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由佳と花見

終業式も終わり、事務作業が忙しい。

指導要録というのが本当にやっかいだ。

特に行動の記録が。

何年も残るので、本当のことでも悪いことは書けないので。

さしさわりのないことを明瞭に作文することほど難しいことはない。

今日もかなり残業して書いた。

そうしないと終わらないから。

帰りの運転でダイブだ。


3月も末に近付き、桜の見ごろだ。

由佳を花見に誘いたい。

場所は星の里。

いろいろな木が植えられている中、大きな桜の木も2本植わっている。

その横に、源平梅もあってきれいなのだが、もう今年は終わっている。

ぜひとも来年はこの梅を由佳に見てもらいたい。

1本の木に、赤と白と赤白が混ざった花が咲く。

初めて見たときは驚いた。

由佳も驚いてくれるかな。


近所の公園などの桜はほぼ満開だが、空港へ向かう道路沿いに延々と植えられている桜たちはまだ5分咲きくらいだ。

高度が高いので、朝晩が寒いからか?

確かに、この時期にキャンプをすると夏用のシュラフでは寒い。

星の里の桜も5分咲きといったところか。

三日見ぬ間の桜かなの通りに、すぐに満開になるかもしれない。

由佳に電話して次の土曜日に花見の約束を取り付けた。


花見とはいえデイキャンプの延長だ。

というより前のデイキャンプではキャンプらしいことをしていない。

強いて言えばタープの下で過ごしたことくらい。

これではいけない。


予め由佳に弁当はスーパーで買って行こうと言ってある。

花見で飲まないなんてないよね、と由佳が車を出すと言ってくれた。

こんなに甘えていいのかな。

ほんと、よくできたかわいい彼女だな。


由佳の車で星の里に向かう。

「由佳の周りじゃ、桜はほとんど満開だろ。」

「うん。ほぼ満開。」

「そうだよな、僕の周りでもそう。でもな、空港線の桜はそうじゃないよ。」

空港線に乗ると道沿いの木はずっと桜だ。

花の色も、白に近いものから濃いピンクまで、木によって様々。

でも、どれも5分程度だ。


由佳に指示して右折して星の里に到着。

桜はやはり5分ほどだが十分に見応えはある。


前のときと同じように好きなところへ行っておいでと言ったが、設営を手伝うと言う。

じゃあ、とタープを張るのを手伝ってもらった。

俺がペグを打つのを見て私も打ちたいというので、場所と打つ向きや角度を教えて、残りのペグを由佳に打ってもらった。

今日は朝から来ているので、昼ご飯まで時間がある。

「コーヒーでも入れようか。」

「えっ、いれるの?」

「うん。」

俺が車のキャンプ道具入れのコンテナからシングルバーナーの本体を取り出すと、それ何だ?という顔で由佳が見ている。

俺のバーナーは、家庭で使うカセットガスのボンベで使うものにしている。

脚と五徳を広げてボンベを取り付ける。

由佳が興味津々の目で見ている。

タンクからクッカーに水を入れる。

ガスの元栓をひねるとシューという音がする。

すかさず自動点火装置のボタンを押す。

ゴッっと火が付く。

「わぁ、すごい。」

何がすごいのかわからないが、由佳にはすごいのだろう。

水の入ったクッカーを乗せてしばらく待つ。


ドリップオンのコーヒーを用意しながら、初めてカップのことを思った。

俺のは使い慣れたカップがあるが、由佳のは?

紙コップしかない。

「ごめんな、由佳。由佳のカップはこれしかないんだ。」

「全然いいよ、それで。でも、これからもいっぱいキャンプに行くから、私も自分のカップを持ってないとね。」

デイキャンプを気に入ってもらえたんだな。

「うん、帰りに買いに行こう。何がいい?スノーピーク?モンベル?キャプテンスタッグ?ロゴス?」

「どれも知らないよ。真ちゃんとおそろいがいいな。」

「じゃあ、スノーピークだな。スノーピークのキャンプ用品は何もかも高くて、テントなんてとても買えないから、僕が持ってるのはカップとスプーンとペグだけだよ。」

恥ずかしくて俺が笑う。

「じゃあ、それがいい。」

由佳も笑った。


コーヒーを飲みながらくつろぐ。

「真ちゃんは何でキャンプを始めたの?」

「う~ん・・・5年前に大震災があっただろ。そのとき自分の身は自分で守らなきゃって思ったんだよな。」

「それで?」

「グラウンドにテントを張って避難している人がたくさんいるのを見て、プライバシーを保つのにテントはいるなって思ったんだ。それで、ホームセンターで一番安いテントを買って公園で張ってみたんだ。」

