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終章 そして物語は受け継がれる

 足下から伝わる、重低音。青く澄み切った空。黒髪を揺らす風。そして、眼前に広がる、バイザーの大地。バイザー城って、こんなに美しかったのか。こんな気持ちで空から城を見るのは初めてだった。



 ここは、飛空艇“イーグレット”の甲板。世界を揺るがす戦いに終止符が打たれ、平和が訪れた。仲間たちは自分の故郷へと帰っていった。もっとも、ユウカとウェールは未だに帰って来なかったが。それが、祖国バイザーへ帰る俺の、唯一の遺憾であった。あの二人は、どうなっただろうか。そのことは、誰も知る由がなかった。








 それから、数日後――――

「将軍、まもなくバイザーに着きます!」

「よし、着陸態勢に入れ。」

ゴウゴウというプロペラの音に負けないよう、俺は声を張り上げて叫んだ。すぐさま、飛空艇の隊員たちのかけ声が答える。飛空艇は、バイザーの地に降り立った。

「それにしても、最近任務が多くないか?」

隊員の一人が、ぶつぶつと愚痴を言う。飛空艇部隊の出動は、今日だけで6回にもなった。以前は1~2回であったから、隊員が文句を言いたくなるのも無理はない。

「仕方ないさ。我々に課せられた義務は、戦争によって傷ついた国々を援助することだからな。さあ、これから忙しくなるぞ。」

「しょ、将軍!?聞いておられたのですか?」

俺が答えたことが意外だったのか、叱られると思っておびえたのか分からないが、その隊員は慌てて敬礼の姿勢をとった。俺は彼をなだめてやる。その時、一人の大臣が話しかけてきた。

「ジン将軍、戻られましたか。陛下がお呼びです。至急王の間に来て下さい。」

「父上が?分かった。すぐ行こう。」

また新しい任務でも言い渡されるのだろうか。疲れてはいたが、俺は足早に王の間へ向かった。




 王の間には、陛下と大臣だけでなく、3人の俺の兄も控えていた。皆がここに揃っているのは珍しい。

「父上、只今戻りました。」

玉座の前で、俺は手を地につけ、頭を垂れた。将軍という立場が身についていたから、自然とそういう対応になる。

「かたい挨拶はよい。楽にしなさい。」

「はっ。」

体を起こし、立ち上がる。数段高い父親の顔を、正面からとらえる。

「ここへ呼んだのは、おぬしに頼みがあるからじゃ。・・・ジンよ、このバイザーの次期国王になってはくれまいか?」

俺は驚きのあまり、目を見開き声を失った。まさか、この自分が王になる日が来るとは、夢にも思わなかった。

「私が、ですか?しかし父上、私は4人兄弟の末っ子。王になる権利も、資格もありません。それに、王となるための勉強もまだ・・・」

頭が混乱し、何を言っていいか分からなかった。俺は王族でありながら、王になることなど考えてもしなかった。むしろ、王となることを避けていた。武士という道を歩むことによって。だがそんな俺を、父上は優しい瞳で答えた。

「何も今決めなくともよい。おぬしが気持ちを整理させ、自分の道を決める覚悟ができてからでよいのだ。」

そうは言われても、簡単に気持ちが決められるものではなかった。

「大丈夫。王の勉強は今からでもできるよ。私たちがジンを王に推薦する一番の理由は、ジンが“私たちにはない経験”をしているからだ。このバイザーをよりよくするためにも、お前に王位を継いで欲しいと考えたんだ。」

兄上が、助け船を出してくれた。俺は、期待されているのだ。その思いを、無駄にはしたくない。

「分かりました。少し、考えてみます。」

俺はそのままきびすを返し、自分の部屋に戻った。



 しかし、気持ちを整理できる訳がない。考えても考えても、堂々巡りを続けるだけで答えは出てこない。王になるかどうかの決定は、俺の人生を決めることでもある。正直、俺は不安だった。俺に王の資格があるのか、王になったことで、本当にこのバイザーがよくなるのか。俺には技量も経験も足りないのではないか。その思いが、俺に決定を渋らせている。ただ、この国を変えたい、そういう思いが無い訳でもなかった。差別や貧困、それをどうにかして改善したいと。二つの気持ちが交錯し、考えはまとまらなかった。



