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由佳と俺のアパートへの家庭訪問

かなり暑くなってきた。

俺が苦手なシーズンの到来だ。

冬眠の反対に夏眠がしたい。

では、ダイブ。


今日は、1時間だけ有給休暇を取得して早く職場を出た。

やらないといけないことがないわけではないが、急いでしないといけないことはない。

早く帰れるときには早く帰って命の洗濯をしないと。

何かをしたいわけではないので、その足でアパートへ帰る。

仕事中だから見られないかもしれないが、由佳にLINEを送っておいた。


さて、何をしようか。

7時か8時ごろに帰ることが多いので、4時過ぎに帰るなんてしたら時間の使い方がわからない。

これも困りものだ。

適当にYouTubeでお笑いを見ていたら、玄関のインターホンが鳴った。

「はい。どなたですか?」

一応開ける前に尋ねることにしている。

「私。」

何と由佳の声が。

驚いた、本当に。

鍵を開ける。

「へへへ、家庭訪問に来ました。」

はにかんで笑う。


仕事の帰りにいつ来てもいいよと言っておきながら、由佳が一向に来ることがなかったので、もうそれはないという認識が俺の中でできあがっていた。

虫の知らせか、早く帰っても普段はしない掃除などというものをやっておいてよかった。

「前に聞いてたけど、繁忙期以外は定時で帰るって本当みたいだね。信じられないけど。」

「これが普通だから、何が信じられないのかわからないけど。残業が普通っていう方が信じられないよ。」

「晩ご飯一緒に食べない?仕事で疲れてるだろうから、何か買ってもいいし。」

「うん、今日はさすがに作れない。忙しかったから。でも結婚したら毎日晩ご飯作ることになるのよね。」

「うん。でも共働きの家庭は、結構、総菜や弁当の日があるみたいだよ。作れない日ってあるよ、絶対。たまには、俺が作ってもいいし。」

「えっ?作れるの?」

「何、その言い方。確かに外食や弁当が多いけど、土曜日とかには作ることもあるよ。カレーとかカレーとかカレーとか。自炊歴4年だぜ。」

「カレー専門なんだ。」

「たまにはシチューも。あとは、おひとり様鍋。」

「そう。今度食べさせて欲しいわ。」

「カレーは大辛だけどだいじょうぶ?」

「無理。シチューにして。」

「シチューも激辛だけどだいじょうぶ?」

「もっと辛くなっているじゃない。シチューに激辛なんてないよ。」

「俺が作ったら、何でも激辛になるんだよ。」

「それじゃ、真ちゃんとは一緒には暮らせないね。」

「ごめんなさい、これからは激甘にします。」

「甘いシチューなんて気持ち悪いよ。」


結局、チェーン店の弁当屋に行くことにした。

俺は飲むので、焼肉弁当のおかずだけ。

由佳はチキン南蛮弁当


「夜は飲む。」

ビールを開ける。

「昼も飲むことがあるじゃない。結構。」

「キャンプと旅行とカラオケのときくらいだよ。」

「休みの日は?」

「やることなかったら、飲むこともある。」

「やっぱり。」

「お天道様が明るいうちに飲むって楽しいんだよな。幸せを感じるよ。」

「もっと健全な幸せを感じてください。」

「はーい。」

「全然人の話をきいてないな。」


今日は話をするくらいしかないので、今まで聞いたことがないことを聞いてみよう。

「由佳って、子どもの頃、何か習いごとしてた?」

「うん、ピアノ。小6まで習ってたよ。中学から吹奏に入ったから辞めたけど。」

「そうそう、前から気になってたんだ。吹奏では何吹いていたの?」

「フルート。」

「フルートか。ならマイフルート持ってるんじゃない?」

「うん。中学のときにねだって買ってもらったよ。」

「高いんだよね。」

「長くやる気だったから、少しいいものを買ってもらった。真ちゃんは何か習ってた?」

「硬筆の後に書道くらいかな、小学校の4年までは。高学年では、スポーツ少年団でソフトボール。」

