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3章 ほろ酔い気分

ビル大陸に連れて行くという男の提案を受け入れた一行は、用意された船に乗り込む。そこで食事をしたのち、ウェールの口から二人の過去が語られる。

3章 ほろ酔い気分

 にわかに揺れる船の中で、俺たちは夕食をとった。味も量も最高だった。

 ユウカは、食後に出された飲み物を見つめていた。

「何だよ、この赤黒い液体は。」

「これは赤ワインだ。バイザー国にはあまりないが、こういう飲み物だ。」

そう言いながら、俺はワインを飲んでみせた。なかなかいい味だ。ユウカはしばらくためらっていたが、意を決したのか一口飲んだ。

「!!~~~あぁぁ~~~~~~」

ユウカが、変な声をあげた。ウェールは、その光景を不思議そうに眺めている。

「おい、こらジン!なにフツーに飲んでんだよ!毒でも飲んだかとおもったぞ?」

「まあ、初めてではきついだろうな。」

ユウカの嫌味を俺は軽く受け流した。あまりにもおかしくて、つい笑ってしまった。むっとしたユウカが飲み干す勢いで飲んだ。例の奇声をあげながら。

 すると、急にくたっとしてしまった。そのまま、すーすーと寝息をたてる。グラスのワインは半分ほどしか減っていない。子供というせいもあるだろうが、かなり酒に弱いらしい。

 俺とウェールでユウカを寝室まで運んだ。ベッドに乗せると、千鳥足で立ち上がり、ウェールにしがみついた。ウェールはベッドに座り、俺はそばにあった椅子にこしかけた。「うぇーる・・・」

聞いたこともない、甘い声でユウカが言った。こうして見ると、男勝りの威勢が消えてしまったように見える。しかし、ユウカは抱きついている状態なのだが、ウェールは頭をなでているだけで、抱き返そうとはしていない。

「その子を抱かなくていいのか?」

俺の問いに、ウェールはうつむくだけだった。やがて、一枚の紙切れを懐から取り出し、俺にさしだした。

 それは新聞の切り抜きで、見出しには『怪盗アシラ捕まる』と書かれていた。どう関係があるのか分からないが、とりあえず読んでみることにした。

 怪盗アシラは、4年ほど前から貴族を騒がした泥棒で、どんな罠も打ち破り盗みをはたらいていたという。顔をマスクで覆っていて、正体が分からなかったために『アシラ』と呼ばれていた。捕まえた際、子供だったため、素顔は一部を除いて知られていない(捕まえた人たちと、最後の貴族のみが知っているという)。

 ウェールはユウカを指さした。そして、口の形だけで『こいつ』と言っていた。

 俺は体中に稲妻が走ったかのような衝撃を受けた。ユウカが怪盗アシラだってことか?『それともか・・・』『まさか、かっさらってきたとか言うんじゃないでしょうね?』

マリンとキララの言葉が脳裏によみがえる。あの二人はそれを知っていたのか?そういえば、罪人の更正をする収容所にいたと言っていた。だとすればつじつまがあっている。だが、とてもそんな悪人にはみえない。ただ、それよりも気になることがあった。

「それは分かったけど、ユウカを抱けない理由になってないぞ?」

俺が聞いたのはユウカを抱けない理由だ。しかし、いまいち話がつながらない。

「あの時抱いていなければ、悲劇は起こらなかったかもしれない。」

俺は耳を疑った。しかし確かにウェールは弱く悲しい声でそう言った。何か後悔しているようだが、何のことか分からない。俺が唖然としていると、ウェールが口を開いた。

「私が初めてユウカと会った時、私はユウカを抱き上げた。」

あいかわらず弱々しい声で、ウェールは言った。

「・・・そのせいで、彼女は私にだけ心を開くようになってしまった。そしてそれをバイザー王に利用された。・・・その後はいうまでもないだろう。」

「まだ後悔してるから抱けないっていうのか?女に抱きついてもらえない男のほうが多いってのに。」

俺はウェールに一喝した。すでに怒りが込みあがっている。

「そうだ。私はまだ、ユウカを抱けない男だ。自分を許せていない。」

ウェールの青い瞳には、決意の光があった。弱い声にも、力がこもっている。そこまで言われて、言い返せなかった。収容所に連れてこられたユウカをなだめるためにとった行動が、結果的に裏目にでてしまったことを後悔しているのだろう。

「後悔するのは勝手だが、もう少し前向きに考えたらどうなんだよ。」

そうは言ったものの、言葉に説得力が無いのは分かっていた。

「そう・・・だな。ありがとう、ジン。」

ウェールはほほえみかけると、自分のベッドへ入った。俺もベッドへ仰向けになり、天井に映った夜空を見上げた。過去を乗り越えるのは楽じゃない。けれど、過去を見なければならない時もある。一緒に過ごすからには仲間も見ないとな。星空はその思いに答えてくれるかのように輝いていた。

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