 翌朝。俺は王の間へと出向いた。

「父上。例の件ですが、私なりに決定を下しました。」

おお、と歓声が上がった後、再び静かになる。

「私は、王になります。」

「そうか、よくぞ決めてくれた。王位継承の儀式は後日執り行う。準備せい。」

もう、変えられない。けれど、これでいいのだ。



 このことはコルツァイア中の国々に伝えられ、各国の王や大使がバイザー新王の冠載式へ訪れた。式典までにはあと1時間ほどあるが、大広間には様々な国の人が集まり、次期国王となるジンのもとへと挨拶している。

「このたび次期バイザー王となられること、お祝い申し上げます。」

マンドの正装をしたレインが、俺の前にひざまずく。緑地に青の麒麟が描かれた服だ。

「かたい挨拶はよせよ、レイン。俺とお前はともに戦った仲間だろ。それに、まだ式典は始まっていないし、お前の方が年上なんだから。」

「しかし、私にも立場というものがありますゆえ。」

姿勢を崩し、レインは立ち上がったが、堅苦しい言葉遣いを改めようとしない。そんな彼に、俺は少し苦笑した。今まで立場なんて気にした態度はとっていたことがないのに、よく言えたものだ。そう思っていると、淡い水色のドレスに身を包んだ少女が、俺の前へ来て礼をした。

「ジン様、お招きしていただき、ありがとうございます。」

満面の笑顔で俺に挨拶したのは、魔倉の少女、アカネ。あまり服を着込んでいるところを見たことがないためか、やや大人びて見える。

「こちらこそ。来てくれて嬉しいよ。」

俺も笑顔を返す。そのほかにも、様々な人と挨拶を交わす。

「わざわざご招待下さって、申し訳ないくらいです。」

「い、いいのかなあ。私みたいな人が来ちゃってさ。」

キララとマリン。彼女らは国に呼ばれた訳ではないが、世界の平和のために戦ったということで俺が呼んだのだ。




 ふと、入り口の辺りが騒がしいのに気付いた。

「何かあったのか。」

俺は警備兵に尋ねる。振り向いた兵はこちらの姿を確認するやいなや、すぐさま敬礼の姿勢をとる。

「はい。先ほどから怪しい二人が中に入れて欲しいと言って聞かないのです。」

「分かった。何とかしよう。」

そう言って、俺は大広間のドアを開けた。だが俺は、その“二人”の姿を見て、固まってしまった。漆黒のマントを羽織り、長く伸びた茶髪とエメラルドグリーンの瞳をした少女。そしてもう一人は、ブロンドの髪とブルーの瞳をした、背の高い青年。

「よう、ジンじゃねえか。きいてくれよ、こいつらおれたちを入れてくれないんだぜ?」

やや冗談めかした言い方で、少女はニッと笑う。

「お前ら、無事だったのか!」

驚きと喜びで思わず声が裏返り、目が潤む。

「言っただろう、死にはしない、と。」

確信を持ってそう告げられる。生きていた。二人とも、生きていたんだ。




 かくして、バイザーに新たな王が生まれた。盛大に、厳かに、式が執り行われる。新たな王の頭の上に、冠が載せられる。それと同時に、歓声が上がった。

「ジン様、万歳!バイザー王、万歳!」




 始まりは、たった一人の男の欲望だった。しかしその欲望は世界を巻き込み、やがて大きな戦乱をもたらした。人々は戦火におびえ、救世主の到来をただ待つのみであった。

 そこへ、5人の戦士が現れた。彼らは激闘の末、この世に平和を取り戻したのだった…


 この話は伝説となり、コルツァイアに伝わっていった。


 はい、『魔法使いの世界』ようやく完結致しました!!

ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。


 ラストの終わり方は、何かベタでしたね…すみません

名前は出ていませんが、もちろん皆さんは“二人”の正体が分かりましたよね?


 最終回まで行きましたが、この小説では今だ深く説明しきっていない箇所が数多く存在します。

どうにも腑に落ちない人は直接聞いてください。

それでは他の作品で会いましょう!

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