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由佳とお姉ちゃんの家

春眠暁を覚えずだ。

トイレに起きたが、また夢の世界へダイブ。


先日、由佳の家でおよばれしたが、次はお姉さんの家に行くことになるとは。

由佳が入院したときに病室で交わした約束を次々に実行している。

となると、これが終わったら次はユッコちゃんとの飲みだな。


今宵は由佳の車で、晩ご飯をよばれにお姉さんの家に向っている。

「お姉さんは由佳のお姉さんだからお姉さんでいいと思うんだけど、淳一さんのことは何と呼んだらいいんだろう?」

「お兄さんでいいんじゃない?淳一さんって呼ぶのも変でしょ。」

「でも、それはお義兄さんってことだよな。それって由佳と結婚してからの関係じゃない?」

「それを言うなら、お姉ちゃんのことをお姉さんって呼ぶのも私と結婚してからの呼び方でしょ、真ちゃんのお姉さんじゃないんだから。お姉ちゃんをお姉さんと呼ぶんだったら、その旦那さんだからお兄さんってことでいいんじゃない?真ちゃん、難しく考えすぎ。案外、向こうは何も考えてないものよ。」

由佳の方がはるかに器が大きい。


お姉さんの家に着いた。

「いらっしゃい」とお姉さんと沙耶ちゃんが迎えてくれた。

直にダイニングに通された。

またもやご馳走が並んでいる。

淳一さんと俺が互いに挨拶して、由佳と並んで座る。

俺の予想とは違って、淳一さんは激しくすさまじい人には見えないし、常識人のカタブツとも思えないごく普通の人に見える。


「悪いけど、俺は一滴も飲めないから、真ちゃんと遥と由佳ちゃんで遠慮なく飲んでよ。あ、由佳ちゃんは真ちゃんの送りがあるから車だったな。」

「すみません。」

飲めない淳一さんに申し訳なく思う。

そんな俺に気を遣ってくれたのか、お姉さんが

「すまないことないの。飲めないのが悪いんだから。」

やはりお姉さんだ。

そうやってスパッと終わらせてくれるのがありがたい。


いきなり本題から話が始まった。

「それにしてもな、由佳ちゃんに彼氏がいたとはな。遥から聞いたときはほんとびっくりしたよ。由佳ちゃんってそういうのないって、勝手に思い込んでたから。永遠の処女みたいに。」

「えっ!」

由佳があっけにとられている。

「もう、淳ちゃん、ダメよいきなり。由佳も真ちゃんもドン引きしてるじゃない。飲んでる人以上に酔ってるんじゃない?」

そうかな?とばかりに自覚が全くない淳一さん。

見た目とは違って、やっぱりお姉さんより凄そうだ。

「でね、二人がくっついたのって7月の中頃からだってね。お母さんも教えてくれないし、私だけ蚊帳の外だったよ。」

お姉さんが不満そうだ。

たが、それは当然。

なんとかお姉さんにだけは知られないように、由佳もお母さんも細心の注意を払っていたのだから。

「で、この前お見舞いに行ったときに、無理に彼氏を作る気はなかったけど、真ちゃんとは縁があったって言ってたよね。どんな縁なの?ん、縁?・・・縁って、そもそも何?」

お姉さんが、今さらのように「縁」が気になったみたいだ。

由佳が説明に困って俺を見るので、代わりに答えた。

「縁は仏教用語なんです。生まれる前から決まっている人と人とのめぐり合わせ、つまり出会いのことです。」

「へー、真ちゃん物知りだね。で、どんな縁があったの?由佳。」

由佳が「大歴史研究」の教えてくださいコーナーのことから話し始める。

ほー、とお兄さんもお姉さんも聞き入っていた。

一通り話し終わったら

「そう、あんたらしいわ。そういうのも悪くないね。でも、あんたから誘うなんて、よっぽどすごい縁だったんだね。」


「そうそう、この前実家で飲んだらしいね。」

お姉さんが、この話も今日の本題の一つと言いいたげだ。

「で、真ちゃん、あのお父さんを潰したって。」

「潰してなんていませんよ。僕が潰されましたよ。」

「いやいや、あのお父さんが次の日に二日酔いで寝込むなんてありえないよ。私もお酒には自信あるけど、正月とかにお年始に行って一緒に飲んでて、どこまで飲むのって呆れてたもん。私が途中でギブアップしても、そのまま一人で同じペースで飲み続けるし。で、ずっと変わらないし。」

