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由佳と居候2

前の話の続きだ。

ではダイブ。


土日が開けて、今日から仕事だ。

昨日もやはり夕食は宴会になった。

由佳の言った通りで、土日は晩御飯も各自で食べることになっていた。

お父さんは酒とつまみがあれば事足りるし、由佳もスーパーの弁当で十分らしい。

俺も飲めれば、たいそうなものはいらない。

ということで、土日ともに夜はお父さんと飲んで過ごした。

由佳は近づこうともしなかったが。


昨夜は楽しく飲んで早めに切り上げてしっかり寝て、今朝は快調だ。

いつものルーティーンで朝、パソコンでニュースを見ていたらノックの音が。

由佳が顔だけ覗けて

「真ちゃん、おはよう。朝ご飯の用意ができてるよ。」


ダイニングに入るとお父さんが朝食を食べていた。

お父さんとお母さんに朝の挨拶をしてテーブルに着く。

お母さんと由佳で手分けをしてご飯をよそったり、味噌汁を注いだり、おかずの皿や小鉢を運んでくれたりしてくれて、座っているだけの俺は申し訳なくなる。

朝食は、ご飯に味噌汁、焼き鮭、味付け海苔、白菜の漬物。

牛丼チェーンの朝食セットみたいで美味しそうだ。

「これから仕事なんだから、ご飯もいっぱい食べてね。」

と由佳。

作りたての朝食なんて何年ぶりだろう。

美味しくて、言われた通りにお代わりまでしてしまった。

『居候三杯目にはそっと出し』という川柳を思い出した。

とても三杯は食べられない。


初めての由佳の家からの出勤。

俺のアパートからよりも、職場までだいぶ遠いので由佳より早く出る。

「いってらしゃい」と由佳に送り出された。

今日も一日頑張るぞ、なんて気持ちで職場に向かうのって新採用の頃以来かも。


仕事が終わって由佳の家に帰る。

早く帰りたかったのだが、帰った時には8時前になっていた。

インターホンを押す。

エプロン姿の由佳が迎えてくれる。

「お帰りなさい。」

新婚家庭の新居に帰ったような錯覚をしてしまう。

勝手な想像をして恥ずかしくなる。

「ただいま。」

そんな俺を見て俺の気持ちを察したみたいで、由佳もはにかんで微笑んだ。


いつ帰れるかわからないので、俺の分の食事は用意しないで結構ですとお母さんに伝えてある。

遅くなるとお腹がすいて、途中で外食なり買い食いなりしたくなるから。

今日は総菜のおかずを少しとビールを買って帰った。

さすがに平日となると帰りが遅くなることが多いし、翌日も仕事なので、お父さんと飲むのは難しい。


俺の部屋として与えてもらっている部屋に入る。

この部屋は嫁に行った由佳の姉の部屋だったらしい。

前に酔い潰れて泊まった部屋ではない。

着替えをしていたら、Yシャツを持って由佳が入ってきた。

「はいこれ、明日のね。スラックスは家で洗えるものなの?」

「うん、洗濯機で洗ってるよ。でも毎日洗わなくてもいいよ。」

「今日も暑かったからいっぱい汗かいてるよ。洗うからYシャツといっしょに洗濯機の中に入れといて。」

そう言って由佳が部屋を出ていった。

Yシャツからいい匂いがする。


着替えて風呂に入る。

アパートと違って広いし浴槽も大きい。

風呂が好きな俺はそれだけで上機嫌になる。

今日もゆっくりとつかった。


風呂から上がると、総菜をアテにビールを飲む。

この部屋にテレビはないが、テレビは車のカーナビのフルセグで見るくらいで、もともと家で見る習慣はない。

由佳に教えてもらって繋いだwifeでネットをする。

いつも見ている動画の今日更新されたものを見終わると、それを見越したように、スマホにLINEの通知が。

由佳からだ。

さすが、絶妙なタイミングだ、わかってる。

「何してるの?」

「来たらいいじゃない」

「仕事終わりのプライベートの時間を邪魔しちゃいけないから」

「そんなんじゃないだろ、俺たち。おいでよ」

「うん」

由佳が部屋に入ってきた。

タンクトップとショートパンツで。

