上がる煙と割れる仮面4
中村派からの緊急招集がかかり、慧は会議室に呼び出された。体育の後だというのに、時間の猶予もなく汗だくのまま招集をされ、心中悪態をつく。飛び込んだクーラー全開の空間で涼しい顔をしながら適当に資料をペラペラ。そんな偉そうぶっている暇あるのならそっちが赴けばいいのに。
その慧の表情を見て、柳は深いため息をついた。
「なんだそんなに嫌か」
「当たり前です。会議なんてどうせ自己満足で終わるんですから」
「今回は放送部に非があるのを分かっていないのか」
「まあ、わんぱく盛りの高校生ですから。問題行動の1つや2つありますよ。こんな無駄な話し合いするより、もっと楽しいことしましょうよ。ポーカーとかブラックジャックとか」
慧にとって会議ほど退屈なものはない。それにこの柳という男もいけ好かなかった。自分の事を派閥の代表と自負し、民衆を導く先導者としての高飛車な物言いがとても高圧的に見えるからだ。
この物言いだと昭穂から大体の話は聞いているのだろう。悪いのはこっちだといわれても、殴ったやつが一番悪いだろ。
「話を続ける。おたくの姿見かずまについてこちらの見解を述べさせてもらう。中村派としては今のところ姿見に対して、接触はしていない。というより彼が中村氏の息子であったという事実すら知らなかった。しかし、今後この件が知られて行くにつれて中村派の印象も悪くなる。東風派はこちらが潜り込ませたネズミだと考えて批難してくるだろうな。そこで、こちらとしては彼の退部させることで落ち着かせたい。もちろん俺の一存では決められないことだ。一週間後の代表者ミーティングの際に校長も交えて正式に処分を決定する」
かわいそうなものである。自分たちの軸となる団体の情報すらまともに知らない状態で一種のごっこ遊びをやらされている彼が不憫でならない。いや率先してやっているからこれも本望か。
「でもそうしたら次は本格的に彼を取り込もうとしますよね」
「こっちもそこまでバカじゃない。あれは爆弾だ。扱いを間違えれば手痛い被害を受ける」
「なら危険物の取り扱いに長けた私にお任せくださいな」
「お前に?」
「紀伊昭穂とかいう時限式爆弾抱えてるんですから」
「どちらかと言えばお前の方がダイナマイトだぞ」
「ボディが?」
「そういう発言がだ、自惚れ脳タリン」
「あら、そういう割には外でのご飯に誘ったりといろいろ私に興味あるみたいじゃなかったですか。あれはなんだったんですか?まさか女の子とのコミュニケーションレベルが小学生のままでとまっているんじゃないですか。いいですよ純朴さとかわいげがあって。どこかにきっと需要があります。きっと。だぶん」
柳は頬杖をついてまたため息をつく。口で言い負かされるとすぐこう逃げるのも嫌いだ。
今のやりとりで柳が言い負かされたと思う人間はきっと慧しかいないだろう。慧にとって討論の勝ち負けは絶対的な自分の優位を作ることではなく、相手の戦意を削ぐことであった。ここでいえば柳からの深追いを受けることであった。
「報告は以上で終わりだ」
だから柳が呆れることで慧はその場から即座に離れた。るんるんとスキップをしながら。
面倒なことは姿見について詮索されることであった。どうして写真が出回ったのか。そもそもどうして姿見の父親について知っていたのか。そこら辺の嘘は昭穂の方が得意だ。それに慧が適当なことを言ってしまうと後々のつじつま合わせで齟齬が出てしまう。
なら、私がしない方がいいよね。
昭穂の方が絶対に上手くいける。私はそう確信している。彼の嘘は事実になり得るから。
体操服の名札に触れる。汗の冷たさはいつかのぬくもりのようだった。