由佳が入ってくる。

「そうなのよ。二人ともどれだけ飲むのって心配したよ。家のお酒が全部なくなったってお母さんが言ってたよ。」

「それはすごいわ。お父さんが飲むから、結構いっぱいお酒のストックあるもんね、あの家。それが一晩でなくなったの?」

「うん、無茶苦茶でしょ。二人がリタイヤした後、空いたビンやパックを片付けながら、人間ってこんなに飲めるものなんだってびっくりしたよ。」

「人間ってカテゴリーでひとくくりにしちゃダメだけど。二人は特殊だから。」

「ほんと、特殊。呆れたよ。」

お姉さんが、ニヤッとした。

「で、お父さんも真ちゃんも酔っぱらってたんでしょ。」

「うん、二人とも、一人で歩けないくらい。」

「えっ?」

俺が驚いた。

「そうよ。私とお母さんであの部屋に連れて行ったのよ。重かった。覚えてないよね?」

「覚えてない。」

「ほんと、酔っ払いって幸せでうらやましいわ。」

「申し訳ない。」

「いいのよ、真ちゃん。飲むんだったら酔わないともったいないよ。今日は遠慮してる?もっと飲んでよ。なんなら泊まってもいいよ。」

「お姉ちゃん!」

由佳が本気にしている。

前のがトラウマになったか?

ここでは醜態はさらせないので、ほどほどにしないと。

「でさ、酔っぱらっちゃったら、思いもよならいこと言うでしょ。でもそれ、本当にそう思ってのことだから。酔っ払いって正直なんだよね。何かおもしろいこと言わなかった?お父さんと真ちゃん。」

「えっ、特に、何も。そんなこと、特に何もなかったよ。」

由佳の慌てぶりは、誰が見てもわかる。

もっと上手にやり過ごせないものかと思うが、酔っ払い以上に正直な子だからしょうがない。

「へー、どんなこと言ってたの?お父さん?真ちゃん?」

由佳が黙り込む。

「いいじゃない。教えてよ。いいことでしょ。」

由佳は答えない。

「・・・そうよね。あんた、私が嫌いだもんね。」

これは心理作戦だ。

「えっ。」

とお姉さんを見る由佳。

「いいよ。」

寂しそうにお姉さんが目をそらす。

罠だ。

「そんなんじゃないよ。」

由佳が取り繕うとする。

「いいよ、無理しなくて。」

「無理じゃないよ。あのね、・・・」

由佳が全部話してしまった。

俺には厳しいのに、お姉さんには簡単に騙されてしまう。

おそらく子どもの頃からそうだったんだろうな。

「へー、そうなの。由佳を嫁さんにしたいって。真ちゃん、男らしいね。」

「いや、酔ってましたから。」

「でも、言ったんだよね、それは覚えてる?」

「覚えています。言いました。」

「そう。お父さんは何て?」

俺は覚えていない。

意識不明になる寸前だったから。

代わりに由佳が答える。

「『そうか』って言っただけ。」

「ふーん。『そうか』か。淳ちゃん、私たちのときもそうだったよね。」

長い間、ずっと空気みたいだったお兄さんが

「うん。遥さんと結婚したいですって言ったとき、お父さん『そうか』とだけ言ったよな。」

「うん。で、結婚。お父さんの『そうか』は『わかった、そうしろ』って意味だから。」

「ほんと?」

由佳の顔がパっと明るくなる。

「そうよ。あんたたち、もう親の公認済だから。」

「えー。」

由佳が嬉しそうに両手を頬に当てる。


とは言われても、結婚の前にはちゃんと挨拶に行く。

そこはきちんとしないと。

こんなに素敵なご両親だから。

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