こんな由佳を見るの初めてだ。

デートではいつもワンピースかそうでなければ上はブラウスかポロシャツで下はスカートだったから。

ノースリーブ、白い太もも、素足。

初めて見る由佳にドキッとした。


「何してたの?」

「ネットで動画見てた。」

「どんなの見てるの?いつも。」

「うん、毎回ワンパターンのストーリーの動画。でも設定が違うとおもしろくて。」

さっき見た動画のストーリーを簡単に説明する。

「へー、そんなの好きなんだ。なんか、勧善懲悪ものって感じね。」

「うん、そうだな。でも、一つ見たらお腹いっぱいになるよ。どう、サンドウィッチマンのコントでも見ない?」

「うん、見たい。」

俺も由佳もほとんどの動画を見ているので、正直言ってどれでもいい。

由佳に決めてもらって一緒に見る。

前に見たことがあるのに、また、大声で笑ってしまう。

由佳も俺と同じかそれ以上に。

2つ見てしこたま笑ったら

「じゃあ、私、少しやることあるから。」

と由佳が立ち上がった。

気を遣ったのかな。

「お休み」と由佳が出て行く。

「お休み」と答えるが、まだ寝るには早い。

最近書き始めた小説の続きをしばらくパソコンで打って、床に就いた。


そんな毎日がしばらく続き、明日はエアコンンの取り付けの日。

朝食をよばれていると由佳が尋ねてきた。

「明日よね、エアコンが来る日。」

「うん。」

「普通に仕事の日でだいじょうぶだったの?」

「それなんだよな。一日でも早くってそのときは思って明日にしてもらったんだけど、急に何か入ってきたらどうしようって思ってはいるんだ、よくあることだから。一応、予定の時間に合わせて1時間年休は取ってるけど。」

「何かあって急にキャンセルになっても真ちゃんも困るし、業者も困ると思うんだよね。次がいつになるかもわからないし。」

「うん。それ十分にありえる。」

「そうでしょ。だったら、今日の早いうちにキャンセルして次の土か日にしてもらったら。それだったら確実でしょ。」

確かにそうだが、由佳の家に居候する日が3日ほど長くなる。

返事を迷っていたら、お母さんが

「そうなさいよ。心配事を抱えて仕事をするって大きなストレスになるわよ。真ちゃんさえよければうちは全然いいから。お父さんもまた週末に宴会できていいわね。」

なんて優しいお母さんなんなんだろう。

俺に気を遣わせないように配慮をしてくれて。

それまで空気のようになっていたお父さんが口を開く。

「そういうことになるか。真ちゃん、絶対にそうしなさい。」

めったに命令口調を使わないお父さんが珍しくそう言った。

そういうことの中身が、俺のエアコンの取り付け事情のことなのか宴会ができるということなのかはわからない。

宴会のことだとは思うけど、ここは両方ということにしておこう。

「すみません。では、お言葉に甘えてそうさせていただきます。」

「うん。」

由佳が家族を代表してニコッとして返事をした。


職場で、朝一でエアコンを買った量販店に電話をする。

明日の取り付けが都合が悪くなったので変更して欲しいと。

電話に出た人がエアコンの担当に替わって、スケジュールを聞かれる。

次の土曜日か日曜日にして欲しいと言ったのだが、何と、土日は希望が多くて次の土日は埋まっているとのこと。


帰ってそのことを由佳に伝えると

「何ですぐにその次の土曜日か日曜日に予約しなかったの。また埋まっちゃうじゃない。まぁ、うちとしてはそうなってもいいけど。」

俺はそういうわけにはいかない。


翌日店に電話したら、次の週の日曜日は午前中に空きがあるとのこと。

予約を入れて、一件落着。

ん、一件落着じゃない。

またさらに一週間、居候期間が延びてしまった。


エアコンの件で年休を1時間とっていたので、今日はいつもよりだいぶ早く家に帰れる。

珍しく、昼休みに由佳から『今日は何もなく早く帰れる?』とLINEが入ったのでので、『5時前には帰れる』と返事をしたら、『何も食べずに帰ってきてよ』との返事が返ってきた。

