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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
第一章、黒い森の少女
13/33

そうそうソレよソレ

三日後。


散々森の中を歩いた末に、ナタリー達は森の最奥に限りなく近い場所にいた。


そして、三人の行く手にはどこまでも真っ白な濃霧が広がっている。


その霧は手を突っ込めば数寸先のその手が見えなくなる程に濃く、また何らかの魔力を纏ってその場に堂々と鎮座していた。



「……ねぇ、この霧って魔法だよね」


「あら、ナタリーちゃんも随分成長したわね。

それでこそ特訓のしがいがあるってものよ。

その調子で頑張りなさいな」


「うん」


「ふむ、僕はあまり魔力感知が得意ではないからよく分からないな……」



物珍しげに霧を眺めるナタリー。


彼女はアリスの言った通り、特訓により魔力感知の精度が段々と向上してきていた。


そして、そんなナタリーとは逆に魔法の才能に乏しかったらしく、チェルは魔力感知が苦手な様だった。


因みにアリスの教育方針は、『まずは何事も基礎から始めよ』であり、魔力感知とは全ての魔法を使う前に必ず出来なければならない基礎の基礎である。



ナタリーを見ながら何処か満足気な笑みを浮かべながらアリスは二人に目の前の魔法についての説明を始める。



「まず、この霧は『幻惑の霧』って呼ばれてる魔法でエルフの他にもヴァンパイアやナーガなんかも使えるものよ。

……というかほぼデフォルトね。

そして効果は術者の許可無く領域内に入った者を惑わせた挙句領域に入った地点まで強制的に戻すという物。

まあ普通に考えてエルフの里もこの先ね」


「って事はこの先にウィンがいるんだね?」


「そう。でもって今回はちょっとばかし力技で押し通らせてもらうわ。


霧があるなら吹き散らすまでよ。


あ、今回は省略せずにちゃんと詠唱するからナタリーちゃんは魔力の流れしっかり見ててね」



そう言うなりアリスはいきなり左手に持っていた水晶の様な超拳大の透明な石が頭に着いた杖を両手で掲げた。



「 “荒ぶ暴風は幾千の刃、そよぐ微風は幾千の癒し。

我が内にて渦巻く全ての根源たる生命の血潮よ、我が前方に存在せしあらゆる妨げを消し飛ばせ。”


≪ストーム・ブレイク≫」



詠唱が進むにつれて杖の先の石が淡く発光し、杖の先から発せられた魔力は周囲に溢れる魔力に干渉し風の流れを無理矢理歪める。



そして歪められた風は暴力的なまでに吹き荒び、魔力で固定されていた霧にぶつかると其れを創り出した魔力ごと吹き飛ばし、アリスの目の前にぽっかりと巨大な穴を穿った。


あっという間に吹き飛ばされた霧の合間から細い道が現れ、更にはちらほらと木でできた家が見える。



「うわぁ……えげつないというか何というか。

里が丸見えになった……」


「この威力なら騎士でも数人馬ごと吹っ飛ばされると思うんだが……」


「あら?思ったより霧が薄いわね」



ナタリーとチェルが呆れる中、アリスは予想外の霧の薄さに首を傾げていた。


とりあえず三人が里へ向かおうと足を踏み出すと、何処からか三本の矢が飛来し爪先すれすれの湿った土ににトトトッという音を立てて刺さった。



「貴様ら、我らの里に何の用だ」



現れたのは数人のエルフ。


その中のリーダーと思しき男が険を露わに女ばかりの侵入者に問いかけた。



「私達は仲間を返してもらいに来たのよ」


「仲間……あの黒尽くめの男か」


「そうそうソレよソレ」



最早ソレ扱いのウィン、哀れなり。


身も蓋もないアリスの受け答えにエルフの男は僅かに顔をしかめたが、ふとナタリーを見て僅かに目を見開く。



「……お前は勇者か」


「えっ、あ、はい。勇者です」


「ふむ。

…………族長に意見を仰ぐ。着いて来い」



数日前、アリスが語った様に光の精霊の加護を持つ勇者がいるおかげで無下には扱われなかったようである。



そうしてウィンを除く勇者パーティーの三人はエルフの里に入り、そこそこに手厚い歓迎を受けたのであった。



◆◇◆◇◆



薄暗く、微妙に湿った冷たい空気が流れるそこは牢獄。


そこには数日前からずっと『パチッ、パチッ』という何かを弾く様な音が延々と響いている。



「…………遅ぇ」



堅牢な木で組まれた檻の中で、いつもより数段トーンの低い声で唸る様に呟いたのは黒髪黒目の男。



ウィルフレッド・ウィルコックス。


__彼は閉所恐怖症だった。



ウィンは不思議な事にダンジョンや洞窟などは平気なのだが、『牢屋や何処かの部屋に閉じ込められる(・・・・・・・)』等といった事に異常なまでにストレスを感じる質であった。



その証拠に、今も目はすっかり座っており、そわそわと落ち着かない様子で頭を掻き毟りたくなる程の恐怖と強烈な苛立ちを紛らわすためか爪を弾いて音を鳴らし続けていた。


と、そこへ一人のエルフがやって来る。



「おい、ウィルフレッドといったか。

……お仲間の迎えが来たぞ、出ろ」



それを聞いた瞬間。

ウィンは苛立ちのあまり思考が上手くいかないのか一瞬だけ固まり、それから理解したのか少しだけホッとした様な顔でのっそりと牢から出る。



「……お前を捕らえた事情の説明を族長がされるようだ。案内する」



エルフはそう言うとウィンに一瞥もくれずスタスタと歩いて行く。


座りっ放しで痛む体のあちこちを伸ばしていたウィンは慌ててそのエルフの後を追うのであった。


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