部員補充譚3
「そんなことしてたのね」
昼休み、慧と昭穂は物陰に隠れながら姿見の背後を追いかけていた。流石に本人に賭けの大小については説明していないが、勝ったのはこっちである。その説明を求めてくることはないだろう。
「そうだ。おかげで寝不足だし、肌は荒れるし、ストレスで吐きそうだし」
「だからあんなにカリカリしてたんだ」
「他にも原因はあるけどな」
そうこう話をしているうちに姿見は中庭の静かな木陰で横になってしまった。5月の晴れ日は眠たくなるのも分からなくはない。人気のないその場所は昭穂も知らなかった。校舎からは少し離れていて、それでいて特段景色が綺麗なわけでもなかった。
「さあ、来たぞ」
渡り廊下から道を逸れ、涙がこちらに向かってくる。
「姿見が上手く丸め込んでくれれば話は早くすむんだけどな」
「もう彼は確約されたの」
「ああ、2つ返事で決まった」
慧はその背景に何があったのかを知らない。基本彼女はなにもしない。面白いこと、楽しそうなことには首を突っ込むがこのような地道な勧誘作業は性に合わないからとすべて昭穂にお任せであった。
「もしかしてナンパとかよくしてる?」
「してない!」
「ですよね」
涙は当然のように姿見の横に腰を下ろす。
じっと見つめる。その横顔を。そして鼻筋に触れる。見ているこっちがドキドキする。
「これおっぱじめませんかね」
「まさか」
涙は次に姿見の髪に触れる。耳に触れる。おでこに触れて、唇に触れる。
「ああ、あんなにベタベタ触って。破廉恥だ」
見てられないと後ろを向くと、慧は指の隙間からことの進み具合をじっと見つめていた。
「このままいったら白昼堂々原始時代に回帰しちゃいますよ。いちゃいちゃしちゃって明澄の生徒とあろうものが許せません!報告書書きます。すべて事細かく、何があったのか、一挙手一投足書き損じなく記録として残します。それで私はベストセラー狙います。硬派なお嬢様とトイプードル系男子の色恋沙汰なんて全人類の大好物なんですからね」
何か変なスイッチが入ってしまったみたいだ。ほっておこう。
視線を戻して昭穂はハッとした。涙の瞳には、雫がたまっていた。
「なにしてんの」
姿見はむくりと身体を起こす。別にと涙はそっぽを向く。なんて面倒な女だ。
「オーディエンスがいるといつもみたいにはいかないようだね」
バレていたか。できる限り申し訳なさそうに顔を出すと、涙はなんてことないような表情をする。よくそんな決まり顔ができるものだと感心して、そしてこちらにいるレディは興奮冷めやらぬ野次馬的な昂揚した感情をそのまま表情に貼り付けてご登場だ。
「やあ、齋藤。例の話は覚えているな」
「なんのこと」
「シラを切るつもりか」
「私はしらないわ」
まあこうなることは読めていた。
「姿見は了承してくれたぞ」
驚きの表情をこちらに向けて、そして姿見を振り返る。
「うん!ぼくは放送部はいるよ。守秘義務があったから誰にもいってないけど」
いったん一発目のジャブをかます。これはかなり魅力的な事実だろう。わざわざこんな離れた場所まで来て密会のようなことをしている涙にとってはいつでも簡単に外部の邪魔も入らない放送室は理想郷である。
「ねえ、場所を変えない?これは私とあなたの問題ですから」
「わかった。慧は先に帰ってろ」
「了解。ついでに姿見くんに放送部の説明しとくね」
さあ、ここからが本戦だ。




