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由佳とユッコちゃん2

今日は病院に来ている。

かかりつけの眼科のクリニックだ。

俺は目の手術を3回受けている。

網膜剥離、白内障、黄斑上膜。

そのため、2か月に1回、検診を受けている。

今日は意外に患者が多い。

それは言っても仕方がないことだが、俺にとっては悪くない。

名前が呼ばれるまでを楽しもう。

ではダイブだ。


デートから帰った由佳は、すぐにユッコちゃんに帰宅したことを告げる。

前と同じく、ユッコちゃんがすぐに二階の由佳の部屋に上がってきた。


「どうだった、空港デートは。いっぱい恋人見かけなかった?」

「わからない。飛行機も見たような見なかったような感じ。」

「じゃあ、何見たの?」

「ん~何だろう。変なTシャツくらいかな。」

「それだけ?じゃ、何してたの?」

「話してた。」

「ずっと?」

「うん、ずっと。今日一日ほとんど。」

「由佳、疲れてない?」

「疲れたっていうより、何かびっくりすることがいっぱいあって。家に帰って落ち着いたら、何か今日のこと、全部現実のことだったのかなって思えてきて。」

「びっくりすることって、桐島さんのことよね?」

「そう。真ちゃんてね、先生だった。」

「ちょっと待って。真ちゃん?先生?急すぎるよ。もっとゆっくり順を追って話してよ。」

「どっちが先でもいいんだけど。桐島さんは私のことを由佳って呼んで、私は桐島さんのことを真ちゃんと呼ぶことになった。」

「へーすごい進展じゃない。あんたが由佳って呼んでって言ったの?」

「うん。真ちゃんが、由佳さんって呼んでいいかって言ったから、私はさんとか付けて呼ばれたことがないから、由佳の方がいいって言ったの。」

「確かにそうよね。先生まで由佳だったもんね。」

「うん。で、真ちゃんに何て呼んだらいいって聞いたら、高校までずっと真ちゃんって呼ばれてたって言うから、私も真ちゃんって呼ぶことにしたの。」

「もうすっかり真ちゃんだね。で、先生って、学校の?」

「うん。真ちゃんってね、県立高校の生物の先生。」

「え~!!」

ユッコちゃんが後ろに倒れそうになりながら驚いた。

「何なのよそれ。そんなのあり?」

「私も信じられなくって、本当ですかって何回も聞いちゃって。信じられないのはわかるって身分証明書を見せてくれた。」

「そこまでさせちゃダメだよ。」

「わかってる。今思うとすごく悪いことしちゃったって思ってるよ。」

「で、どこの高校?」

「北校。・・・あ”~!これ、絶対に誰にも言うなって言われたのに~。」

「あんたにそんなこと言ったって無駄だよ。何でもしゃべっちゃうんだから。」

「お願い、聞かなかったことにして。」

「わかったよ。それに友達の彼のことなんて誰に話すの。」

「よかった。で、真ちゃんって仕事のこと聞かれたら、県の公務員だってことは言っても、教員だってことは言わないようにしてるんだって。だから、どこの高校に勤めてるかなんて、よっぽど信用できる人にしか言わないって言ってた。つい言っちゃって、嫌な思いを何度もしたんだって。」

「あんたは、教えてもらえたんだ。」

「身分証明書に書かれてたから知ったの。私が知っちゃっていいのって聞いたら、いい、あなたは特別だからって言われた。」

「特別って?」

「僕にとって特別に大切な人になるからって。」

それまで由佳の話をにこやかに聞いていたユッコちゃんが急に真顔になる。

「いくらあんたでも、その意味わかるよね。」

「どういう意味って思ったけど、すぐに話が変わって私の仕事を聞かれて。」

「わかってるよね。それってアイラブユーだよ。」

「え~!!」

「何がえーよ。それ以外に何があるの。逆に聞きたいよ。」

「それはないよ。まだ会ったの2回目だし。」

「そんなの関係ないよ。この前、『新婚さんいらっしゃい』見てたら、会ったその日に結婚しようってなったカップルが出てたよ。それに比べたら、2回目のデートで告白なんて普通じゃない。」

