部員補充譚 息抜き2
没頭しているからといってここまでお熱になるのは話が違う。
昭穂は目の前に現れた慧もどきに困惑していた。
「相手のことを好きになるには、相手の知らないとこを知ればいいんですよ」
と、薄っぺらいアドヴァイスを自慢げに耳打ちしてきた涙は自分の施しに満足といった様子であった。
「ハイスクールガール・モード:疎まれ美人風紀委員の私腹コーデ(夏)です!」
なんということだ、慧はいつもの制服を脱ぎ去り、ハイスクールガール・モード:疎まれ美人風紀委員の私腹コーデ(夏)にフォルムチェンジしていた!
なんだそのダサい名前は。
「家のタンス漁ってたら似合いそうな服があったの。だから今日持ってきて試着してもらったんだけど可愛くない?」
涙は自慢げに慧の隣に並ぶ。
「なんなんだそのひらひら」
慧は自分の袖を持ち上げるとそんなことも知らないのかとため息をこぼした。
「フリルです。女の子はフリフリが好きなんですよ」
「そうですよね!ほら?可愛いでしょ、紀伊さん」
こそこそと涙はちょっかいをかけてくる。恋愛という最高のエンタメを手に入れた男子小学生そのものだ。
「こんな可愛い子逃したら後悔しかしないですよ、お兄さん」
すこし慧に毒されはじめたかもしれない。こうなれば手遅れだ。
それに、可愛い服を着飾るだけで覆い隠せるとんちんかんであるのなら俺は惜しみになく彼女の衣服にお金をつぎ込み着せ替えリカちゃんよろしくお着替えさせていたであろう。
「フリルのこの段になっているところって、なんかラブカみたいだよね。エラみたいでかわいい!るいちゃんありがとう!」
そういうところだ。
みろ、涙の絶句した顔を。彼女は今後同じような服を着るたびにお前の言った言葉を思い出して、自身とラブカの姿を重ねてしまうのだ。これは人生における大きな損失である。
慧の近くにいれば彼女の摩訶不思議な想像力とそれを上手く言語化できない頭打ちの語彙力で世界のいろいろが変形していくのである。もはや厄災だ。
「あ!かずまくんも来てたの?放送部にも慣れたかな」
「もちろん。こんな可愛い女子が2人もいるんだから来ないと損だよね」
「とか言って、本当は昭穂が目当てじゃないの」
まだ姿見のことをそっちの目で見ているのか。
「まさか!こんな独活の大木に穴開けような目の保養にすらならない男の子目当てに来る物好きなんてそうそういませんよ」
おい、傷つくじゃないか。
「よかった!昭穂も男の友だちできてよかったね」
今の言い草から友だちと判断するに至った思考回路というものをみてみたいものだと昭穂は本気で思った。
制服ではない服装に昂揚していたからだろうか、いつもと異なる雰囲気の慧はそのポンコツぶりに拍車がかかっていた。
「て、ことで今からゲームをします。制作者は私です」
その信頼たる言葉によりこのゲームが破綻していることは約束された。
「題して、己がステータスで戦え!自己顕示ゲーム」
慧が言うにはこうである。
それぞれ手渡された白紙の10枚カードに自分のステータスを書く。家の大きさでもいいし、特技でもいい。相手の出したステータスに対して勝てると思えるカードをその上に重ねる。そしてそれぞれが勝てないと思ったところで一番上にあるカードを出した人が勝利。重なった枚数分のシャーペンの芯を獲得できる仁義なき戦いをしようではないかと言うことであった。
勝ち負けの裁量は個人が決めていいと言うことで強情なやつほど得をするこの世の心理を突いたとても面白そうなゲームである。
「私は提案者なので例として今回はカードを見せてあげます」
・声がいい
・愛嬌がある
・達筆
・押しボタン信号を車が来ていなくてもちゃんと押して渡る
・コピー機のものまねができる
・ほっぺが柔らかい
・時報のものまねができる
・甲子園のサイレンのものまねができる
・国語の「山月記」読み聞かせ音声の真似ができる
・料理が上手
「なんで電子音のものまねばっかり上手くなってんだよ」
「聞いてて真似したくなるんだよね。やってみようか」
「聞いたところで似ているかどうか分からんからいい」
でもこれなら勝てる。昭穂はどうしようもない負けず嫌いであった。幼少期はその性格のせいでドッチボールにおける無差別殺人犯の称号を欲しいままにしていた。
そしてまたその男に負けないほどの負けず嫌いが涙であった。
こんなどうでもいいカードゲームですら静かに戦いの火花を散らす2人を見て姿見は幼子をもつ親の気持ちが今初めて理解できた。なんて可愛い2人なんだろうかと暖かな眼差しで2人のにらみ合いを見つめる。
昭穂の一手で戦いの火蓋が切って落とされた。




