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由佳と尾道

今日は由佳と尾道デートだ。

そして、今日は告げる。

さあ、ダイブだ。


いつものように高庄駅で由佳を乗せる。

しばらく走って、高速に乗る。


「今知らないって変な気がするけど、由佳の誕生日っていつ?」

2回しか会っていないとは言え、電話やLINEでも今までたくさん話をしてきたが、なぜかそんな話はしていなかった。

「うん。そう言われると私も真ちゃんの誕生日を知らないな。生年月日なら、私は平成○○年の9月17日生まれ。」

「再来月に24歳か。」

「うん。」

「やっぱ若いな~。」

由佳が笑う。

「そんなに言うほど真ちゃんだってそう変わらないじゃない。今年、27になるの?」

「僕は平成△△年の2月14日生まれ。早生まれなんだ。だから今年の2月に26になった。」

「私の誕生日が来たら2つしか違わないじゃない。」

「いや、この2つの違いが大きいんだな。」

「どんなに?」

「肌の張りとかツヤとか。26はお肌の曲がり角を曲がり切ってるから。」

「もう~。それじゃあ、私も2年後には曲がり切っているじゃない。」

「あ、そうか。それはない。僕、まだピッチピチ。」

いらないことは言うもんじゃないな。


「2月14日ってバレンタインデーじゃない。いい日に生まれたね。」

「うん。結構インパクトがあるみたいで、みんな一度で覚えてくれるよ。」

「うん、インパクトあるよ。私も一度で覚えた。」

「他の人の誕生日を聞いても僕の方が勝ってるって思ってたんだけど、就職して初めて負けたと思ったんだ。職場に元日生まれがいるんだよ。それも二人。」

「元日か。確かにそれにはかなわないよね。」

「うん。完敗だよ。」


「でも由佳って年よりもっと若く見られない?」

「うん、そうなのよね。もういい年なのに、高校生に間違われたことがあるよ。去年、制服の高校生にナンパされたことが一回あって、どこの高校?って聞かれて、社会人です、22歳ですって言ったら、スミマセンって言ってた。」

「だよな。初めて会ったとき、ひょっとしてって思ったよ。仕事柄、それはダメだから。でも、車を運転してるんだからそれはないってすぐわかったけど。由佳が制服なんか着たら、本物よりもっと似合うかも。見てみたいな。」