「だから、告白はされてないって。」

「じゃ、次だね。次は確実だわ。次は勝負の日になるね。あんた、勝負服着ていきなさいよ。」

「勝負服って?」

「あの白のワンピ。あれ着たあんたって破壊力半端ないから。」

「破壊力って?何を破壊するのよ。」

「男の心をよ。」

「何恥ずかしいこと言ってんの。」

「私だって恥ずかしいの我慢して言ってるのに、それはないよ。」

「わかったよ。私の一番のお気に入りだからそれ着ていくね。」

「そうそう。しっかり破壊しておいで。」

ユッコちゃんが楽しそうだ。


「でもすごいよね。県立高校の先生っていうと県の公務員だよね。」

「うん。自分はしがない県職ですって言ってた。」

「何がしがないよ。公務員って親が子どもに就いて欲しい仕事の不動の一位じゃない。公務員はいいよ。絶対に潰れないし、景気に関係なく給料もボーナスも毎年上がっていくし。しかも県立高校の理科の先生なんて、スペック高すぎだよ。」

「そうかな。普通の人だけど。」

ユッコちゃんは一呼吸おいて

「あんた、私が言うまでもないけど、これがどういうことかわかってるよね?」

「わかってるよ。真ちゃんが県立高校で理科の先生してるってことでしょ。」

「じゃなくて、こんな優良物件ってもうないって話。」

「優良物件って、家や土地じゃあるまいし。」

「本当に、意味、わからないの!」

「だから何よ、何怒ってるの?」

「怒るよ。こんなこと普通ないから。」

「何が?」

「もう、だから、県職と付き合うなんて一生に一度もないことだから。これは絶対に逃しちゃダメってこと。本気でいきなってこと。」

「私、別に真ちゃんが県職だから付き合って欲しいなんて思ってないよ。会社員でも公務員でも関係ないし。」

ユッコちゃんが大きなため息を吐いた。

だめだわ。

この子とこの話をいつまで続けても平行線だわ。

価値観の違いってやつだ。

「はーそうだね。もういいわ。何で神様は、こんな値打ちのわからない子に県職をくっつけようとするんだろうね。」

「何かひどいこと言ってない?」

「言ってないよ。で、今日でもっと好きになった?」

「うん。すごく好きになった。」

「言うようになったね。」

「いつまでもユッコちゃんにやられっぱなしじゃないよ。でもね、真ちゃんって、ユッコちゃんが好きなイケメンでもないし、背が高いわけでもないからね。ちょっとぽっちゃりしてるかな。」

「私は、できればそうだったらいいなくらいで、そうじゃないといけないなんて思ってないから。」

「でもよく、イケメンとか背の高い男とか落ちてないかな、とか言ってるじゃない。」

「そうは言うけど、それはあくまでも理想。自分のことはよくわかっているから。」

しばらくの沈黙。

先にユッコちゃんが口を開く。

「次は決まってるの?」

「うん、来週の日曜日。今度は少し遠出しないかって言われた。」

「三週連続か。で、どこに行くの?」

「真ちゃん、尾道に行きたいって。」

「へー、渋いね。いいじゃない。」

「何とかっていうすごく好きな監督の映画のロケ地も回りたいって言ってた。尾道ラーメンが美味しいんだって。でね、その次は、私の行きたいところに行こうって。」

「そう。由佳、きっと真ちゃんって、あんたに好き好き光線出し続けてると思うよ。それわかってあげてる?前にも言ったけど、あんたも真ちゃんのことが好きなんなら、もっとぐいぐい好きですアピールしないとダメだよ。あざといくらいにいかないとわかってもらえないよ。」

「うん、私なりに頑張ってるけど、まだまだかな。もっと頑張る。」

「うん、頑張れ。」

ユッコちゃんが、優しく微笑んだ。


あ、今、名前を呼ばれた。

診察だ。

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