一緒に晩ご飯を食べようってことかな。


帰ると、いつものように由佳が出迎えてくれる。

「お帰りなさい。今日は焼肉よ。」

「えっ?」

「真ちゃんが早く帰れる平日の日ってめったにないでしょ。だから、そんな日があったらそうしようってお母さんと話してたの。お父さんももう帰ってるよ。早く着替えてきて。」

由佳がせかす。

「LINEで焼肉するって教えてくれたら、ホルモンを買って帰ったのに。」

「今日の焼肉は真ちゃんにサプライズにしようってお母さんが言ったの。でも前にキャンプのときに真ちゃんが食べてたの覚えてたから、コテッチャンを買っといたよ。」

俺が食べたのはコテッチャンじゃなくてテッチャン、つまりシマチョウなんだけど。

でも、ホルモンのことなんてわからないのに、俺のために家では誰も食べないホルモンを買ってくれていたなんて。

かわいくて抱きしめたくなったけど、ここは由佳の家なので今は我慢だ。


着替えてダイニングに入ると、ホットプレートを中心にして焼肉の用意が整っていた。

「真ちゃん、お帰りなさい。」

お母さんが微笑んでくれる。

「じゃあ、飲もうか。」

待ちきれなかったのがわかりすぎる父さんの発声で、焼肉パーティーが始まった。


今日もお母さんは、ビールでとっても明るいお母さんになっている。

いつものごとく、由佳のことを俺に伝えたくて仕方がないようだ。

「真ちゃん、由佳ったらね、真ちゃんが来週までいることになって、もう浮かれちゃって。真ちゃんが早く帰れる平日ってもう今日しかないかもって、昨日急に焼肉しようって言い出したのよ。まぁ、焼肉って野菜を切って肉と焼くだけだから簡単にできるからいいんだけど。」

話が違うな。

由佳は?