「それ、やっていいの?」

「うん、張るだけなら問題ないよ。そしたら、思っていた以上に簡単にテントが張れて、中に入ってみたらすごく安らげて、この中で一晩寝てみたいって思ってしまって。」

「で、今に至るってことね。」

「そう。これって変かな?キャンプの入り方では?」

「別に、自由じゃない。趣味なんだし。」

「そうだよな。」


昼ご飯はスーパーで行きがけに買った弁当。

由佳のお言葉に甘えて、昼間からプシューっといかせてもらった。

桜を見ながら昼から飲むのって最高だ。

しかもかわいい彼女といっしょで。

つくづく日本に生まれてよかったと思う。


食べ終わって由佳に食後のコーヒーを入れる。

俺はビールをもう一本。

飲みながら、何でだかわからないが、今まで由佳には自分のことを僕と言ってきたが、気心知れた友人に言うのと同じように俺と言いたくなった。

「俺な、ここに来たらコットでちょっと昼寝するんだよ。これが気持ちいいんだよな。」

「コットって?」

由佳は「俺」に気付いているのかいないのかわからないが普通に続ける。

車からコットを降ろす。

脚を広げて布を張ってベッドのできあがり。

「どうぞ。」

「えーここで?そんな・・・。」

だよな。

さすがに俺の目の前でコットに仰向けってないよな。

俺でも無理だ。

じゃあ、とコットを抱えて大きな木の方へ向かう。

コットはアルミ製なので軽い。

葉が生い茂っているところの下を選んで、幹の裏側にコットを置く。

「俺は向こうに戻るから寝転んでみたら。」

「うん、少しだけ。」

と言ったものの、なかなか由佳が戻ってこない。

気になって行ってみたら、由佳が仰向けで空を見ている。

「気持ちいいね、真ちゃん。外で横になるって最高だね。」

コットも気に入ったようだ。


「いつかテントで寝てみたいな。」

「うん、テントを張って泊まると楽しいよ。やっぱりキャンプの醍醐味は、夜にしか味わえないことを楽しむことにあるよ。この季節は夜が冷え込むから、焚火をしたら暖かいんだよな。」

「うん、焚火、してみたい。」

「俺、一人でキャンプしても焚火はするよ。炎を見ながら自分と向き合うんだ、なんてね。したいからしてるだけだけどな。焚火の火は何時間見てても飽きないよ。」

「したことないけどわかる気がするよ。いいね、そんな時間。」

「由佳と焚火をしながら飲みたいな。何か、すごく素直な気持ちで話せるんだよな。倶楽部の仲間ともいつもそう。」

「そうなんだろうな。すごくワクワクしてきたよ。近いうちに行きたいな。」

「ほんと、行こうよ。すごく楽しいよ。じゃあ決まりだな。家の人にも少しずつ話しといて。」

「少しずつも何も、真ちゃんとキャンプ場にテントを張って泊まる以外に何を言うの?」

「言われてみればそうだな。それ以上でも以下でもないもんな。」

「うん。言ってみるね。もう子どもじゃないから、反対されそうにはないけど。さすがに、あのお姉ちゃんでも結婚前に二人で外泊はなかったけど。」

「そうか。由佳がついにあのお姉さんを超える日が来るのか。」

「何したって超えられないよ、お姉ちゃんは。」

「でも、お父さんのことだから、由佳が俺と二人で泊りのキャンプに行くって言ったら反対に大喜びするんじゃない?」

「何で?」

「孫の顔が見られるかもって。」

由佳がしばらく考えて、顔が赤くなっていく。

「もう、馬鹿!」

由佳に馬鹿と言われることに何の違和感も無いって、どうなんだろう。

むしろ快感になってきているのは、もっとどうなんだろう。


由佳とテント泊となると、シュラフとその下のマットがいるな。

シュラフはとりあえず、5℃に対応したオールシーズンでいいか。

真冬にも行くようだったら、暖かい冬用のを買ったらいい。

でも由佳は寒いのは苦手って言っていたな。

冬のキャンプ、一緒に行ってくれるかな。

待ちきれないな、テント泊。

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