キミに決めた
俺は自分で未来を描けない。
昔も今も、なんとなく生きていただけ。
そんな時声をかけられた。
『私のパートナーはキミにするっ』
当初は、その言葉が自分に向けられているとは思っていなかった。
雑用ばかりやっていて、生きている人間だったから。
そんな人間が、これから冒険者としてやっていく仲間に選ばれるなんて思う方がどうかしている。
けど。
『ねぇ、私はキミに言っているんだよ?』
カツカツと近寄って、声をかけられて、ようやく目の前の相手が自分に向かって話しかけていると理解した。
『・・・・・・誰かと間違えていない?』
年は同じくらいだろう。
青い髪をツインテールにして、ジャケットを身に纏い、黒のトップス、白のショートパンツと動きやすい格好に、所々にレースなどのアクセントが加わった、冒険者らしい格好だ。
初めて見る顔だった。
だから誰かと勘違いしているんじゃないかと思ったのだ。
『ううん、間違えていないよ。私はキミがいいと思って声をかけたんだ』
瞳を輝かせてキミ、名前は? と聞かれ、名前を聞かれるなんて機会早々なかったから、即答できずにぼそぼそとした声で答える。
『アマネ・・・・・・うん、私はシルフィ、アマネ――キミは世界の神秘に興味ない? 見た事のない場所、空想が現実になったような、そんな夢のような場所を見て回るのってどう思う?』
それは、彼女が冒険者ギルドに登録していたときに宣言した内容。
『どう? 私と同じような人間はここにいない?』
そういって振り返り、ギルドにいる面子を見回したのだ。
バカにしている人間がいた。
微笑ましいと思っているであろう人間がいた。
無視する人間がいた。
そのなかで、俺は――。
『やっぱり、キミがいい』
『へっ?』
満面の笑みの意味がわからず呆気にとられる、すると。
『キミは私の夢を馬鹿にして笑う所か、まるで宝物をみる子供のように瞳を輝かせていた。だから私はキミを選んだんだよ』
思わずそんな理由で? そう声に出した。
『大事な事だよ、夢を共有する相手はやっぱり、一緒に喜びをわかちあいたいじゃん』
笑いながら手を差し出すシルフィ。
『・・・・・・』
誰かに誘われるなんて、今まであっただろうか?
昔ならあったかもしれない。
でも、今俺にこんな笑みを浮かべて手を差し伸べる人間はいない。
だからだろう。
『――――』
思わずその手を取ってしまったのは。
そして。
『よろしくアマネっ』
心が定まらないまま、俺の未来が変化したのは、きっとこの時。
生まれ育った村で生涯をおえる、そんな未来はなくなったんだ――――。
世界の神秘を巡る。
魅惑的な言葉であるが、俺が最初にした事は
冒険者として登録して、いくつかの依頼を受けて旅の資金を貯める事だった。
当然といえば、当然の話。
旅をするのにはお金がいるし、お金を稼ぐには仕事をこなさなければならない。
だから、長年していた雑用をやめ、シルフィと一緒に冒険者になった。
けれど。
『もう最悪~』
今回の討伐対象は、ストーンフロッグは泥を吐き出す魔物。
その泥を浴びたシルフィはベトベトになった身体を引きずるように歩いていた。
『・・・・・・ごめん』
明らかに、俺が悪い。
俺がぬかるんだ地面で足をとられ、シルフィが気をとられた瞬間、口から吐き出した泥を浴びてしまったから。
やっぱり雑用しか出来ない俺は全くの役立たず――――
『そんなわけないじゃん、アマネはなんていうか、自分を低く見すぎだよ』
泥だらけのシルフィが口を尖らせて言った。
『さっきの戦闘もさ、怖がってるわりにはしっかり役割こなしてくれてたし、あとミスするたび謝りすぎ。反省はすべきだけど、それはお互い様でしょ』
『でも・・・・・・』
『でもなにもない、ごめんは一回でOK! わかった!?』
『・・・・・・あい』