少し恥ずかしそうだが否定はしない。

でもそんなことはどうでもいい。

というよりも、この裏話の方が嬉しい。

それにしても、由佳だけ飲まない。

よくもこんな状況で一人だけシラフでいられるものだ。


お腹いっぱいに焼肉を食べさせてもらった。

結局、コテッチャンは俺以外には誰も箸を付けようとせず、全部俺が食べることになった。

残しても誰も食べないのならもったいないし。

由佳が気を遣って俺が食べたらすぐに次を焼いてくれた。

美味しかったのは確かだが、しばらくは見たくない。


焼肉パーティーが終わって片付けになる。

お父さんと俺はそのままいつもの流れに入っていく。

スルメやジャーキーをつまみながら飲む。

お父さんが

「真ちゃん、次は金曜だな。楽しみだな。」

「はい。」

と答えるが、それって明後日だ。

俺と飲むことをそんなに楽しみにしてもらえるって、嬉しいって言うより感謝しかない。


やはり週末は晩ご飯のかわりのお約束の宴会が続いた。

この間、由佳とは毎日会っているから、というより一つ屋根の下にいるから、外でデートする必要はない。

デートはお互いに会うのが目的で、どこかに行くのは二の次だから。

会いたくなったら由佳の部屋に行ったり、由佳が俺の部屋に来たり。

もちろん、自分の時間も楽しみながら。


一週間なんてあっという間で、明日の日曜日にはついにエアコンが付く。

今日が最後の宴会だ。

由佳に呼ばれてダイニングに入るや否や

「真ちゃん、明日、本当に帰るのか?」

わかっているのに、お父さんが寂しそうに聞いてくれる。

「はい、長い間お世話になりました。」

今日はお母さんも参加してくれている。

休みになっている土曜日なのに、腕によりをかけておいしい料理を作ってくれている。

由佳から聞いたのか、俺の好物ばかりが並んでいる。

「寂しくなるわ。」

「いろいろと身の回りのことをしていただいて、本当にありがとうございました。」

「また来てね。土日も忙しいと思ってたけど、暇そうなのわかったから。」

一緒に暮らして、隠していたことの一つがバレてしまった。

ここに泊まることにもう何の抵抗もなくなってしまったので、声を掛けてもらったら、いつでもおよばれしようと思う。

きっと由佳も飲むから、その夜は泊めてもらうことになるだろう。


みんなのグラスに酒が注がれる。

お父さんは日本酒、お母さんはビール、由佳はワイン、俺は今日はハイボール。

「じゃあ、真ちゃんの新しいエアコンに乾杯。」

わかるようなわからないようなお父さんの発声で、最後の晩餐が始まる。

「今日はほどほどにしないと。」

誰に言っているのか、由佳がつぶやく。

おそらく自分に言っているのだろう。

二日酔いがかなり応えたようだ。

確かにあの日から今日まで、由佳は全く飲んでいない。


「真ちゃんが帰ると本当に寂しくなるわ。もう家族の一員になってるから。」

お母さんがまたその話から入る。

「由佳もね、真ちゃんと別れるのを辛がってるのよ。」

それを聞いて、由佳が慌てる。

「お母さん、縁起でもないこと言わないでよ。真ちゃんはアパートに帰るだけよ。一緒に住めなくなるのが寂しいの。本当に私たちが別れたらどうするのよ。」

「そうだぞ、別れる切れるは芸者の時に言う言葉だぞ。」

お父さんが割って入る。

もう酔っているのか、意味不明だ。

「せっかくなんだから、楽しい話しようよ。」

由佳が話題を変えようとする。

「うん。お母さん、呼んでもたえたら、僕はいつでも来させてもらいますから。」

「絶対よ。」

お母さんが本当に嬉しそうな顔をする。

それでこの話は終わり、最近あったことの話などで盛り上がった。


そして、当日。

日曜日なので、朝食はない。

由佳の家にあるもので済ませた。

もう、勝手知ったる家になってしまった。

お父さんとお母さんにお礼を言って、由佳の家を出る。

長かった居候生活に別れを告げる。

由佳がついて来ると言うで、一緒に俺の車でアパートに向った。


アパートの窓を全開にして、予定時間まで車の中で過ごす。

部屋の中はすでに暑くなっていて、とてもあの中にはいられない。

地球に申し訳ないが、エアコンを効かせて少しアイドリングをしてしまった。

ほぼ時間通りに業者が到着し、無事にエアコンの取り付けが終わった。


リモコンのスイッチオン。

涼しい風が吹き出される。

どんどん夏が暑くなっていくので、前のよりも大きな10畳用にした。

さすがにハイパワーだ。

すぐに部屋が涼しくなる。

これで快適に過ごせる。

「涼しいね。」

由佳が目を細める。

「そんなに気持ちいいなら、今度は由佳がここに泊りに来たら。」

「えっ?」

「今度は俺がお世話するよ。」

「気持ちだけで十分です。」

俺の真似をする。

その流れなら、泊りに来ることになるのに。

「なんなら家族で。」

「もう、訳がわからないよ。」

久しぶりに聞いてなんでだか安心した。

「でも、私はここで十分よ。部屋数も広さも十分だし。引っ越すとなったら大変でしょ。ここなら私の職場もすぐだし。」

由佳の言いたいことはわかっている。

「そうだな、由佳がそれでいいなら俺はいい。確かに一人用じゃないかもな、ここって。隣は夫婦で住んでるし。」

「子どもが大きくなるまではここで十分よ。」

由佳が「十分」を繰り返す。


いつか由佳とこの部屋で一緒に暮らす日が来るんだな。

子どもが大きくなるまでってことになったから、このエアコンにも長い間活躍してもらうことになるな。

いいものにしておいてよかった。

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