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ファストフード・プライド

 クレーターから人が去って行く。放送室からその様子を見ていた昭穂(あきほ)は双眼鏡から目を外す。


「上手くいけば、高崎架純が裏で糸を引いていることは暴けるな。姿見の素性についてもまだ知っている人は少ない。完全鎮火目指してひと頑張りするぞ」


「無理ですよ。もう火種はあちこちに広がっています」


 (るい)は間髪いれずに昭穂の希望を打ち砕く。


「東風派はきっと機会を窺っています。まだ写真を公にしていないのはきっと手下を動かすためです。まだみんなが知り得ぬ情報を、自分たちだけが知っている優越感と、それ故にどうにかしなければならないという正義感。いかにも偏った思考の持ち主たちの好物じゃありませんか。きっとかずまへの脅しが終わればすぐに公表されます。

 次に、この一連の事態がなぜ起こったのか。紀伊さんも分かっていますよね?高崎架純がただ中立機関に中村を取りいれることを拒んでいるのではないと」


「放送部への攻撃が目的なんだろ」


「そうです。実際、かずまが中立機関にいなければ、すぐに中村派に取り入れられていたでしょう。そこにおいて紀伊さんの判断は間違っていませんでした。ただ、そうなれば次に、高崎架純に餌を与えてしまうとは思わなかったんですか。彼女、相当に明澄ブロウドキャストを敵視していますよ」


「全く思わなかった。というより恨まれる筋合いがない」


「私も思わなかった。なんで高崎さん私たちのこと嫌いなの」


 涙は大きなため息を吐く。


「あのね、あなたたちがいなければ、東風派は正当派だったわけよ。入学した当初を思い出しなさい。中村派の奴らが現状打破やらを謳っていたなかで東風派のスタンスは思想なきものの救済だったわけです。二極化された勢力図において、普通である事は大きな利点なのは分かりますよね」


「ということは、第三勢力がしゃしゃり出てきたことで、自分たちも相対的に極性化されたことが気に食わないから、俺たちを目の敵にしている」


「そうです。しかも結構人気ですぐに立場は確固たるものになるし、僻むには格好の獲物ですね」


 私怨であろうか。それともトップに立つものの重圧からくる気の迷いだろうか。たった3年、通過点であるこの空間にそこまで熱を上げるものだろうか。やっぱりここの奴らは頭がおかしい。いや、短い期間だからこそできる浮世だった経験。刹那的な消費癖を解消できなかったから、ファストフード感覚で人を傷つけているのかもしれない。そこに歴史とプライド、目的、約束。大義名分は至る所に転がっている。結局、高崎もそうだろう。これまでの東風派だの、先輩との約束だのを言い分に暴走しているに違いない。


「まあ、あいつらの目論見についてはお客さんにでもきこうじゃないか」


「本当に大丈夫なんですかね」


「今更不安になるなよ、(けい)


「不安を払拭するのが男の役目ですよ。女子を不安にさせる男、不安を取り除くことができない男、不安を抱かせる男。全員すべからく死ぬべし」


 なんとかわいげのない女であろうか。こんなやつがあの雨の日に、なにかをいってきたとは思えない。

階段を駆け上がる慌ただしい足音が聞こえる。なんなら叫び声も聞こえる。昭穂は放送室の扉を開けるとそこには逞しい青年がいた。


「お前らの見立ては大体当たってたぞ」


海斗(かいと)が首根っこを掴んで連れて来たその少年はまさしくあの日、花壇にいた1年生であった。


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