由佳とゆかた
ここのところ、仕事が忙しい。
定期考査が近いので、授業をしながら試験問題も作らないといけない。
今回の考査問題は職場で作れず、仕方なく休みの今日に家で作った。
先程、完成。
では、晩ご飯までの間、ダイブだ。
三週連続で由佳と会っていたが、その後はお互いに休みが合わず、しばらく会えないでいた。
俺が休みの日には由佳に何かあって、由佳の休みの日には俺がといった感じで。
由佳は友人の結婚式や休日出勤、俺も校外模試の監督や同窓会などで毎週、土曜日か日曜日に予定が入っていた。
3週間ぶりにやっと日曜日に会うことになった。
電話で話す。
「やっと会えるよ。」
「そうね。長かった。」
「どこか行きたいところある?」
「うん、って言うか、夏の夜って花火大会とかお祭りとか、いっぱいあるよね。それって一緒に行ってくれる?もう夏になってだいぶ経つけど。」
「うん、一緒に行きたいよ。夏はまだまだだよ。これから本格的にいろいろイベントがあるよな。9月になっても花火大会があるし。」
「うん、それだったら、ゆかたがいるね。」
「持ってないの?」
「中学までは着てたんだけど、高校からは着てないの。」
「ああ、吹奏やってたらそんな暇ないよな。」
また新しい設定。
「そう。土日ともに練習だし、一日練が終わったらもうくたくたで、帰ったら外に出る気なんて起きなかったよ。休みなんてまずないし、あったらゆっくりと体を休めたかったし。大学で吹奏はしなかったけど、女子大だったし、とくにゆかた着てイベントに出掛けるようなこともなかったし。」
「彼氏もいなかったし。」
俺がからかったら、ムッとして
「いないんじゃなくて、いらなかったの。もしも彼氏がいて今も続いてたら、真ちゃんとの出会いはなかったよ。それでもよかった?」
またいらなことを言ってしまった。
返事に困る。
「い、いやそれは。」
慌てて話題を変える。
「で、ゆかた買うの?」
よっぽど楽しみにしているんだろう。
ゆかたの話になったら、とたんに機嫌がよくなった。
「うん。でね、次の日曜日、買い物に付き合ってもらえないかな。」
「いいよ。どこ?」
「イオン。」
「えっ!」
「何?」
「いやー、いいけど、絶対に生徒に会うよ。おそらく何人も。現に、今までにイオンに行ったときは、最低でも2組ほどには会ってきたから。多いときは10組近くも。別に悪いことしてるわけじゃないから会ってもいいんだけど。ヤツラは多くは大人だから見て見ぬふりをしたり挨拶するくらいだけど、由佳といるのを見たら絡んでくるのもいるかもな。」
「ヤツラって、絡んでくるって。怖い人たちみたいじゃない。」
「でも、そんなこと言ってたらどこにも行けないよな。よし、行こう。一周回って行きたくてたまらなくなってきた。」
「本気?」
「本気も本気。」
「じゃ、岡山のイオンに行きたいから私の車で行こう。その方が行き帰りが便利だし。どこかで待ち合わせして私の車に乗って。」
「わかった。」
ということで、その後、LINEで小元駅での待ち合わせにした。
由佳のゆかた姿ってかわいいだろうな。
想像するだけで顔が緩みっぱなしだ。
うん、決~めた。
約束の日曜日。
由佳の車に乗り込む。
「ヤツラのこと、一応は覚悟はしといて。」
「怖いな。でも命取られるわけじゃないし。後で学校で何か言われる?」
「その場で言われない分、後が面倒。」
「だいじょうぶ?お店変えてもいいよ。」
「いや、いい。」
「本当に?どうなっても知らないよ。」
「由佳が脅かしてどうするの。」
「ごめんごめん。」
ほどなくイオンに着く。
2階のゆかた売り場へ向かう。
途中で男子生徒の二人連れと遭遇したが、向こうもチラッとこっちを見るだけですれ違った。
売り場に着くなり
「わー、きれいなのやかわいいのがいっぱいあるねー。この中から一つに決められるかな。」
嬉しそうな由佳。
由佳が一つ一つ見ていき、候補を選んでいく。
半分ほど見たころで
「あー!」
大きな声。
嫌な予感。
声のした方を見る。
見覚えのある3人。
俺を指さすヤツの隣の子が
「えー!桐島先生!」
その隣の子が
「えー、何で!」
やっぱりそうなるか。
何でも何も、買い物に決まってるし、俺がきちゃいけないのかよ。
学校でも特にうるさい3人組だ。
遠慮なく近寄ってくる。
「先生、デートですか。」
こんなときは、慌てたりごまかしてはいけない。
落ち着いて相手をすれば、意外にヤツらと言えどもさわげないものだ。
「うん。デートって言うより買い物かな。」
「ゆかたですか、いいなー。」
「彼女さんですか?」
よくも本人の前で聞けるもんだ。
これが若さゆえの過ちか?
