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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
第一章、黒い森の少女
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……もうさっさとくっつけばいいのに

「彼女は、ラナは忌児だったんだ」


 まるで懺悔か何かのように絞り出された言葉は、主であるレイフの視線の先の机の上に蟠るように落ち、消えゆく間際に主の後悔を匂わせる。


「ずっとずっと昔の話だ」


 レイフはまるで夜、子供の枕元で物語を読み聞かせるかのように、静かに、そろそろと語り出す。


「彼女は僕が15歳位ー因みにエルフの中ではまだガキもいいところだーの頃に産まれた。彼女が生まれた時にはまだ里の大人たちも新生児が黒児だったとしてもちょっと残念がる程度で、別段虐げることなんてしなかった」

「そんな環境で、何時も明るく笑いながら彼女はスクスクと成長した」

「ある日、彼女が精霊の姿や声を見聞きし、里の誰よりも上手に植物を操ることが出来るという事が本当に、本当に些細な事から分かった」


「今思えば、ソレが始まりだったんだ」


「彼女の精霊と同調して自然を操る力は、彼女が精霊に選ばれし者だという精霊と共に生きるエルフにとってこの上ない名誉を示した」

「そんな時、出処は分からないが、彼女が黒児の穢れた力で無理矢理精霊を縛っている、とかいう馬鹿な噂が流れ始め、情けない事にその噂はあっという間に里中に広がった」

「不幸は重なって、まだ幼い彼女を守る筈の彼女の両親が事故で二人いっぺんに死んでしまった事で、彼女を謂れの無い誹謗中傷から守る人が誰もいなくなってしまった」

「私は幼心に大人たちが彼女行った理不尽な仕打ちをよく覚えている。

 幼かったから、なんてことは言い訳にしかならないのだろうが、私にはどうしようもなかったし、まして彼女では尚更どうしようもなかった」

「そうして、黒児だから、忌児だから、そう言って虐げられ、挙げ句の果てに右も左も分からない内に彼女は里から放り出された」

「そこから先は彼女がどうなったのかよく分からない。

 が、彼女は人間との間に作った子、エルシーを連れ、酷く弱った状態で帰って来た」


「彼女は私にエルシーを託し、……そして死んだ、死んだ筈だったんだ」


 だけどきっと彼女は生きている、そうレイフはラナの過去についての話を締めくくり、きつく目を閉じる。


 彼女の目的が復讐だったとして、それは全くもって正当な物だ。

 それだけの事をこの里の者たちは彼女に対して行ったのだから。

 真に断罪されるべきは彼女ではない。


 誰も彼もが口を開くことを躊躇し、部屋は束の間の静寂に包まれる。

 そんな空気の中、いっそこの場にそぐわない様な幼い声が響く。


「……だからって、人を殺していい理由にはならないよね?」


 レイフは弾かれたように俯いていた顔を上げる。

 余りにも無邪気で、余りにも透き通っていて、余りにも強い意思を秘めた金色の瞳と目が合うと、思わずヒュッと息を飲む。

 そしてそのまま、まじまじとその瞳に魅入りそうになって、兄の発した声で我に返る。


「同じ里の出身だっていうのに、森ばっか駆け回ってたせいで全然知らなかったっす……。

 それにしても懐かしいっすねぇ、……同じ勇者ってだけでここまでそっくりだとは。

 ……面倒事を嫌うウィンが着いて行きたくなるのも分かるってもんっすねぇ」


 アルフィーが眩しそうに目を細めながらナタリーを見つめ、うんうんと一人で納得した様に頷く。

 そこで再び、思い出したかの様に全員の好奇やら何やらの混じった視線がウィンに突き刺さる。

 

「な、なんだよ」

「そう言えば、前も聞こうとしたら逃げたけどさ、ウィンは先代の勇者とどんな関係だったの?」


 ナタリーがその疑問を口にすると、それを聞いたアリスがピクリと反応するのがウィンの視界の端に映る。

 これは真面目に答えないとまずい、と流石のウィンも感じたのか、途端に目が彼方此方に泳ぎ出したが、何とか最適な答えを捻り出そうと難しい顔で唸り出す。


「えーと、…あー、何だ、その、命の恩人……みたいな、……師匠、も何か違うしな」

「初恋の君じゃないんっすか?」


 瞬間、ウィンの顔がぼっと赤く染まるのに合わせたように空気が凍る。……主にアリスの周りの空気が。


「なっ、なっ、にゃにを」


 初恋の君という言葉が相当効いた様で、物凄い勢いで狼狽しているウィンは呂律が回らず、顔を赤くした大の男が何だか可愛らしい物言いをするというまともな感性をした者からしたら気色悪いとしか言いようのない初心さを露呈し、それとは対照的にアリスは俯いてプルプルと震えている。

 そしてやっとアリスの様子に気が付いらたしいウィンはさらに慌て、違うんだ!誤解だ!などという拉致のあかない言葉を叫び出す。

 と、いつの間に戻ってきていたのかそれまで完全に空気と化して傍観していたチェルシーが口を開く。


「成る程、要するにウィンは現在進行形で好きなアリスの前で初恋の君の話をするのが恥ずかしかっ「あ〝ーー!!あ〝ーー!!!」……急に大声を出さないでくれよ、びっくりしたじゃないか」


 チェルシーにより図星を突かれ、完全にとどめを刺されたらしいウィンは、耳を塞ぎ、そのまま机に突っ伏してしまう。それこそ穴があったら無理やりにでも潜り込んでいるだろう。

 チェルシーの発言を聞いていたのかいないのか、アリスも俯いたままで尚且つ挙動不審と言う離れ業を披露している。


「……もうさっさとくっつけばいいのに」


 真面目な話をしていたはずが、いつの間にかそこはかとなくピンク色の空間が出来上がっている様子を見て、やたらと早熟な勇者ーーナタリーが溜息を付いた。

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