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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
第一章、黒い森の少女
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私の邪魔をしないで頂戴

 それから筋力に恵まれないが故に物珍しいのかウィンの剣術を見て大興奮している若いエルフの群れからもみくちゃにされ、どうにか逃げ出したウィンは、今度は別の困った事態に巻き込まれていた。


「……お母さん」

「ふふっ、別に変に畏まらなくたっていいのよ?」

「……はあ、その、始めまして?」


 エルシー・ファレル。

 何故かくっついてきた彼女がいざなうが侭に逃げた結果、エルフ達を巻くことが出来たはいいが、今度は森の中に唐突に現れた開けた空間で彼女の母だという長い黒髪の女(・・・・・・)と遭遇したのである。


 その女の顔立ちはエルフの中でも相当に整った部類だと思われ、更に病的なまでに青ざめた肌や長袖の衣服から覗く折れそうなまでに細い手足が脆く儚げな美しさを醸し出してはいたが、塗りつぶした様に光を宿さない闇のような双眸と結われもせずに垂らされた重たげな黒髪がどこかアンバランスな不気味さを放っていた。


「……それにしてもコレだけ条件が一致しててよく監視が付かないな」

「それについてはノーコメントってね、ふふふっ」

「そ、そうかい」


 無表情な娘とは正反対に何が楽しいのか、人形の様に作り物めいた白く美しい顔にニコニコと笑みを浮かべっぱなしの彼女は放っておけばルンルンと鼻歌を歌い出す、……それでいて目が笑っていない。

 然しものウィンも戸惑いを隠せない様子でこの不気味な女__ラナ・ファレルとの距離感を掴み兼ねていた。


「エルシー、お母さんはこの人と少しお話があるの。貴女はもう里に戻りなさいな」

「…………わかった」


 ピリピリとした空気の中、母親に穏やかに促された少女は少し不安気に母親を見返すと、元来た道を名残惜しそうにしながらも去って行った。


「俺は帰り道が分からないんだがな……」

「あら?貴方こっそり枝を折りながらここまで来てたじゃない。気がつかないとでも?」


 ラナと名乗った女はコロコロと笑ってウィンの行動を指摘する。


「……いや、分からないね。手折った枝を片っ端から元に戻してた癖によく言うな」


 苦笑する様に肩を竦めるウィンにゆっくりと触れるか触れないかの位置まで歩み寄ったラナは相変わらずの笑みを湛えたままウィンの耳元に囁く。


「さっさと里を出て行けば貴方達には何もしないわ」


 途端、先程から張り詰めていた空気が更に重さを増す。


「ねえ、お願いよ」


 そう言う彼女は先程とは違う困ったような笑みを浮かべる。


「私の邪魔をしないで頂戴」


 至近距離から見てもケチの付けられない美貌が上目遣いで伺う様に見上げてくる中、ウィンは酷薄とも言える笑みを浮かべると、いつの間にか密着していたラナの軽い身体を突き放す。


「そいつぁ、聞けない相談だなぁ?」

「何故かしら?私の言葉が理解できなかったの?

 出て行かなかった場合何をされても文句は言わせないわよ?」


 だって私、忠告はしたもの。

 手荒く押し退けられてもふらつくどころかフワリと踊るようにロングスカートを翻してウィンから距離を取ったラナに対し、ウィンは目を細める。


「何故って?ははっ、こんな愚問があるか?

『勇者が逃げるなんて有り得ない』それが答えだ。それだけが答えだ」

「へぇ、そう。大した盲信ね」


 僅かに瞳をギラつかせたウィンにラナは呆れたように言う。


「知ってるわよ。ウィルフレッド・ウィルコックス。

 貴方、安全第一とか言いつつ自分は相当に無茶するらしいじゃない。王都の冒険者ギルド以外でも結構な有名人だったわ」

「……ねえ、『お人好し』さん?あんな幼くて弱っちい子に無茶させるなんて貴方らしくもない」

「其れともやっぱりそっちの方が本性なのかしら?裏で自分が何と呼ばれているか、知らない訳ではないんでしょう?」


 矢継ぎ早に喋り倒し、反論せずに黙り込んだウィンを視界の端に収めたまま、またラナはクスクスと笑う。


怪物(ジャガーノート)


 貴方の本質、それが貴方。

 ラナは舞う様にくるりとその場でターンし、ケタケタと嗤い出す。


「知ってるわ、知ってるの、知ってるのよ!!あはっ、あはっ、あははッ!!」

「だって同じだもの!!同じなのよ!私達(・・)は、同じモノなんだから!!!」

「魂の奥底で芽吹いた種子は何れ貴方を吸い付くして、おまけに周りの雑草からもなにもかもを吸い付くして大きな大きな木になるわ!!そうしたら辺り一面何にもなくなるの!」

「ええ、そうよ、なくなるのよ。そうしたら誰も私を……ああ、ごめんなさいね。話が逸れてしまったわ」


 ラナはいきなり嘲笑し出したかと思えばふっと表情を消し、また元の穏やかな微笑みを意図的に浮かべると、苦虫を噛み潰した様な表情のウィンの方へと再び向き直る。


「貴方の盲信、いや狂信。

 勇者に対する強い憧れと、これまた強い執着。

 気付いて居ないなら教えてアゲル(・・・)、それは絶対に報われることは無いわよ?」


 魂すら飲み込む様なラナのアーモンド型の黒い瞳が挑発する様に微笑みの様相を形どる。


「……なあ、お前に一つ聴きたい事があるんだ。」


 ラナの挑発を丸々無視をする様な形でウィンは、苦々しい顔のまま、それでいてどこか不安気にラナに尋ねる。



「……彼女は本当に勇者なのか?」



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