「で、中学と高校と柔道か。」

「ねえ、今度フルート聞かせてよ。」

「えー、何年も吹いてないから、もう人に聞かせられないよ。」

「いいじゃない、聞きたいな。由佳のフルート。」

「じゃあ、ちょっと練習してからね。」

「期待して待ってる。」

「プレッシャー掛けないでよ。」


「由佳は転勤ってないよね。」

「うん、正代さんが入社してずっと岡山だから、ないと思うよ。ちゃんと聞いたことはないけど。営業はあるよ。何年かでほかの支店に異動が。」

「そうなったら、引っ越しだな。」

「そう、一家転住か単身赴任。」

「大企業の社員の宿命だな。」

「うん。私、引越ししたことがないんだけど、知らない土地で何年か暮らして、また知らないところへ行くって考えられないよ。」

「だよな。特に子どもは転校することになるしな。」

「うん、それもかわいそう。真ちゃんは転勤は?」

「あるよ。昔は、新採用で赴任した学校で定年退職を迎えるっていうのもあったらしいけど、今は同じ学校に10年はいられないんだ。5,6年経って転勤の話が出たら、もう断れない。」

「そうなの。じゃあ、頻繁にあるってことね。」

「そうなるな。でも、通える範囲で配慮してもらえるよ。」

「途中から新見の方へ帰るの?」

「うん。いつかは県北に転勤希望を出すよ。」

「そう。そうなるよね。」

由佳が寂しそうな、不安そうな顔をする。

長年生まれ育った県南を離れて、県北へ移り住む。

不安感は強いだろう。

「でも、それは最後の最後にしたいんだ。やっぱりこっちの方が生活も便利だし。気候もいいし。県北は冬が大変だから。」

「そうして欲しいな。」


「真ちゃんのお父さんやお母さんはどんな人?」

「どんなって言われてもな。父さんはまあ、普通だと思うよ。ちょと頑固だけど、根は真面目でやさしいと思う。普通の会社員だよ。母さんは専業主婦。明るくて、元気。しゃべりだしたら止まらない。まあ、一度会ったらよくわかるよ。付き合って一年以上経つし、俺も由佳のご両親に会ったんだから、由佳も俺の親にも会って欲しいな。」

「うん。そろそろかなとは思ってるよ。真ちゃん、ご両親に私のこと話してるんでしょ。」

「いや、それなんだけど、まだなんだ。」

「えっ。何で。」

「いやーそれが、なかなか言い出せなくって。」

「お正月に帰ったでしょ。」

「うん、帰った。」

「ゴールデンウィークも3日ほど帰ったよね。」

「うん。」

「何で言わないの。」

「何か恥ずかしくて。彼女がいるなんて。そういう話、親としたことないから。」

「何がよ。絶対に行くまでには言ってよ。じゃないと行けないから。」

「わかってはいるんだよ。近いうちに言うから。」

「絶対よ。」

「わかった。で、俺の親に会うって緊張する?」

「するに決まってるでしょ。」

「俺のあのときの気持ちわかる?」

「うん。でも真ちゃんは私が入院したときに病院で先に会ってるから、どういう人かだいたいわかってたでしょ。」

「うん、あれで安心したよ。」

「私は全くの初対面だだから。今もすごく緊張してるよ。」

「今から緊張してたら身が持たないよ。」

「そうよね。なるべく考えないようにするね。」


その後、由佳に膝枕をしてもらった。

してくれないかと言ったら、迷ったが、結局はしてくれた。

気持ちいい。

柔らかな由佳のふともも。

長渕剛の「ひざまくら」を歌ってしまった。

由佳は目を閉じて聞いていた。


「お前のひざまくらが とっても

 俺らにゃ 心地よいから

 しばらく このままでいておくれ

 やさしさに うもれてみたいんだ


「子供みたいだね」お前が言う

 「いいじゃないかと」と照れ笑い

 スカートの裾を 指でたどると

 「ダメよ」とお前 照れ笑い

 ・・・・・・・・・・・・・。」


「ほんと、お母さんも言ってたけど、男の人っていつまでも子ども。」

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