『よろしいっ、ま、最初はこんなものでしょ、世界を見て回ろうと思ったらさ、やっぱり経験と知識とお金がいる。そして繰り返し仕事をこなしていくなかで、失敗なんて何度もある、その度に自己嫌悪に陥っていて、頭を下げ続けるだけなのは、ただ足を止めているだけ――違う?』
『そう、なのか?』
『そうなの! いい? 反省はさ、いくらでもすればいいよ、ただ自分が役立たずだとか、失敗する度に平謝りするだけして、顔を上げないまま、次に活かさないままなんてもったいないよ』
『もったい・・・ない?』
それは初めて聞く話しだ。
『だってそうじゃない、アマネは今日“初めて挑戦”したんだよ? 挑戦っていうのは、やったことない事、できなかった事、そういった事に挑んで、悩んで、苦しんで・・・・・・でも、そういった経験をしたから、同じ事をしても、初めての時と全く違う・・・・・・そうでしょ?』
そう言われて、思い返す。
今日した仕事、聞いた事、見た事、学んだ事。
失敗したこともちろんあるが、確かに初めてと今では、違うことがある。
もちろん、じゃあ次同じ仕事をして、絶対失敗しないかと言われたら自身はないけど。
それでも、絶対、今日と同じままじゃない事は確かだった。
『うん、いい顔。――――ねぇ、今日キミも私も散々だったけどさ』
泥だらけの身体を指さして笑う。
『でも、それでも、私達は出会って、同じ目的で手をとって、夢を叶えるために一歩踏み出した・・・・・・そしてこの失敗も絶対無駄にならない、だから――』
その顔は、汚れた顔とは裏腹にどこまでも晴れやかだった。
『今日は、とっても良い一日だったと思わない?』
脳裏をよぎるのは嘗ての日々。
嘲笑と叱責が多く、自身にもこれといって価値を感じなかった。
でも、今は。
失敗もあって、泥だらけで、良いことばかりではなかったけれど――。
それでも、今までに得られなかったものと、なにより、俺の前でこんなに朗らかに笑う人下はいなかった。
『確かに、そうかもしれないな』
『でしょ?』
にんまりと笑うシルフィを見つめ。
『はは』
気づけば自然に笑って。
『ふふっ』
最終的にはお互い声をだして笑った。
心の底から楽しいと思えた。
それが、俺達の始めての締め括りとなったのだ。
そうして、冒険者の仕事をこなしながら、旅を始め、色んな所を巡った。
最初は街のそばの遺跡を探索した。
『宝物はないし、新しいものはないかもだけど、街以外の場所を実際で見聞きするだけでも違うわよね』
『ああ、すげぇ』
自然と建物で織りなす風景、匂い、肌で感じるもの、全てが新鮮だった。
色んな魔物との戦闘、徐々にではあるが、自分の身体が動かせるようになって、でもそれでも色んな失敗を繰り返す。
『あちち!』
『油断しない!』
俺のミスや油断をシルフィがフォローしてくれる。
それが頼りになる反面、そのままではいけないと思った。
だから、少しでもと、ミスをしないようにではなく、自分にもできることを探し始めた。
『アマネは、なんていうか、魔力を練ること、後は風の属性の魔法が得意みたいね』
『そうなの?』
『うん、なんていうか、属性は単純な相性だと思うけど、アマネはさ、自分ができることをできたで終わらせずに、そこから更によくできないか、そういう思考の持ち主なのね、だから改良を何度も重ねて、独自のやり方を身につけていく・・・・・・私はどっちかというと、できることから最善を探すほうだから、そういった強みは凄いと思うわ』
何気なく言われた言葉で、心を震わせ、さらにやる気が満ちた。
この時、自分ができることをこなすだけの自分でなくなった。
誰かに認められるようになりたい、そうなろうと思い描くようになる。
そんな風に、少しずつ経験を重ね、旅を続け、色んな人や場所をめぐり。
そして今日。
俺達は、数十年に一度見ることができるという神秘を体験するため、星降る丘という場所を訪れたんだ――――。
