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由佳とおよばれ

新年度が始まった。

本年度は、なんと副担任になった。

去年まで、副担任っていいよな、責任は軽いし給料は同じだしと思っていた。

身も心も軽い。

では、ダイブ。


今晩は、なんと、この後由佳の家に晩ご飯に呼ばれている。

由佳の見舞いで会ったときに、そのことをお母さんに言われて了解したのだが、俺としてはそのうちに、くらいに考えていた。

ところが、由佳の両親はそうではなかったらしい。

すごく楽しみにしていたらしく、まだ真ちゃんは何も言ってこないか?と何度も由佳に聞いていたらしい。

由佳が言わないからそんなこと知らなかった。

由佳も適当に返事していたみたいだ。

で、しびれを切らしたご両親が、次の土曜日はどうか俺に聞けと由佳に言ったらしい。

「何でもっと早くに言ってくれなかったんだよ。俺が先延ばしにしてたみたいじゃないか。言われたらすぐに行ったのに。」

「ごめん。そんなに早く呼びたいって思ってたなんて知らなかったから。それに3月は忙しいって、真ちゃん、言ってたでしょ。」

「確かに忙しかったな。休みの日も家で仕事したり休日出勤したりしてた。ごめん、きついこと言って。まあいいや、次の土曜日に伺いますって伝えて。」

「うん、わかった。真ちゃん、飲むよね。お父さんが楽しみにしてるの。お義兄さんが体質的に全然飲めない人で。その分、期待してるみたい。」

「そう。それは嬉しいな。」

「真ちゃんがね、大学のときの寮で一番お酒が強かったっていう話をしたら、お父さん、俺と勝負できる男がやっと現れたかって嬉しそうだったよ。」

「ちょっと待ってくれよ。俺は楽しく飲みたいんだけど。勝負って何?お父さん強いの?」

「自分では倉敷で一番強い男なんて言ってる。」

「それでは俺と格が違うな。」

「ウソに決まってるけど自信はあるみたい。」

「わかった。けど楽しく飲みたいから、お父さんが暴走し始めたら由佳も止めてよ。」

「わかってる。でもそのときは私も飲んでないと、とても止められない。」

「それじゃあ、俺、帰れなくなるよ。」

何とも楽しみ半分心配半分なおよばれだ。

まあ、なるようになるだろう。


で、当日の夕方。

俺は飲むので由佳が車で迎えに来てくれた。

「囚人護送車が来ました。」

「こらえてくれよ。ただでさえ不安なのに。」

「あははは。」

由佳があまりに楽しそうに笑うのに少し腹が立った。


「おじゃまします」と上がり、リビングに通された。

「ご無沙汰しております。すみません、仕事が立て込んでいまして、お伺いするのがすっかり遅くなってしまって。」

遅くなったのを仕事のせいにする。

そんなことはどうでもいいように、俺を暖かく迎えてくれるお父さんとお母さん。


しばらく、いろいろな話をした。

仕事の話、実家の話、趣味の話・・・。

ほどなく、お母さんと由佳が立って席を空けた。

夕食の用意だろう。

残されたお父さんと俺。

お父さんは、由佳のことやお姉さんのことなどを話してくれた。


お母さんから声が掛かり、俺とお父さんはダイニングへ。

すごい料理。

肉、魚、野菜、本当に美味しそうな料理がテーブルいっぱいに並んでいる。


座るや否や、お父さんが「まずは乾杯だな」と待ちきれなさそうだ。

由佳以外のコップにビールが注がれて、乾杯。

晩餐が始まった。


「真ちゃん、酒、強いんだってな。由佳から聞いたよ。男100人の寮で一番強い男って言われていたってな。」

20人増えている。

友達100人じゃあるまいし。

「いえ、そんなことは。」

と謙遜して強いことへの話題を避けようとする。

「そうよ、お父さん。今日はもっといろんな楽しい話しようよ。」

上手に由佳がフォローしてくれてほかの話に移れそうだ。

お母さんが少し不満そうに

「真ちゃん、由佳ったらね、ここのところ真ちゃんのこと全然話してくれないのよ。私から聞くのもね、あれだし。」

あれって何?

