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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
序章、出会いと旅立ち
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アリス・メラーズという女

アリス・メラーズ(Alice Mellers)。

27歳。性別は女。


肌は白く、赤い髪は艶やかで背中の中程まであり、少しつり目ぎみの瞳も髪と同じ緋の色に輝いている。スタイルも良く出る所は出ており、引っ込むべき所は引っ込んでいる。

更に冒険者という仕事柄、魔導師ながらしっかりと鍛えられ、その細い腕には驚く程の力が秘められていた。



彼女は15歳にして無詠唱の魔術の行使を体得したという天才魔導師だ。凡人がそれこそ一生かけてやっと簡単な魔術を幾つか無詠唱で行使できる様になることを考えれば15歳にしてこのレベルは異常とも呼べるものである。



そんな彼女はウィルフレッド・ウィルコックスの唯一のパーティーメンバーである。


男一人に美女一人のパーティーだとそういう関係なのか、という誤解をする者もいるが二人は決してそういった関係では無い。単にウィンとアリスの実力に釣り合う者がいなかったのだ。



ウィンはアリスの事を全くそういった対象として見ていない。


性別の違いにおいて多少の気遣いはあれど、他の野郎にでも接するかのように接しているのだ。言わずとも女として見られていない事がわかる。



しかしアリスは違った。


少なくともアリスはウィンの事を頼もしく、男らしく思い惹かれていたのだ。



ウィンとアリスの出会いは11年前。

ある冒険者ギルドでのことであった。



◆◇◆◇◆



「ふふっ、剣士なんて敵に近づかなきゃ倒すことも出来ない役立たずじゃない。遠くから敵を屠れる魔導師が優れているに決まっているわ」



当時15歳だったアリスは自分の実力を鼻にかけ、ソロで活動していた上に、他の接近職をよく貶めていた。


それに怒った他の冒険者が決闘を申し込んできたとしてもあっという間に返り討ちにするため、誰も何も文句をいうことが出来ず、彼女は益々天狗になったのだ。



『顔は良くても性格が最低な天才女魔導師』


それが他の冒険者達からの彼女の評価であった。



その日もいつも通り一人で他の冒険者をバカにしていると、一人の黒づくめの少年が我慢の限界に達したのか、怒鳴り返して来た。


魔導師こそ詠唱の間中守ってもらわなければ何も出来ずに殺される役立たずじゃないか、と。


どうやら新参者なのか、見たことのない顔だった。



丁度いい、身の程知らずのルーキーに思い知らせてやろう。



そんな軽い気持ちで彼女は彼、ウィンに、ならば決闘でどちらの言い分が正しいか決着をつけようという提案をした。


結果、彼女はウィンに対して魔法の一つも使うことができずに敗北した。


彼女の詠唱速度は他の魔導師に追従を許さないばかりでなく、魔物は愚か、冒険者ですら近付けるのをこれまで一度も許したことが無かったほど早かった。

そしてそれを突き詰めた結果が無詠唱である。


しかしウィンはもっと早かった。


決闘開始の合図がなった瞬間、唐突に目の前に現れる様にして魔術を使おうとする暇すら与えずに首すじに模擬剣を突き付け、あっさりと決闘を終わらせるとそのままさっさと何処かへ行ってしまった。


魔力に敏感な魔導師であるアリスには分かった。

彼は身体強化も何も使っていないにも関わらず、地の運動能力だけで彼女の詠唱速度を凌駕したということを。

彼女のプライドはその時彼によって木っ端微塵に打ち砕かれた。


悔しさ、無力感を抱えたまま数日を過ごした。

決闘に負けて以来、ウィンのこと以外考えられなくなっていた。


しかしある日、彼がとあるダンジョンで行方不明になったという知らせを聞いた。



まさか。



あの彼が負けるような魔物が存在するとしたらそれはドラゴン位だろう。



自分では探しに行っても殺されるだけだ。



分かっていても心配でたまらず、そのダンジョンへ向った。


動揺、不安、心配、その他の感情でグチャグチャになった彼女の思考では気付けなかったのは無理もないが、その時既にアリスはウィンに惹かれ、恋をしていた。




ダンジョンの最奥。


真っ赤な獅子の様な巨大な鉤爪を持つこれまた巨大なバケモノの死体の横にウィンは倒れていた。


剣は折れ、辺りは血の池と化していた。



その胸には大きな裂傷。



明らかに致命傷であった。



にも関わらず彼はまだ生きていた。


行方不明になったという知らせが届いてから軽く一週間。


その間ずっと、いや、それ以上長い間このまま放置されていた、というのにである。



そこでふとアリスはウィンの手に何かが握られていることに気がついた。


ソレは小指の爪の大きさほどの小さな小さな雫の様な形の水晶で、血塗れの手に握られていたというのに全く汚れる事なくキラキラと松明の明かりを反射して輝いていた。

そして、呆れるほどに膨大な魔力を秘めているのを感じた。



アリスは一瞬透明な水晶が僅かに放つ神秘的な輝きに見惚れかけたが、そんな事をしている場合では無いとウィンに応急処置を施し、ワープでそのダンジョンから脱出した。

家に戻るとウィンをベッドに寝かせ、必死になって回復魔法などを駆使し、付きっきりで看病した。



ウィンは治療を始めてから二日目に目覚めたと思うと、驚異的な回復力でみるみる元気になっていった。



◆◇◆◇◆



目覚めたウィンがアリスを見て言った第一声が「腹減った」だったということは今でも数多くある笑い話の内の一つである。


ついでに言うと決闘で身体強化を使わなかったのは人付き合いが悪くその時はソロで活動していたため、身体強化はやり方以前に、存在自体を全く知らなかったらしい。


ウィンが身体強化の話を聞いてなにそれ美味しいのとでも言いたげな顔をした時、アリスは呆れることしか出来なかった。



そんなこんなでいつの間にか二人はパーティーを組み、10年近く苦楽を共にしてきたのであった。


そしてその10年間、アリスは初めに抱いた恋心を失う事はなく、むしろ一緒にいればいるほど好きになる自分の気持ちを伝える事が出来ないまま過ごしてきた。


性格はきつい所があるが色恋沙汰には奥手で慎ましい。



それがアリス・メラーズという女であった。



ある日、そんなアリスがウィンと共にいつも通りギルドの酒場で仕事後の酒を嗜んでいると、可愛い女の子の勇者がやってきたという知らせが入った。



一斉に浮き足立つギルドの冒険者達。



女の子勇者に全く興味を示さず「またこいつらは…」と頭を抱えるウィンを横目に、アリスはやっぱりウィンって異性に興味無いんだな…などと少し落ち込んでいた。


__その勇者が彼女の日常(つまり恋人や夫婦では無いもののウィンとほぼ常に一緒にいる比較的穏やかな日々)を著しくかき乱す事になる事も知らずに。

因みにこの世界、成人が18歳で普通25位で結婚なのでそろそろ結婚しないとアリスさん行き遅れになってしまいます。


ウィン……責任とれ。

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