4言目 動き出す2人と安堵する1人
「ん〜、よく寝た〜」
麗香は窓際に寄って、のびをした。
気絶後、割とすぐに復活し、状況を飲み込めば、もうごらんの通りだ。
(心が強いな)
それを複雑な表情で見つめる。
他方、依頼主直子さんは……
「あ、あのー」
明らかに困惑している。
まさか、どうしましたか? なんて尋ねるはずはなく、
「麗香! 早く、事件を解決させないと!」
猫みたくくつろぐ所長を呼ぶ。
「う? あ、ああ、そうね」
柔らかく微笑むのだが……。
(今そんなスマイルいらない(汗))
窓から離れ、麗香は、部屋の中ほどにある小テーブルまで歩いた。
「事件のキーワードは、、でいいのよね?」
真剣そのもので確認をする。
対する僕は急変に面食らって、一時言葉を失うが、
「そうだ」
とはっきり返す。
「直子さん。しつこいようだけど、という氏名の人は、お母さんの知り合いにいなかったの?」
「はい。いませんでした」
麗香の二度目の確認に、態度の変化なく答えた。
「と、すると……」
眉間を親指の腹で押さえる。
幼なじみの癖は、真似できる程把握している。
だから、目の前の光景が意味することは、手に取るように分かる。
麗香ー我らが頼れる言葉探偵が
ついに、その才能を発揮するー!!
「和博」
「何だ?」
「ノート用意」
右腕をこちらに向けて、ピクピクと振る。
どうやら、ノート出せ、ということらしい。
指示されるままに学習机に着く。
「ノート、準備したぞ?」
「じゃあ、あたしが今から言う単語を羅列して」
眉間に指を当てた姿勢は変わらず、声だけが響く。
「いくわよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(ようやくですね)
私は心密かに、安堵した。
正直、彼らに任せて良いものか、疑問を抱きつつあったのだ。
母、幸詩織の死は、耐え難い苦しみだった……。
高校に入学し、楽しい学校生活を期待していたその矢先のことだったから、尚更傷は深かった。
私はショックから未だ立ち直れず、学校にも行っていない。
担任の先生も、事情を配慮してなのか、声を掛けてこない。遺された家族も同様だ。
そのため、完全に暇を持て余した私は、引きこもりのようにパソコン暮らしの日々となった。
この状況は良くないと思ったが、やめられず、ダラダラとネットサーフィンを繰り返した。
その波の最中に見つけたのだ!
母の死の鍵を、解き明かす人を!
警察は、母を事故死と判断していた。
けれど、それは疑わしい。
何しろ、母は、ダイイングメッセージを遺したのだ。
『何も無いのに、そんなものを書くでしょうか?』
私の疑念に警察は
『指が、偶然、そう動いたんじゃないですかね』
と有り得ないようなことを言って、てきとうにあしらった。
これほどショックだったことは、そうあるまい。
おそらく警察の方々は、早く飲みに帰りたかったのであろう。
腹が立つ以前に、唖然としてしまい、二の次が出なかった……。
とにかく、このダイイングメッセージが真実の扉を開くと、そう信じて疑わない。
この確信は、今も、当時も、変わらずにある。
『言葉探偵ー言葉が関係する事件を解決します』
鍵が姿を現そうとする中、このブログにあった紹介を読んだ瞬間の興奮が蘇る(まあ、この興奮の余り、傘もささずに駆けつけたのですけど……)。
目の前で、鍵を手にしようとしている山田麗香。
その光輝く姿は、聖女ジャンヌ・ダルクのように映った。