『お前さん達は運が良い』
星の欠片と呼ばれる街の宿で、入手した情報によると、明日は流星群が見られるとの事、しかも。
『腕に覚えがあるなら、丘の頂上にいってみな、道中の森は危険だが、抜けた先の花畑は星の魔力に反応して青く光る―――流星群と花畑があわさった景色は・・・・・・それはそれはキレイなもんだ』
危ないから何度も行ける場所ではないが、人生に一度は見ておいた方が良い。宿の主はそう言った。
そしてそんな話しを聞けば、当然俺とシルフィはその場所を目指す。
そのはずだが。
『・・・・・・』
『シルフィ?』
シルフィはその話しに即答せず、何やら考え込んでいる様子だった。
『・・・・・・あ、ごめん・・・・・・うん、星降る丘の流星群と花畑、良いと思う――――今日はしっかり休んで明日行ってみましょっ』
シルフィは明るく笑うが、それはどこか取り繕っているような印象を受けた。
『あのさ――』
『・・・わかってる、あのね、アマネ明日さ、星降る丘についたら、話しがある・・・・・・それまで・・・・・・まっててくれる?』
『・・・・・・わかった』
それは、今のことだけじゃなく、最近少しだけ考え込んだり、悩んだり、そういった出来事が増えたことへのものだと思った。
だから、問い返したい気持ちをぐっとこらえ、俺は頷いたのだ。
そうして、今俺とシルフィはここにいる。
夜はまだ訪れていない。
夕日が沈むまでには、あと少しだけ時間があった。
「あのさ、アマネ」
「うん?」
ここについて黙っていたシルフィが口を開く。俺は何事もなかったように返事をした。
すると。
「アマネは・・・・・・これからも私と一緒にいてくれる?」
「へっ?」
唐突に言われた言葉に、呆気にとられてしまう。
それは全く予想していないものだった。
「私がキミを連れ出してさ、色々な所巡って・・・・・・私ね、アマネに感謝してる」
思わず感謝しているのはこちらの方だ、と口を開きそうになる。
それでも黙っていたのは、こちらを見つめるシルフィの瞳が、心からの感謝をこめているように見えたから。
今シルフィの言葉を止めたらいけないと思った。
「私の夢を笑わなかったこと、一緒についてきてくれたこと、色んな失敗や成功を乗り越えて、何度も素敵な出会いや景色に出会えた・・・・・・」
俺から視線を外し、沈む夕日をみつめる。
淡い光に照らされたシルフィは、憂いを帯びていた。
「頼りなるたび、少しずつ不安も増えていった。最初は失敗も多くて、フォローしなくちゃ、って思ってたけど、キミは少しずつ成長して、私の予想外に力を身につけて・・・・・・アマネは気づいていないかもしれないけど、今のアマネはさ、もう、私以外の誰かを選んでも、いいんだよ?」
初めて見た。
いつも引っ張ってくれた、明るく前向きな彼女が、弱々しくしている姿を。
そして、気づいた。
俺はまだ決めたわけじゃないのか、と納得した。
正確には決まっている。
けど、それを口にしたことは一度もなかった。
ただ必死だったから。
差し伸べられて掴んだ手を離さないように。
置いて行かれないように必死だったから。
だからわからなかったけど――――。
「・・・・・・」
その姿をみて、重なる。
何も選ばない、選ばれない。
そんな嘗ての自分と。
「シルフィ」
だからちゃんと口にしないと。
そう思って、あの日キミと同じように満面の笑みを浮かべた。
夕日は沈みきって、空は流星が瞬いている。
足下には青く光る花で溢れていた。
まさしくそれは最初にシルフィがいっていた、神秘そのもの。
あの時は遠いと思っていた場所で。
しっかりと聞こえるように、口を開く。
俺が共にいる相手を。
不安で仕方ないであろうキミに向かって。
――キミに決めた、と。
最後まで読んで頂きありがとうございましたっ




