ。 言い方は悪いがぶち殺しちまってもいいのか、それとも生かしたままとっ捕まえたいのか」
「なっ……!? ちょっと、ウィン! 何でいきなり殺すなんて話になるの!!?」
普段のウィンからして想像もつかないような発言にナタリーが弾かれたようにウィンを睨む。
先程の照れ隠しだとしても冗談で言っていいような内容ではない。
アリスは一瞬辛そうな顔をし、それから少し心配そうな表情でウィンを見やる。
重たい空気は性に合わないのか、チェルシーはムッツリと黙り込んだままテーブルの木目を見つめ、エルフの面々は沈痛な面持ちを崩さない。
「……いや、何と言うか……なぁ」
ウィンは困ったようになんとも言えない苦笑いを浮かべてアリスと視線を交わし、あいつを生きたまま無力化して捕まえるのにはかなり骨が折れそうだ、と自分の意見を述べる。
ナタリーとチェルシーがお荷物になっていることは確かだが、それを差し引きしてもやはり難しい物は難しいのであえて口にはしなかった。
「そうですか……これが、我々が過去に行った事の報いだとしても、私は、矮小な身ながら里長の地位を世界樹と女王様より賜っている。よって、里の者を守る義務がある。
黙って殺されてやる事を受け入れるには背負っている物が多過ぎるのでね。
……Dead or Alive。
Dead or Aliveだ。謝礼は弾むよ。
私としては今一度彼女と話して、過去に見て見ぬ振りをしていたことを謝りたいが……きっと彼女は聞き入れてはくれないだろうから」
レイフは悲しそうに笑い、そしてその場はお開きということになった。
◆◇◆◇◆
「ウィン」
「何だナタリー」
「聞きたいことがあるんだけど」
「そうか」
「……」「……」
「聞きたいことは分かってるぞ。
俺がラナを殺していいのかどうかって言ったことだろ」
ナタリーが僅かに顔を強張らせるのを見て、ウィンは口元と目元に微笑を浮かべ、それから不意に真剣な眼差しでナタリーを見つめる。
「いいか、ナタリー。
どんな事情があろうと、殺しは殺しだ。それだけは未来永劫変わらないし、変わっちゃいけない。
犯した罪は消えないし、それは償わなければ、贖わなければならない」
「でも、だったら、ラナを殺すのだって……っ!!」
ナタリーは言い募ろうとして言葉に詰まる。
ウィンがいつになく悲しそうな目をして笑っていたから。
「そうだな」
たった一言の肯定。
酷く短いそれには、しかし、他ならぬウィン自身がその罪を背負い続けている者であることをナタリーに知らしめるような重みがあった。
そして、ウィンは静かに語り出す。
「殺戮、略奪、あるいは戦闘そのもの。 そう言ったものが本当に、心の底から好きで好きで仕様が無いっていうどうしようもない奴も確かに世の中にはわんさか居る。
だが、そんな奴らなんかよりも遥かに平穏を好む奴の方が多いんだ。
食うに困って仕方なく追い剥ぎや野盗みたいな真似するしがなくなったような奴も大量に居る。
お前はこれから世界中を旅して回らなきゃならん。
戦って、強くなって、より大勢の人を救うために何があっても生き残らないといけない。
魔物や魔獣だけでなく、そう言った人を手にかけなければいけなくなることも、数え切れない程ある。
時に、死んだ方がマシな状態の者を苦しみから解き放つためにに慈悲を与えなきゃならねえことだってきっとあるだろう。
その度に、自らが手にかけた命を背負い、そして死ぬまで忘れない。否が応でも思い出す。
俺も時々思い出しては後悔するよ。
ああすれば良かった、こうすれば助けられたかもしれないのに、ってな。
お人好しなんて言われる事もあるが、きっと俺も碌な死に方をしないだろう。
誰かを助けるには助けた数と同じだけ、いや、それ以上にあっちこっちから恨みも買うことになる。
それは勇者だって例外じゃない。
……ああ、話がずれてたな。
……ラナは、彼女はもう壊れてるんだ。
頭がおかしくなっちまってるんだ。
気が違っちまってるんだ。
アレはもう放っておいたらいけない類のモノだ。
アレは本気でこの里を滅ぼす気だ、皆殺しにするつもりだ、それこそ人っ子一人残さないつもりだ。今までに数人そういうイカレた奴も見てきたが、どうしてどうして、皆、大概、同じような目をしてたからな。
……死は、時に救いたり得る。殺してやるのが一番良い様な奴もいる。
本当は、勇者ってのは間違ってもお前みたいな歳の、それも女の子が背負える様な、背負っていい様なもんじゃねえんだ。
勇者は大勢を救うためにその大勢を害するその他を排除するモノだ。
死者に苛まれ、それでも戦い、手を差し伸べ続けるモノだ。
泥沼の中に頭の先まで浸かって、溺れそうになりながら、藻掻いて、足掻いて、地獄の様な現実の中で汚れきっても尚光り輝く、それが勇者が勇者である所以だ。
普通の人間には出来ない事を、耐えられない事を、やってしまうのが、耐えてしまうのが勇者だ」
ウィンは静かな語り出しから、時に、何かを思い出したのか苦げに、またある時には、熱に浮かされたかのようにまくし立てる。
黒曜石のように真っ黒で透き通った瞳は酷く鋭く、ナタリーの全てを見定めようとしているかの様だ。
「覚悟を示せよ、ナタリー。
底なし沼に自ら身を投じろ。
泥に塗れ、人間を辞める覚悟をしろ」
気圧されたナタリーは何も言えずに呆然とした表情でウィンを見上げる。
そんなナタリーの頭をスルリと一撫でしたウィンはそのままかがみ込んでナタリーを真っ直ぐに見つめ、努めて優しそうな表情で微笑む。
「今からでも遅くない、怖いなら、親元に帰ったって誰も咎めはしない。
わざわざ酷い世界を知ることも無いんだ」
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(訳:評価とかコメントとかブックマークしてくれたら嬉しいなぁ、なんて。)




