部員補充譚6
「言われたとおり優秀な頭脳をいれましたよ、柳さん」
あれから1週間後、やっと開かれた代表者ミーティングで昭穂は成果を力説する。
「入部したのは新たに齋藤涙、姿見かずまの2名です。2人とも成績も申し分ないですし、何よりうちの学年では名が知られている人物です。これで、放送部の威厳は保たれますかね」
そもそもなぜ新たな部員を補充しなければいけなかったのか、その元凶がこの中村派代表・柳奬成である。
明澄ブロウドキャストは完全中立の組織だ。全校生徒500名のうちどちらの派閥にも所属していない、いわゆる白と呼ばれる生徒たちの指針となるようにする必要がある。学校裁判の陪審員、行事の運営、生徒会選挙委員会などを執り行う白の学生は両陣営からも干渉されることなく中立の判断を下さなければならない。割合でいえば5割に占める白の扱いは学校運営において重要なのだ。
そんな大役をなぜ放送部が請け負っているのか、それは設立に大きく関わった先輩のお陰である。
黛清司郎。2年生で生徒会長になると公平公正の学校運営を高く評価され、両陣営からの熱い信頼を獲得した。しかし3年時には選挙に立候補をせず、放送部の設立を強行した。こんな第3の組織は彼でなければ立ち上げすら困難であっただろう。
生徒会と両陣営代表からの許諾をとり、白に関わる権利の多くを生徒会との共同管理する事となった。例えば各教室、部室のスペアキーの管理や放送部、放送設備の独占使用権、インターネット用のエネルギーセンターの管理もまた委任された。
それは代表が黛であったから許されたことであり、彼がいなくなった今、そこに対しての不満が代表者、生徒会から噴出しているのである。
そしてついに解散の意見書が今年の3月に柳から提出された。これには生徒会長も苦笑いで、「まあ、あの慧ちゃんだからね、不安になるのはぼくも一緒かも。だから1人2人優秀な人補充して」と受理した。
人気だけなら慧1人で十分だった。彼女はまだなにもしていないのにカルト的な人気を誇っており、下級生上級生問わず、顔を知られている。お昼の放送も彼ら彼女らにとっては唯一といっていい彼女との交流手段であり、ありがたがられているという。
しかし駆け引きでは彼女はあまりにも弱すぎる。流れを読み、人を読む力。それが彼女には欠落していた。彼女は白つめ草の王冠が作れることをこの世で通じるスキルだと信じてしまうぐらいには乙女であった。メルヘンランドの住人とまでは行かないがやはり地面から2ミリ程度は宙に浮いているだろう。抵抗がなくて廊下を滑走しているのをよく見かけるし。
だから本当は部長の入れ替えが条件であった。そこをどうにかこうにか生徒会にも協力してもらいメンバーの補充という形で決着をつけることができたのである。ここには昭穂の苦労が絶えない裏話も多くあるが、それはまたいつか。
「そこまでして、なんであの女にこだわるんだ」
不満そうな柳と愉快そうに眺める東風派の高崎架純の含みのある視線がこちらに向く。
「まあ、先輩方みたいに彼女は政にお熱ではないので。現実路線で行くならああいう人間じゃないと駄目なんですよ」
昭穂は彼女をトップから降ろさせる気はない。それどころかこの学校での一番に、生徒会長よりも偉くなってもらうつもりなのだ。彼女の持っている本当の強かさを知らしめること、それがこの明澄ブロウドキャストの目的である。
「あのバカがね~」
「はしたないよ柳。中村派の方が問題ばかりなのはあんたの性格譲りなんじゃない?それに引き換え白の人たちはおとなしくて学校の規律も守る。これは慧ちゃんのおかげだと思うけど」
「あんな腑抜けたちの集まりだったら、そりゃそうなるわ。あいつらはなにもしないんじゃなくて無気力で主体性に欠けたなにもできない人たち、なんだよ。なにもしなかったらなにも起きない。そんな奴らがおとなしいのは当たり前だ」
どちらの言っていることも結局は白を嘲笑している。昭穂は苛立ちを抑えながら、承諾の判を求める。
「まあ、せいぜい頑張れ。嫌になったらいれてやるから。おれはお前のこと気に入ってるし」
柳先輩はそうやってすぐに判を押した。結局、今回のも嫌がらせの域を出ない提案だったのだ。
それに引き換え高崎先輩は慎重だった。
「この姿見くんは何者」
「元サッカー部のムードメイカーです。面白いやつっていうよりかは、かわいがられるタイプですね。所作は犬に近いです。あと顔も」
「じゃあ、投げたものもとってくるの」
「はい。喜んで走って行きます。あとお手とおかわりもできますよ。その気になればちんちんもできるんじゃないですかね」
「へー」
ふざけでいった言葉に対して責任を持てよこの女。
「齋藤さんは分かるのよね、頭脳明晰、次期生徒会長の噂も出るくらいには期待されている。そんな彼女が放送部に入れば今のところの懸念点は改善できる。そうなると彼を加入させる理由がなんなのか」
ここで乙女心を説いてやってもよかったのがレディに不躾に講釈垂れるのも性に合わない。それと頭脳明晰とか買いかぶりすぎである。目の前にそれを越えた男がいるんだぞ。常日頃かけている心労を労って何かお祝いの1つや2つくれてもいいものである。だからこいつらは嫌いだ。
「そこまで理由にがんじがらめにされても困りますよ。あなたたちだって何で代表なんですかって言われて納得させる自信ありますか」
判を押された書類を回収する。校長は影を潜め、こちらの成り行きを見守る。
「校長。いい加減ネグレクトもやめてください。怖いのわかりますけどこのままだとこのうるさい生徒たちに全部持って行かれますよ。それだと白の生徒も大変なことになるんですから」
見れば見るほど馬面だ。腹立たしい。
学校の現状は非常によくない。教師たちはOBOGの顔色を窺うあまりすべてのことについての決定権を生徒に譲渡している。自分たちも恩恵は受けているが、大人がしっかりしていればこんな面倒な学校にはならなかっただろう。
校長の判もゲットし、すぐさま会議室を離れる。こんな風通しの悪いところ、いつかなくしてやる。




