頭オカシイ
深い深い森の中。
大きな大きな木の下に。
碧い髪した少女が一人。
◆◇◆◇◆
……ここは?何処?霧で周りがよくわからないな。
……誰?隠れてないで出てきてくれないかな。
……何故泣いているの?
……ねえ、返事をして。
………………?
……じゃあ隠れたままでもいいから、名前を教えてくれないかい?
…え?僕?……残念な事に僕にはまだ名前が無いんだ。
……そうか、****っていうのか。いい名前だね。
……何か辛いことがあったのかい?僕で良ければ話を聞くよ。
……。
…………。
……………。
◆◇◆◇◆
「おーい!!勇者ー!!ナタリー!!起きろー!!」
「起きてるってば!!ちょっとは待ってよ。それに勇者もナタリーも私のことだし!!」
翌朝、ウィンは剣を教えるために早朝からナタリーを叩き起こし、やっと自分の番が来たとばかりに張り切っていた。
今まではあまり周りを気にせずに真剣を振り回せる様な広い安全な場所にとどまる事が余りなかったのだ。(因みに今回はエルフから訓練用の刃を潰した剣を借りている)
そしてナタリーの勇者としての初陣が目前(かも知れない)と言う事もあり、今の所は兎にも角にも基本を徹底的に叩き込む所存でいた。
早朝の淡く白い光が零れる森の中、剣と剣がぶつかる金属音や少女の気合いの声が何度も響く。
「軸がブレてる、へっぴり腰、筋力が無い、……挙げ句の果てに体力も無い。
……素振りもまともに出来ないとか思った以上に先が遠いなこれは。……本当に何も教わってなかったんだな」
「……ごめんなさい」
「いや、何も教えずに旅に出した神殿の方に問題があるだろこれは。お前は悪く無えよ。普通はある程度鍛えさせてから旅に出すもんなんだけどなあ……奴らサボったのか?」
結果、試しに素振りをさせて見た所、ナタリーの剣術はズタボロであり剣術と言うのもおこがましい、本当に単に剣を振っているだけ。と言う代物である事が分かった。
ウィンは森の中で魔狼の群と戦っていた時にもしや、と思った事が確信に変わりガックリとくる。
ナタリーは嗜み程度にも剣を触った事がなく、聖剣の性能が良過ぎるせいで今までは何の問題もない様に見えていただけだったのだ。
要するに型も何も知らなくとも、ただ振り回せば聖剣が自動で軌道を修正し敵が切れる、といった状態なのである。
ウィンはこれを勇者補正と呼んでいる。
ナタリーが申し訳なさそうにうな垂れ、肩をすぼめてしまっているのでウィンは慌ててフォローを入れた。
「勇者補正は本当にある程度って感じの技量だ。
今はいいかも知れないが自分の技量は自分で磨かないと必ず何処かで勝てない敵にぶち当たる。死にたくなきゃ鍛錬はしっかりやれよ」
「はぁ、はぁ…。分かったわ」
「よし、わかればいい。素直な奴は伸びるからな」
そしてそんな短い会話を終えると、ナタリーはキッと表情を引き締め、再びウィンに打ちかかって行った。
そうして結局、二人の特訓はアリスが朝食を知らせに来るまで続き、その頃にはナタリーは筋肉痛やら何やらで歩く事もままならない状態になっていた。
「……っ!いたたたた。筋肉痛って筋肉を使った次の日に来るものだと思ってた……」
「筋肉痛は魔法で治さない方がいいからどんなにキツそうでもアリスは絶対治すなよ」
「分かってるわよ、私の時も絶対に疲労回復使わせてくれなかったもの」
「えー!!」
ナタリーが絶望的な表情で抗議の声をあげる。
しかしウィンはナタリーの抗議に聞く耳を持たず、まあ本当に危なそうなら止めるから大丈夫だと笑ったのであった。
それに、とウィンは続けて、鍛えるには組手の効率が良い事を話し始める。
「戦いに必要な筋肉を鍛えるのには組手が一番効率が良いんだ。ただ組手は再起不能な怪我をする危険も様々な鍛え方の中でもトップクラス。まあこれは常識的な範囲内での話だがな」
「非識的な鍛え方して死にかけてた人がよく言うわね」
「そうだな、アレは自分でもどうかしてたと思うわ……頭オカシイ。死ななかったのは本当に奇跡としか言いようが無いな。
若気の至り、いや黒歴史か?
でも今ならまたできる気がしないでもnいや、やらねえからな??」
ナタリーはその『非常識な鍛え方』とやらが気になったのだが呆れた顔で突っ込むアリスと真剣な顔でそれを肯定するウィンを見て今度こそ本当に危なそうだと言う事を悟ると何も言えなくなったのであった。
ウィン式の手っ取り早い特訓は危険な順に並べるとこんな感じ。
1.五大迷宮巡り
(頭おかしい)
2.討伐クエスト
(頭おかしい)
3.強い奴と組手もしくは試合
4.討伐クエスト
5.盗賊狩り
五大迷宮と言うのは後から話の中にも出てきますのでお楽しみに。