「うん。」
と答えると、三人が由佳を見る。
「こんにちは。」
由佳が微笑んで先に挨拶したら
「こ、こんにちは。」
と慌てている。
こいつらでもこんなになることあるんだな。
つい笑ってしまった。
バツがわるそうに互いに顔を見合わせて
「それじゃ、先生、私たちは・・・。」
と、早々に退散していった。
「かわいい子たちじゃない。」
「そうかぁ。いつもはあんなもんじゃないんだけどな。」
よりにもよって、アイツらに会うなんて。
絶対に言いふらすのがわかっている。
と言うより、いまごろもうLINEに上げているんじゃないか?
最悪、今日中にはたくさんの子が知っているかも。
本当に月曜日からが面倒だ。
「ふー」と溜め息をついてしまったが、何もなかったように楽しそうにゆかたを選ぶ由佳を見て、そんな考えてもしょうがないことでブルーになるのが馬鹿らしくなった。
そうだ。
俺は今、由佳とゆかたを買いに来ているんだ。
せっかくの久しぶりの由佳との時間を楽しまないと。
由佳は最終的に5枚の中から2枚まで絞ったが、どちらにするかでずっと迷っている。
「ごめんね、どっちもよくて決められなくって。」
「いいよ。今日はこのために来てるんだから、ゆっくり選んでくれたらいいよ。」
その後も由佳は迷い続ける。
楽しいはずなのに、だんだん辛そうになっている。
「決まらないよ。どっちもいいからどっちでもいい。私じゃ決められない。真ちゃん、決めて。」
「僕が?それは」
と言いかけて止めた。
思った以上にいい展開になってきたじゃないか。
「本当に僕が決めていいの?」
「うん、私じゃいつまでたっても決められそうにないよ。」
「じゃあ決めるよ。絶対に文句言わない?」
「言わない。」
「絶対に?」
「絶対に。」
「ほんとに絶対に?」
「絶対。」
由佳から2枚のゆかたを受け取る。
どちらもじっくりと見る。
どちらも由佳に似合うのは間違いないから迷うのも納得だ。
「うん、決めた。」
由佳がうなずく。
「じゃあ。」
由佳が息をのむ。
「どっちも。」
「え?」
驚く由佳。
「由佳が決められないものを僕が決めれるわけないだろ。どっちもかわいいしどっちも似合うよ、きっと。だからどっちも。」
「でも。」
「もともと今日は僕が買うって決めてたんだ。だから。」
「えっ何で?」
驚く由佳。
「理由がいる?ん~・・・。ゆかたを着た由佳ってかわいいだろうなって思ったら、買ってあげたくなった。それ以外に理由あるかな?それに2枚くらいいるよ。2日連続で何かのイベントに出かけることもあるかもしれないし。じゃ、行こう。」
「・・・ありがとう。」
「うん。」
今年は何年かぶりに花火大会に行こう。
遠出するのもいいな。
ゆかた姿のかわいい由佳と一緒に行くのが楽しみだ。




