要するに迷子か
誰がとは言わない。
ウィンは森の中……と言うよりもその森のもっと奥にある山の麓に居た。
勇者達がいる所から普通に歩いた場合、およそ二日はかかる位置だ。
「……あー、やっちまった、か、な?」
周りは静かで、音と言えば木々のざわめきと時々動物や鳥の鳴き声が聞こえる程度。
ぐるりと周りを見回す。
木、蔦、草、岩。
全くもって自然しか見当たらない。
「……はぁ。…アリスが魔力感知で見つけてくれるの待つしかねえなこりゃ」
先程の脱走を誤魔化すための変なテンションで割とムキになってウサギやら鳥やらを追い駆けたのが祟ったようだ。
ただでさえ基礎となる身体能力のスペックが異常なのだ。
そんなウィンが全力ではなくとも本気になって駆け回ればどれほどのスピードが出るのかなど推して知るべしであった。
とりあえずとんでもなく深い所まで入り込んでしまった様だ、と言う事だけは何とか把握したウィン。
そう。
齢27にしてウィンは、只今絶賛迷子中なのであった。
誰かのフォローならば殆ど失敗する事がないのだが、ウィンは自分の事となると途端に様々な事が杜撰になるためちょくちょく大人気ない失敗をするのであった。
今回も木に印をつける事を忘れたが故に戻り方が分からなくなったのだ。
(決してウィンが壊滅的な方向音痴だとかそういうことではない)
まあ一人ならば一人で何とかするし出来るのだが、その辺の事は良くも悪くもアリスに頼っているウィンである。
今回も例によって例の如くしっかり探し出してくれるだろうと楽天的に考えていた。
「……それにしても獲ったはいいがどうするかな」
ふと思い出した様に紐で足を縛って左手に持っている獲物を確認する様にちょっと持ち上げてて呟く。
鳥や小動物合わせて五羽ほどぶら下がっている。
撮ったはいいが本当にどうしようも無いのだ。
(理由は後程説明するが)ウィンには一般的な魔法が使えない。
それに火おこしの道具も野営場所に置きっ放しなので火を起こすには木切れを手で回転させて摩擦熱を起こすしかなさそうだった。
しかしあまり日の当たらない森の中。
殆どの木切れがしけっているのでそれも難しいだろう。
と言うよりも、それ以前に森の中で火を起こすなんて事は論外であるのでどっちみち肉に火は通せない。
流石のウィンも野生動物の生肉を食べる気は無い。
何故なら野生動物の肉は生で食べるとおおかた腹を下すのだ。
こんな森の中でそんな事になったらたまったものではない。
飲料水もまだ確保出来ていないのだ。
あっという間に脱水を起こして体力を失い、ぶっ倒れるに決まっている。
そうなったら後は野生動物に喰われるのを待つのみだ。
……と言うのは体験談であり実はウィン、過去に一度、本当にやらかしていたのである。
その時ウィンはソロで所謂ルーキーだったのだが、それはそれはもう『色々な意味で』酷い状態で後から同じ依頼を受けた他のパーティーに偶然発見され、一命を取り留めた。
__もう二度とあんな醜態晒してたまるか。
そう心に誓い、ウィンはそれ以降絶対に生肉を食べなくなったのだ。
「まずは水だよな……綺麗な水だ」
そう言って水が染み出していそうな岩場を探し出したウィン。
水については今は空だが腰に真水浄化の魔法が込められた小振りの水筒が結わえ付けてあるので余程汚染でもされていない限り腹を下す事にはならないだろう。
……小さい癖にアホみたいに値段が高かったが高いだけあり品質は折り紙付きである。
過去に水でも同じ様な過ちを冒していたウィンは大枚をはたいて買ったのだが、これまでに幾度、この水筒を買った過去の自分に心からの賞賛の言葉を贈ったか知れなかった。
そんなこんなである程度澄んでいるならばどんな水でも飲める様にはなるのだが、それでも元が綺麗な水程美味いことに代わりは無いので出来れば綺麗な湧き水なんかがあれば良いな、などと呑気に思っているのがウィンだった。
◆◇◆◇◆
一方、女子サイド。
「……ウィンが帰ってこない」
ナタリーが心配そうな顔で呟いていた。
そこにアリスが告げる。
「ああ。ウィンなら多分数日は帰って来ないわよ。いま多分ここから二日歩いた位の所にいるもの。」
「えっ、…って二日?何で??」
「な、まさか転移トラップでもあったのか?」
まあ当然の反応だろうな、などと相方のスペックの異常さを再確認したアリスは二人に想定出来る事の顛末を話した。
「さっきかなりテンパってたから気になってずっとウィンの魔力追ってたのよ。……で、魔力は一時活性化して凄いスピードであっちこっち移動したの。それから暫くして沈静化、それから何となく不安気にうろうろし出したのよ。しかもよりにもよって奥に進んでくし」
「つまり?」
「……多分調子乗って身体強化しながら動物追っかけててそのうち迷って帰って来られなくなって戻ろうとしたはいいけどそのままどんどん奥の方に行っちゃったって感じね」
長年一緒にパーティーを組んでいたのは伊達ではなく、アリスはほぼ限りなく現実に近い予想をたてた。
「……要するに迷子か」
「ウィンってそろそろ三十路だったんじゃ……」
「……確かウィンは27歳ね。本当、アイツいつになったら大人になるのかしら」
◆◇◆◇◆
「…ハッ、ハッ、ファックショォイ!!」
豪快にくしゃみをしたウィン。
「……ちと冷えるな。風邪でも引いたか?」
己のあずかり知らぬ所で今回の件について、すっかり呆れ果てられているというにも関わらず、呑気なものであった。
き、基本的に男は皆心の何処かに少年が住んでるんですよきっと(作者は♀なので男性の心理描写に偏見があるかもしれませんがご容赦下さい)。




