由佳の入院とお姉ちゃん
これは前の話の続きだ。
ではダイブ。
由佳の会社の方々が帰った後、少し由佳と話していた。
もうそろそろ俺も帰ろうかな。
コンコンとノックの音が。
由佳の返事を待って女の人が入ってきた。
よちよち歩きの女の子の手を引いて。
「やぁ。」
「お姉ちゃん。」
彼女があのお姉ちゃんか。
すさまじくて破天荒な。
「入院してる割には元気そうね。」
「みんなにそう言われるよ。私ってそんなに病人らしくないかな?」
「いいんじゃない。本当に病人らしかったら辛気臭いし。で、この人?」
「うん、そう。」
挨拶しないと。
「由佳さんとお付き合いさせてもらっています、桐島真と申します。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。でも私は由佳の親じゃないから、そういう挨拶はもういいからね。」
笑っている。
「沙耶ちゃん、大きくなったね。昨日、お父さんとお母さんが来たときに、沙耶ちゃんが歩いたりしゃべったりするようになってたって驚いてたよ。」
「まだしゃべるってほどじゃないけどね。何か言ってるって感じ。」
「真ちゃん、イスお願い。」
「真ちゃんか、いいね。」
イスを出して座ってもらう。
由佳のお見舞い中、俺はこのイス係になってしまっている。
「で、いつからなの?真ちゃんとは。」
もう真ちゃんだ。
「去年の7月から。」
「へーそうなの。まだ一年経ってないんだ。でも、このころが一番いいころよね。」
意味深なことを言う。
「お母さんから聞いたけど、真ちゃんって高校の先生してるのよね。」
「はい。生物の教員をしています。」
「生物か。おそらく習ったんだろうけど、何も覚えてないな。高校の頃は全然勉強しなかったし。そうだ、私のこと、由佳からどんなふうに聞いてる?」
聞いていることが前提なのか。
「はぁ、・・・。」
答えに困る。
由佳が、絶対にダメだからね、言ったら後がないよという今までにない猛烈な目で俺を殺してくる。
「何と言いましょうか、行動力があってはっきりした性格ってことくらいでしょうか。」
「それだけ?」
「はい。」
お姉さんが笑いだす。
「真ちゃんもウソが付けない人ね。わかりやすいよ。本当はもっとすごいことも聞いてるくせに。」
もうばれてるよ、由佳、どうする?
「でしょ?」
「はぁ。」
ここで否定してもどうせ押し通されるのがわかるから、返事をするしかない。
「まあ。あえてそれは聞かないけど、この子大げさだから、あまり私のこと怖がらないでよね。」
「はい。」
よかった。
この話はこれで終わるみたいだ。
「ねえ、真ちゃん、由佳ってぱっと見はおとなしそうだけど、けっこうやるでしょ。はっきりしてるし、おもしろいし、天然もあるし。そう、すごく大胆でびっくりしたことない?付き合ってて退屈しないでしょ。」
「はい、その通りですね。付き合い始めた頃と今は全然違います。今でもこんな一面があったんだってよく驚かされます。まぁ、それはお互い様でしょうけど。余計なことを言ったら、辛らつに怒られますよ。」
「そう、由佳に怒られてるんだ。真ちゃん、優しそうだもんね。もう、尻に敷かれてる?」
「お姉ちゃん、変なこと言わないでよ。」
「小さいころから由佳は私と違って模範囚だったんだよね。」
お姉さんがボケる。
「模範囚って何なのよ。」
由佳がツッコむ。
「勉強も習い事も部活も頑張ってたし。ただね、いつまでたっても彼氏ができなくってね。」
「私が無理に作ろうとしなかっただけ。これは縁の問題だから。」
縁か。
またもや由佳が古風なことを言う。
今時爺さんや婆さんしか使わないんじゃないか?
「縁ね。で、その縁があったってことね。」
「うん。あった。」
「へーあんたもはっきり言うようになったね。前ならそういう話は嫌がってたのに。恋は人を変えるか。」
「またそんなこと言う。お姉ちゃんにはしたくなかっただけよ。いつも彼氏の自慢ばかり聞かされて、はっきり言って嫌だったから。」
「真ちゃん、私、モテてたのよ、知ってる?」
「はい、由佳から聞いてます。高校に入ってからは毎回違う彼氏を家に呼んでたって。あっ!」
慌てて口を押えるがもう遅い。
由佳の顔が引きつる。
「いいよ。本当のことだから。でもそんなことまで聞いてるってことは、ほぼ全部知ってるみたいね。自己紹介が省けて助かるわ。」
よかった。
由佳からのお仕置きはなさそうだ。
「お姉ちゃん、私が高校の頃、よくカフェに連れて行ってくれたね。」
「何、急に。」
「急に思い出した。何でだろう。」
「私はもう稼いでたからね。妹に茶を飲ますくらいのお金は持ってたよ。」
「部活が休みの日とか、試験の午後とか。お姉ちゃんの休みと重なったら、だいたい声を掛けてくれて。お昼ご飯も。」
「そうだったっけ。」
お姉さんが照れている。
「そんなときも彼氏の自慢ばっかりだったけど。」
「悪かったね、自慢ばっかりで。」
お姉さんの機嫌が悪くなった。
そう仲が悪い姉妹とは思えないが、実際のところは俺などにわかるはずがない。
「そうそう、今度二人でうちにおいでよ。晩ご飯でも一緒に食べよう。淳ちゃんも由佳の彼氏にすごく会いたがってるよ。」
「えー!お義兄さんも知ってるの!」
「当り前じゃない。知ってるどころじゃないよ。しばらくうちでの話題、その話がかっさらってたから。」
「えーうそ。恥ずかしいよ。」
「由佳の彼氏いない歴が終わったってね。」
「そっち?」
「真ちゃんもいいでしょ?」
「はい、ぜひともお願いします。」
「これで決まりね。由佳だけに言ってたらいつになるかわからないから。」
沙耶ちゃんがぐずり始めた。
でもよくもまあ、今までいい子にしていたものだ。
いい子に育ちそうだ、親を反面教師にして。
「沙耶が機嫌悪くなったようだからこれで帰るわ。」
「うん、今日はありがとう。」
「本当に来てよ。待ってるから。」
「わかったよ。行く。」
お姉ちゃんと沙耶ちゃんが帰っていった。
お姉さんは、はっきりものを言う人だが、すさまじい人とは思えなかった。
遠慮していたのかな。
でも、あのお姉さんを嫁にした旦那さんも見てみたいな。
どんな人なんだろう?
激しくすさまじい人か、きわめて常識人のどちらかのような気がする。
勝手な想像だけど。
それにしても、今日はダブルヘッダーだった。
初対面の人たちばかりだったから気を遣ってかなり疲れた。
急いで帰ろう。
トリプルヘッダーはごめんだ。




