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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
第一章、黒い森の少女
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何がおかしい

「……彼女は本当に勇者なのか?」


 ウィンが吐き出した(わだかま)り。それを聞いたラナは一瞬目を見開いてそれから再びけたたましく笑だした。


「何がおかしい」


 癇に障る笑い声にウィンが顔を顰めると、ラナは何とか笑い声を抑え、それから満面の笑みを浮かべて意地悪く言った。


「くふっ、ぷくくっ、ふ、ふひひっ!クスクス、……ふぅ。

 えっとねー?……それはー、…………教えてあーげない!!」

「チッ、……案外ケチだなお前」


 可笑しくて可笑しくて辛抱堪らんとでも言いたげな様子のラナはウィンの悪態など物ともせずに、またくるりとウィンに背を向けて歩き出す。


「ふふっ、そうかしら?でもまあ、其れは貴方が見極めるべきことってだけよ。何と無く分かるもの。

 それに私にはあの子が勇者だろうと何だろうと関係ないの。

 私は彼らを許さない、彼らが犯した罪を償わせる為、ただそれだけの為に此処にいる。……そして、それを邪魔しようとするなら勇者だろうが魔王だろうが、例え精霊や神だったとしても躊躇(ちゅうちょ)無く殺すわ。

 それで、話を戻すけれど。そこまで聞いてもまだ貴方は、私の邪魔をするのかしら?」


 ラナはウィンに背を向けたまま首だけを曲げてウィンを見る。

 そして、ふと何かに気がついた様に、ウィンの背後の森へと視線を移し、エルフ特有の長い耳をぴくぴくと動かした。


「……あら?……あらあら。

 どうやら、少し喋りすぎたみたいね。あの赤い髪の子があなたの事を探しているみたいよ?」


 愛されてるわねー、とラナはコロコロと笑う。


「……そんなんじゃねえよ」

「そぉ?……貴方がそれでいいならいいけれど。

 それじゃ、確認もしたし、私は行くわね」


 そう言うと、その場から立ち去ろうとしたラナをウィンが呼び止めた。


「おい」

「何かしら?」

「…………いや。何でもない」

「そ、なら今度こそ行くわね」


 そう言うとラナはまるで獣の様にしなやかな動きで森の奥へと紛れ込み、その気配や魔力の残滓はまるで其処には何者も存在していなかったかのように忽然と消え去ってしまった。


 一箇所だけ開けた森の中、其処には一人、黒尽くめの男と生木独特の爽やかな、それでいて少しツンとした香りだけが残されていた。


「………………帰り道が分からねぇんだが」


 ウィンが少し困った様にポツリと漏らした言葉は突然吹いた強い風に攫われ、虚しく深い森の中へと霧散した。



◆◇◆◇◆



 アリスはウィンを探していた。

 あの男は目を離せばすぐにふらっと何処かへと消え、その消えた先で必ずと言っていい程厄介事に巻き込まれるのだ。

 ウィンを介して厄介事に巻き込まれる度にアリスは彼の事をまるで手のかかる幼子の様だと思っては、なんだかんだで見放すことなく一緒に厄介事の解決へと向けて尽力してきた。

 そんなウィンと過ごす内に、厄介事に対する察知能力と言うか勘と言うか、そんな何かが鍛えられたのか、何となく胸の奥がざわつく様な嫌な予感がする時がある。得てしてそれは大抵ウィンが何かしらの事をやらかしたか巻き込まれた時だ。


 ……そして今、アリスは未だかつてないほどの嫌な予感苛まれていた。

 と、丁度其処に通りかかった戦士らしき出で立ちをした、随分と可愛らしい顔立ちのエルフの若い男(?)にアリスは内心、性別の判断を付けかねながらも声を掛ける。


「あ、ねぇ、すみません、其処の人。

 ……私の仲間の黒髪男見ませんでしたか?」

「えっ、……あーそうっすね、素振りやってたの観てた奴らに揉みくちゃにされてそれから逃げてから見かけてないっす」

「そう……自力で探してみるわ。教えてくれてありがとう」


 僅かに落胆し、しょんぼりとしたアリスの様子を見て、エルフにしては珍しく髪を短く刈り込んだその男は何故か僅かに罪悪感に駆られる。

 因みに、アリスは声を聞いたところ、完全に男のものだった上に、近くで見ると背も割と高いこのエルフは男なのだろうと結論付けた。


「それにしても相変わらず逃げ足の早い……」

「全くっすね。追いかけてった奴ら、森の中で巻かれたって驚いてましたよ。いやー、実にいい逃げっぷりだったなぁ」

「巻いたの!!?」

「らしいっすね。……所で、自分今暇なんで探すの手伝いましょうか?」


 何より森でエルフを巻いたとか言う男に興味もあるし。と、そのエルフはあっけらかんと笑って言う。


「うーん。そうね、そこまで言うなら……そうしてくれるとありがたいかしら。

 普段は魔力感知で分かるのだけど、何故か今は大体の方向しかわからないのよ」


 困った様に言うアリスの様子を見て男は納得がいったというような顔で頷く。


「ああ、そうか」

「?」

「どうにも木々が邪魔してるみたいっすね。今から俺が邪魔しないように言ってみるんで、その間にもう一回探してみて下さい」

「分かったわ」


 男がそう言って目を閉じると、男の魔力が膨れ上がる様に辺りに広がり始める。

 すると、魔力感知が滞りなく行える様になり、すぐさまウィンを見つけることが出来た。


「あっ、見つけた!って結構近いわね」

「おー、速いっすねぇ」

「ありがとう、貴方のおかげよ。

 そういえば名前を聞いて無かったわね。私はアリス・メラーズって言うの。貴方は?」

「あぁ、そうっすね、俺はアルフィー・ロイって言うっす」

「ロイ?」

「あ、そうそう、因みにここの里長の兄っすね、そんでもって元勇者パーティー斥候っす」


 アルフィー・ロイと名乗ったエルフの男は最後の最後にとんでもない爆弾を落とし、驚いて目を見開いたアリスの顔を悪戯が成功した子供の様な笑顔で眺めるのであった。

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