「でも今日はいいわ。聞いても教えてくれないなら真ちゃんに聞けるし。」

そう言うと、お母さんは今までの欲求不満をぶつけるように、俺のことをかなりきわどいレベルで由佳にビシバシと聞き始めた。

由佳が何度もしどろもどろになる。

お母さんはビール一杯でもう顔が赤い。


ビールは最初だけですぐに日本酒に変わった。

俺もその方がいい。

ビールは炭酸でお腹が張って食べられなくなるし、薄いからいくら飲んでも酔わない。


お父さんがしみじみと

「でもよかったよ。こうやって真ちゃんと飲めて。うちは女の子二人だろ。かなわないこととはわかっていても、息子と飲むって若いころからずっとあこがれてたんだよな。」

そればかりは何ともコメントできない。

「淳ちゃんが飲めたらいいんだけど、それはな。」

「由佳から聞いています。」

「だから、真ちゃんと飲めるのをずっと楽しみにしてたんだよ。今日やっと飲めたよ。よ~し、今日はとことん付き合ってもらうぞー!」

途中からすごくテンションが上がっていった。

「お父さん!」

由佳がブレーキを掛けようとするがもう遅いかも。

俺でよければとことん付き合いますけど。


お父さんの話はおもしろい。

若いころに酒で失敗した話はかなり桁が違っていた。

お母さんも、この人そんな人だったの?っていう顔をしていた。

お母さんとの馴れ初めの話は、お父さんが自慢げに言う話とお母さんの言い分とがかなり違っていて少しもめた。

お父さんが自分もぐいぐい飲みながら俺にもガンガン進めるもんだから、飲まないわけにはいかない。

大学生のとき以来ほどに激しく飲んでひどく酔ってしまった。

理性が飛びそうだ。

そんな俺を見て由佳が心配している。

「真ちゃん、もうそれくらいにしたら。ふらふらしてるよ。」

俺もそれはわかっている。

「まだまだ宵のうちだよな、真ちゃん。」

なんて言われると

「そうですね、これからですよね。」

なんて答えてしまう。

「何がこれからよ。もう危ないよ二人とも。まあいいわ。酔っ払いの介抱は私もお母さんも慣れてるから。」

由佳のお墨付きをもらえた。

こんなお父さんなら朝まで付き合ってもいいな。


それまでしていた話が一区切りつくと

「真ちゃん。」

お父さんが急に真面目な顔で俺を見つめた。

だが、お父さんの目の焦点がかなりあやしい。

「はい。」

答えた俺もおそらく同じはず。

「由佳のことは、どう思っているかな?」

このことを想定はしていたが、かなり優しく聞かれた。

由佳は視線を落として黙って聞いている。

どう思ってるって言われても答えは一つだ。

もう酔っぱらっていて飾る言葉なんて頭の片隅にもない。

「好きです。本当に大好きです。かわいくってたまらないんです。由佳に僕の嫁さんになって欲しいです。」

「そうか。」

その後のことは全く覚えていない。


朝、目覚めたら全く知らない部屋。

昨夜のことを考えたら、ここは由佳の家なんだろう。

どれだけ醜態をさらしたのだろうか、覚えていないからたちが悪い。

激しい自己嫌悪。

それにしても頭が痛い。

気持ち悪い。

こんな二日酔い社会人になって初めてだ。

また横になった。

少しうとうとして目を開けたら

「真ちゃん、だいじょうぶ?」

枕元に由佳が座っていた。

眠いのと気持ち悪いのとで

「ああ。」

としか答えられない。

「昨日、すごく飲んだでしょう。家のお酒が全部なくなったってお母さんが言ってたよ。私も寝る前に少し飲みたい気分になったのにお酒がないからコンビニに買いに行ったよ。」

「確かにな。すごく飲んだ気がする。お父さんは?」

「朝からずっと吐いてた。」

「えっ?」

「気持ち悪いって。今は寝てる。」

「そう。昨日、かなり飲んでたからな。」

「うん。でも、嬉しかったみたいよ。真ちゃんと、とことん飲めたって。」

「うん。俺もあんなに飲んだの大学のとき以来だよ。由佳、これで運転したら飲酒運転か酒気帯び運転になるから、しばらくここで休ませてくれよな。」

「わかってるよ。絶対だめよ、運転なんて。ご飯、食べて帰ったらいいよ。」

「いや、何も食べたくない。思っただけで吐きそう。」


あっそうだ、なんて、由佳が恥ずかしそうに話を変える。

「昨日ね、お父さんに私のこと聞かれて、真ちゃん、何て答えたか覚えてる?」

何とか思い出そうとするが、はじけた脳みそが言ったことなんて今となってはわからない。

「えー何て言ったんだろう。」

「ならいい。」

由佳が言う。

でも嬉しそう。

「教えてくれよ、俺、何て言った?」

「知らない方がいいよ。」

「何で?」

「知ったら大変なことになるよ。」

そんな大変なことを言ったとしたら、このままじゃ帰れない。

何せお父さんに言ったのだから。

「大変なことって何?」

「思い出せない?私はこの耳でしっかり聞きましたが。」

イタズラっぽくニコッとしたら、いきなり由佳が俺の布団に潜りこんできた。

「えっ。」

としか言えない俺。

でも、何をするでもなく、同じ布団の中で俺にくっついて横にいるだけ。

横を向いた俺の前に由佳の横顔。

「由佳?これ、何?」

「何って、ん~・・・添い寝、かな。暖かくて気持ちいい。一度してみたかったの。」

「ふ~ん。」

「嫌?」

「嫌じゃないけど。少し早いというか?いいの?」

「えっ!そんなつもりはないよ。」

「ウソウソ。それって二日酔いですることじゃないし。」

「もう、びっくりしたよ。」

「それより、こんなところ、お父さんやお母さんが見たら、驚くだろうな。」

「うん、驚くなんてもんじゃないかも。」

「それこそ、もう孫が生まれたみたいになるんじゃない?」

「もう、待ってよ。早すぎるよ。」

いつのまにか、由佳とそれらしい話も普通にできるようになった。

「で、さっきの話だけど。」

「うん。」

「俺、お父さんに何て言ったの?」

「教えて欲しい?」

「うん。教えて。」

「じゃ、教えてあげる。」

といいながらも、なかなか言わない。

「由佳。」

「あのね、私をお嫁さんにしたいって。」

思い出した。

「うん、言った。確かに言った。由佳に嫁さんになって欲しいって。」

「本気?」

「当り前だろ、俺には由佳しかいないから。由佳は?俺の嫁さんになってくれるか?」

「・・・はい。」

「由佳。」

布団の中で由佳を抱きしめた。


こうして変なプロポーズが終わった。

結婚のことなのに、こんなのでいいのかな?

まあいいか、俺たちらしいといえばらしいな。

でも指環を用意したときには、もっとちゃんとしたのをやろう。

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