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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
第一章、黒い森の少女
21/33

以下同文

「昨夜も特に変わったことは無かった、か」


 そう言って僅かに顔を顰めたまだ幼い勇者の金糸のような髪が朝日を浴びてキラキラと輝く。

 早朝の森独特の冷涼な空気もあいまってその光景は酷く神聖な物の様で。


「……やっぱり勇者ってことかねぇ」


 しかし、それを言葉にした次の瞬間にはウィンは始めてナタリーに会った時から自分の中にあったどうしようもない違和感が首をもたげるのを自覚する。

 ……何か、何か違う。何か足りない。そんな違和感。


「何か言った?」

「え?ああ……、別に大した事じゃない。単なる独り言だ」

「そう?」


 未だ発展途上の肉体に精神、そして技術。

 この物足りなさは恐らくそのせいだろう、そう己に言い聞かせてもまだ僅かに残る引っかかりを胸の奥に押し込めて笑いかけると幼い勇者は輝く様な無垢な笑みを返してくる。

 この違和感が本物ならナタリーはそう遠くないうちに命を落とすのだろう。何故だかは分からないがそんな奇妙な確信に似たものがウィンにはあった。


「本当に、俺の気の所為ならいいんだがな」


 そう呟くと胸を裂かれる様な痛みと共に雪に埋れた頭の無い女の死体が脳裏を掠める。


「ねえ、大丈夫?あ、もしかして寝不足?」

「いや、別に平気だぞ?」

「本当?野営の時も寝ずの番してくれてたし……牢屋でもあんまり寝れて無かったらしいみたいなことエルフの人も言ってたし……」


 いささか表情に出てしまっていたのか、心配そうな表情で見上げてくるナタリーに気付き、努めて表情を明るい物にすると上目遣いでじぃっと睨む様に見つめてきたので思わずぐしゃぐしゃとその柔らかい髪を掻き回してしまう。


「心配してくれてありがとな。でも数日寝不足気味な程度でへばるほど俺はヤワじゃねえから大丈夫だ」

「なっ、別に!!……私はまだ強くないからこんな時にウィンに倒れられると困るってだけだもん」


 目尻を釣り上げて怒るかと思ったら途中から一気にその勢いは萎んでしまった。

 今現在、ナタリーは自分が足手まといにしかならないことを理解し、気にしている。その姿が妙に昔の自分と重なって見えた。


「そんじゃぁ、まっ今日も頑張ってさっさと足手まといにならない程度には強くなれよ」

「あ、足手まといって……」

「まあそのために俺とかアリスがいるわけだしな。精々頼れ!!」


 ナタリーを見るたびに浮かび上がるもう随分昔に起きた出来事に対する感傷と勇者を送り出す光の神殿に対するある疑念を内心で捻り潰すと、ウィンはそれまで座っていたイスから立ち上がってもう一度だけナタリーの頭をくしゃりと撫でて自らの剣を片手に素振りをする為に外へと向かった。



◆◇◆◇◆



 ウィンが里長の家から外へ出て軽く体を動かして温めていると、慌てたようにナタリーがチェルシーを引きずってやって来た。


「おう、なんだ。お前らも素振りするのか?」

「えっと、まあ。何というかウィンの素振りの見学でもしようかなって」

「以下同文」

「お、おう……そうか。

素振りなんか見てても退屈なだけだろうに……」

「っていうかぶっちゃけウィンの素振りって何か綺麗なんだよねぇ。見てて飽きないっていうか」

「そうですね……僕のいた騎士団の隊長もかなり化け物じみた人だったんですが其れに引けを取らないレベルで剣筋がぶれてないですし。剣を握る事を職とする者からしたら貴方の素振りは何というか……気が付けばうっとり見惚れて居てもおかしくない程理想的な型なので」

「そ、そうなのか?……ってかそんなに褒めても何も出ねえからな!!?」


 若干耳の先と頬を恥ずかし気に朱に染めたウィンは(もうすぐ三十路のいい年した男が頬を染めるとか絵面的にどうかとも思うが)それでも己の人生の内、大半を掛けたであろう剣技を褒められたのが満更でも無かったのか何時もより数段は張り切った様子で素振りを始めた。



◆◇◆◇◆



「……千九十七、……千九十八、……千九十九、……二千っと、こんなもんか」

「……ふう、お疲れー。なんか見てるだけで緊張するね」

「ウィンの素振りを見ていたら僕もやりたくなってきたな。しかし相変わらずのキレだったよ。やはり凄いな」

「そうよー、ウィンは凄いのよー!でも褒めすぎると調子に乗るんだものどうしようもないわ!!」

「……何というか、素振りだけで実力の差を思い知るとは思わなかったな」

「いやー凄いなぁ!!私じゃあ十回程度で腕がプルプル震えてて来るっていうのに!!」

「……タオル、…………どうぞ?」


 素振りを終えたウィンが改めて勇者達に向き直ると、いつの間にやらそこにいる人数が軽く倍以上に膨れ上がっていた。


「……ってかギャラリー増え過ぎだろこれ。

どうなってんだよ……っと、ありがとな。……えーっと」


 ナタリーとチェルシーに加え、まだ若干眠そうなアリスに若干落ち込み気味のトラヴィス。感心したようなレイフに、柔らかいタオルを渡してくる少女。更に戦士と思しきエルフの里の男衆で手の空いている者達が多数。

 皆が皆口々に素振りの感想をいい合い褒め称えるため、褒められるということに慣れていないせいでしどろもどろになりつつタオルを受け取り、そういえば案内をしたりもしてくれたこの少女の名前を知らない事に気が付く。


「そういえば名前聞いてなかったな。何て名前だ?」

「……エルシー・ファレル」

「そうか、俺はウィルフレッド、ウィルフレッドウィルコックス。ウィンって呼んでくれ。この里にいる間よろしくな」


 ウィンがかがみ込んで安心させる様に笑かけるとエルシーは少し恥ずかしそうにしながらもおずおずと微笑み、それからこっくりと頷いたのであった。


アリス「ニコポね」

ナタリー「ニコポだね」

チェルシー「ニコポだな」


ウィン「いや、無いだろ。……無いよな!??」



全然話が進まないことに作者自身が辟易とするという謎の事態が発生しております。


……どうしてこうなった。

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