「それ、私に制服を着て欲しいって意味?それってコスプレじゃない。変なこと言ってない?」

「確かに危ないこと言ってるかも。マズいな。」

「あ、先生、焦ってる。」

由佳がイタズラっぽく笑う。

「でさ、由佳の職場って、岡山?倉敷?」

「岡山。西古梅。」

「それじゃ、僕のアパートにわりと近いな。小元ってわかるよね。アパートは駅の近く。」

「へー、あの辺りなの。」

「そうか、じゃ毎日倉敷からあの辺まで通勤してるんだな。」

「うん。でも新幹線側道を走るから結構早く着くよ。真ちゃんの学校は?」

「北岡山。北岡山駅から近いよ。」

「あの辺には行くことがないから、よくわからないな。」

「うん。僕も勤めるようになるまでは、行く用事が全然なかったからわからなかったよ。」


途中でサービスエリアでトイレ休憩。

缶コーヒーを買った。

由佳はペットボトルのお茶。

「近いと思ってたけど、わりと掛かるね。」

「うん。笠岡までが長いだろ、それから福山の次だからな。じゃ、行こうか。」

また走り出す。

俺は、由佳との話が楽しくて、尾道なんていいから、いっそこのまま車で走り続けたいな、なんて思ってしまった。

「真ちゃんって、どこの人?実家は?」

「新見。」

「えー、遠いね。」

新しい設定が生まれた。

「家には帰ってるの?」

「長期の休みにはね。盆とか正月とか、ゴールデンウィークとかには。新見って、行ったことある?」

「ない。」

「今度行こうか。案内するよ。」

「いいけど、真ちゃんの実家はまだ行けないよ。」

「わかってるって。こっそり案内するよ。」

「別にこっそりでなくていいけど。」

福山西インターチェンジを過ぎた。

もう少しだな。

「由佳って、兄弟は?」

「お姉ちゃんがいる。」

「そう、僕も姉ちゃん。とうに嫁に言ってるけど。」

「私のお姉ちゃんも。」

何か、その話には乗ってこない。

というか、顔が暗い。

「あのね、私のお姉ちゃん、すごいの。すさまじいっていうか、破天荒って言うか。」

「は?」

「だから、お姉ちゃんの話になったら一日かかるから、また別の日にするね。」

「わかった。」

「でも、知っといてもらわないと。」

「何だか、怖いな。」

「先に言っとくけど、今は更生して妻と一児の母やってるから。」

「更生って、もっと怖くなってきたよ。」

「でもやっぱり、今もすごいよ。会ったらわかる。」

「まあ、会うのはだいぶ先だろうし。」

「わからないよ。お母さんが口を滑らせたら、すぐに真ちゃんを連れてうちに来いっていうかも。」

「拒否権はないの?」

「ほぼない。私にも。」

「お母さんにしっかり言っといて。」

「わかってる。私にとっても死活問題だから。」


尾道インターチェンジで高速を降りる。

「この話が先だったと思うんだけど、尾道と言えば何?」

「そうだな、海と坂と寺かな。こんなこと言ったら尾道の人に怒られるかも。」

「ほかには?」

「林芙美子と大林宣彦。」

「林芙美子のは高校の国語の教科書で習ったよ。大林宣彦って、この前真ちゃんが言ってた映画監督よね。」

「そう。尾道を舞台にした作品をいっぱい残しててね。最初の尾道三部作は全部見たよ。どれもよくって感動したよ。次の三部作はどれも見てないけど。」

「そんなにあるの。」

「うん。最初のは全部好きなんだけど、特に『さびしんぼう』っていうのが僕のお気に入りでね。主人公の高校生の男の子の家という設定の西願寺には行きたい。いろんなシーンがよみがえってくるんだ。お父さんのお坊さん役の小林稔侍さんも、いい味出しててね。あっ、僕の思い入れだけでロケ地をたくさん回っても由佳には全然おもしろくないだろうから、ロケ地はそこだけでいいよ。ほかの見どころのある名所もいっぱい調べてるから、そっちを見に行こう。」

由佳が首を振る。

「真ちゃんの行きたいところに行こう。真ちゃん、すごく楽しそう。行きたいところ、全部行こう。真ちゃんが行きたいところに・・・私も行きたい。」

顔が赤い。

嬉しい、そんなこと言ってくれるなんて。

でも、それに甘えてオールロケ地なんて考えてもいない。

結局、西願寺以外には、観光地としても有名なロケ地を2か所回った。

俺はつい熱くなってしまって「ここはね、」なんて熱弁してしまった。

由佳はにこやかにうなずきながら、ずっと俺の話を聞いてくれた。


昼ご飯はなんといっても尾道ラーメンだ。

予定通りに尾道ラーメンの人気店に入る。

予めネットで調べたときに「鶏ガラと小魚から取った醤油ベースのスープに粗挽きの背脂が浮いているのが特徴」とあった。

スープを一口すする。

美味い。

カップ麺の尾道ラーメンとは全然違う。

「美味しい!」

由佳も満足そう。

俺たちは尾道ラーメンを堪能した。


午後は因島へ。

まずは向島へ渡って因島へ行くことになる。

そう言えば、あの『さびしんぼう』で、主人公が思いを寄せる女子高生が向島からフェリーで通学していたな。港に着いたら自転車でフェリーから出ていってたっけ。あの子、かわいかったな。真っ黒の長い髪でセーラー服で。

