由佳とユッコちゃん
この世界では由佳が中心なのは自明の理であるが、当然ながら彼女が単独で存在しているわけではない。
由佳の家族、友人、職場の人など、彼女を取り巻く様々な人々がいる。
その中で、特にこれからの俺と由佳の関係の進展に大きく関わるキーパーソンが一人いる。
ユッコちゃんこと藤原有紀子。
由佳の近所に住む幼馴染だ。
そして、小学校から大学まで同じ学校に通った親友。
由佳は、中学受験をして家から近い私立の女子校に入学した。
由佳の受験を聞いて、ユッコちゃんもその学校を受けてくれた。
その後も系列の高校へ、そして大学へといっしょに進学した。
ユッコちゃんはいつも由佳のそばにいてくれた。
言うなれば、お母さんのような友達。
あまりにも純粋で危なっかしい由佳を放っておけなくて、ずっと見守り続け、的確なアドバイスをくれていた。
もちろん今も。
何かあると由佳はユッコちゃんに相談している。
今日は、そんな由佳とユッコちゃんの世界にダイブ。
俺との食事が終わって家に帰ると、由佳はすぐにユッコちゃんに電話した。
俺と会うに当たって、今日までにユッコちゃんからいろいろとアドバイスを受けていたから、帰ってきたらすぐ報告。
なぜか、いつからか、秘密の話は由佳の家の由佳の部屋ですることになっている。
ほどなくユッコちゃんがやってきた。
「で、由佳、どうだった?あの古代史の人。」
「変な呼び方しないでよ。桐島さんよ。」
「で、どうだったの、桐島さん。」
「うん、いい人だったよ。」
「あのね、女が男の人をいい人って言うときは、どうでもいい人って意味なのよ。」
「違うよ、すごくいい人だったよ。」
「へー、あんたがそんなこと言うなんてね。」
「話が合ったっていうか、話しててとっても楽しかったよ。」
「年はいくつ?」
「二つ上だと思う。就職して4年目って言ってたから。」
「それくらいの差って、ちょうどいいんじゃない。仕事は?」
「そんな話はしてないよ。会ったばっかりだし。」
「じゃあ、どんな話したの。」
「本が好きとかアニメが好きとか、あと桐島さんはキャンプが好きって。」
「そう。アニメマニアってとこじゃ、あんたと気が合うね。で、キャンプはよく行ってるの?」
「ぜんぜんマニアじゃないよ、アニメは。好きなだけ。キャンプはね、桐島さん、一年の土日の半分くらいはテントで過ごしてるって。」
「何かよくわからないけど、それってすごいんじゃない?」
「うん、年越しキャンプもやるって。」
「年を越すって、大晦日だよね?」
「うん。」
「普通に返事しないで欲しいわ。そんなの死んじゃわないの?」
「冬用のシュラフがあれば余裕だって。」
「シュラフって?」
「寝袋。」
「あんた、知ってたの?」
「今日教えてもらった。」
「キャンプに誘われたとか?」
「それはまだ。」
「そう。で、また会うの?」
「うん。」
「へー。あんたが言ったの?桐島さんが誘ってくれたの?」
「桐島さん。」
「まぁ、そうだよね。あんたからはないよね。」
「でもね。」
ユッコちゃんに「次のときは」の話をする。
「それって、すごく脈ありだね。」
「えっ。」
「だから、桐島さん、無意識にあんたにまた会いたくてたまらなかったんだよ。」
「そんな。」
「向こうは絶対にあんたのこと好きだよ。そうじゃなきゃ、また会ってくれなんて言わないよ。」
「そうかな。」
「で、あんたはどうなの?好きになったの?」
「ん・・・かも。」
「はー。かもはかも南蛮だけにしてよね。で、好きになったんだよね。」
「たぶん。」
「いい加減にしてよ。こんなの言わされてる私の身にもなってよ。今じゃ、小学生でも告って付き合う時代だよ。はっきり言ってよ。その人のこと、好きになったんでしょ。」
「うん。」
「ほんと、私、不思議に思ってるんだよね。何であんたのような子に今まで彼氏がいなかったのかって。でもこれで、彼氏いない歴イコール実年齢から卒業かもね。」
「まだ早いよ。今日初めて会ったのに。」
「あんたも、待ってばかりじゃダメだからね。次に会って本当にいいなって思ったら、積極的に行きなよ。目からビームだよ。」
「目からビームって何?」
「好き好き光線ってこと。」
「うん、わかった。」
そう答えた後、由佳が本のことを思い出した。
「そうそう、私も桐島さんもどうかしてるよ。今日は本のお礼に食事に誘ったのに、私も桐島さんも、本のこと、すっかり忘れてたんだよ。これってどう思う?」
「は?それどういうこと?」
「家に帰った後に桐島さんから電話があって、すみません、本を渡すのすっかり忘れてましたって。そう言われて、私もあっそうだったって思い出したの。」
「それって話が盛り上がっちゃって、本のことなんてどうでもよくなってたってこと?」
「そういうことになるのかな?」
「それ以外にないでしょ。それって、私にはのろけ以外の何物でもないんだけど。」
「そんなつもりはないよ。そんな間抜けなことがあったってことだけなんだけど。」
「はいはい、わかりました。もともとの会う目的を忘れるほどお互いに気に入っちゃったんだね。次もしっかり楽しんでください。・・・そうか・・・私のこういうときのカンってかなりの確率で当たるんだよね。おそらく・・・」
「何?」
「何でもなもい。まだ早すぎるか。」
ふと、ユッコちゃんが真顔になる。
「由佳、きついこと言うけど、仕事の話は早い方がいいよ。」
「どんな仕事をしてるかってこと?」
「いや、どんな仕事でもいいから正社員ならいいんじゃない。フリーターはね・・・。差別するつもりはないけど、将来のことを考えたら厳しいよね。あんたも働けばいいけど、子どもができて、働けなくなったら相手の収入だけになるし。そうなったら大変じゃない。いらないこと言うけど、そこは早めにはっきりさせたほうがいいと思うよ。それでも、あんたがいいって言うんなら、私が口を出すことじゃないけど。」
ユッコちやんが由佳のことをそんなに思っていてくれていたなんて。
ぐっとくるものを感じながら、現実世界に戻った。
もうすぐ家に着く。