なんて思うだけでも不謹慎だな。

今、俺は由佳とデートしているんだから。


因島の水軍城に入る。

俺は、大河ドラマの『毛利元就』を見て以来、水軍というものに興味がある。

実は俺の母の出の愛媛にも水軍がかつてあって、その末裔がたくさんいる。

母の実家の向かいの家が越智さんというが、越智とか村上という苗字は水軍の末裔に多いと聞いたことがある。

水軍城とは言うが、水軍の歴史資料を展示している資料館である。

見ごたえがあり長居してしまった。

水軍のことをたくさん知ることができて、とてもいい勉強になった。


時間的にはまだ早いが、遠出をして由佳も疲れたんじゃないかな。

帰りもあるし明日は仕事だし。

「どう?ほかに行きたいところある?」

「ううん。特にはないよ。」

「じゃ、帰ろうか。明日のこともあるし。」

「うん。」

帰りはしまなみ海道の因島北インターチェンジから乗った。

「きれい。」

窓からの瀬戸内海の景色を見ながら、何度も由佳がつぶやく。

橋を渡りきって普通の風景になったので話しかける。

「由佳って古代史が好きなんだよね。」

「うん、好き。大学の卒論も古代史関係だったの。」

「大学の?」

「うん、私、純真女子大なの。文学部の史学科で。」

史学科って歯?って言いたくなったけど我慢した。

「でね、最後の卒論のときに、卒論を書く武器って資料しかないのよね。だから、とにかく毎日、朝から晩までずっと資料を読み続けてたの。それまでは、読みたい資料を楽しんで読んでたのに、そのときは、限られた期限までに少しでも多く材料を集めないとって強迫観念みたいなのもあって、本当に苦しかったよ。卒論は無事に書けたけど、その後は卒業してからもしばらくは古代史にまつわるものは見たくもなかったよ。」

「そうなるんだろうな。やっぱり、好きなことは趣味ってレベルがいいよな。」

「ほんと、そう。でね、そんな感じで卒業してから一年ほど古代史から離れてたんだけど、何か、時間が経つにつれて少しずつ思い出してきて。そうなったら、また会いたくなってきて。」

だんだんテンションがあがってきた。

「スピリチャルなことを言いうけど、お互いに呼び合ってきたっていうか、本当にそんな感じで、やっぱり私、古代史が好きなんだなってはっきりわかったよ。で、少しずつ本を手に取って読むようになっていって、山辺皇女のことにも目が留まって。」

「それで?」

「うん。もともと私、その人にすごく思い入れがあったの。で、今は落ち着いて向き合えるし、彼女のこと知りたいと思ったんだけど、あまりにもマイナーな人で、資料も少なくって。」

「だから、大歴史研究の教えてくださいに頼ったんだな。由佳のあれ、切実だったな。」

「そう。神にもすがる気持ちだったよ。おそらく大歴史研究にはすごい数のそんな依頼がきてるだろうから、私のが載るなんて思ってもいなかったよ。意外に早く載せてくれて驚いたくらい。でもね、載ってもね、いまだに真ちゃん以外に誰も教えてくれないよ。」

「本当に?あれに載ったら次から次へと何か来るんじゃないの?」

「私もそう思ってた。でも現実はそうじゃなかったのよね。一月近く待ったけど、何ももらえなくて。期待した私が馬鹿だったなんて思って諦めかけてたころに届いたの。真ちゃんからのが。」

「そうなのか。」

「でね、真ちゃんからのハガキ・・・」

「何?」

「私、もらったとき、読みながら泣いてしまったよ。こんな人、いるんだって思って。」

由佳の目が潤んでいる。

「いやあ、そんなたいそうなことしてないよ。」

「ううん、本当に嬉しかった。その後に電話して話して・・・やっぱり手紙のままの人だった。もうそのときに好きになった。会って真ちゃんのとことを知って、もっと好きになった。・・・私、あなたのことが好きです。」

思いを伝えるのは俺の方からと決めていたのに、由佳に先に言われてしまった。

俺はちゃんと伝えたい。

運転しながらではなく。

しばらく沈黙が続くが、そのまま走らせてサービスエリアに入る。

車を降りて、レストランなどがある建物から離れた大きな木がたくさん並んでいる方へ行く。

何も言わずに歩く俺の後を付いて歩く由佳。

木々の前で俺は由佳に向き直った。

「橘由佳さん。」

「はい。」

「僕は、あなたのことが好きです。あなたの全てが本当に大好きなんです。僕と付き合ってくれませんか。」

子どもみたいで、ほんと、かっこ悪いな。

でもこれ以外に俺の気持ちはないから。

「はい。私でよければ。」

由佳の目から涙がこぼれ落ちる。

「ありがとう。」


お互いにそうだったんだろうし、もどかしかったが、やっとはっきりさせられた。

由佳が俺の彼女になってくれた。

由佳のことを本当に大切にしようと思う。

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