由佳の入院と会社の人たち
昨日、日曜日にも関わらず、卒業式が行われたので、今日はその代休だ。
妻は、友人と華展を見に行った。
では、ダイブ。
今日は、日曜日なので面会時間から由佳の病院へ来ている。
「真ちゃん、毎日来なくてもいいよ。休みの日はゆっくり休んで。」
「面会時間が昼からだからゆっくりしてるよ。俺が来たいから来てるだけだから気にしないで。」
「そう。ありがとう。」
由佳が素直に嬉しそうな顔をする。
「それに、ここに来たら絶対に由佳がいるしな。」
「うん。今はここから逃げられないよ。」
そのときノックの音が。
由佳の返事を待って3人の女性が入ってきた。
驚く由佳。
由佳と同じくらいの若い子が
「元気そうじゃない。」
それを聞いた年配の方が
「元気じゃないから入院してるんだよ。」
「あっ、そうだった。」
「でもだいじょうぶそうだね。入院したって聞いて、みんな心配してたんだよ。」
「そんな、すみません。ご迷惑をお掛けしているのに、お見舞いにまで来ていただいて。」
由佳が恐縮している。
30代後半くらいの女性が
「いいのよ全然。由佳ちゃん、大変だったね、手術したんだって。いい機会だから、ゆっくり休んだらいいのよ。なんなら多めに入院させてもらったら。」
たしかにサバサバした人だ。
「美玖ちゃんなんか、ひょっとして彼氏が来てるんじゃないかな、なんてずっとウキウキだったのよ。由佳ちゃんへのお見舞いよりそっちが目的だったりして。」
「違いますよ、恵さん。って、何でバラすんですか~。」
ほんと、由佳から聞いていた通りの方々みたいだ。
イスを出すが、全部で3脚しかないので俺が立つことにする。
美玖ちゃんは聞いていた通りアクティブそうだ。
「で、この方があの彼氏さん?」
「うん。」
「ちゃんと紹介してよ。」
「桐島真といいます。」
「それだけ?」
「高校の先生してます。」
「それは忘年会で聞いた。」
「ほかにって・・・。」
見かねた大先輩が
「美玖ちゃん、あんた忘年会で彼のことを根掘り葉掘り聞いてたじゃない。もう新しいネタは出てこないよ。」
「そうですか?」
「そうだよ。」
由佳が3人を紹介してくれる。
「この方は井上正代さんで経理の先輩。この方も経理の先輩で宮野恵さん。で、この子は同期で営業の村田美玖ちゃん。」
美玖ちゃんが仕掛けてくる。
「桐島さん、由佳から私のこと何か聞いています?」
由佳を見る。
いらないこと言ったら後でお仕置きだからね、と言わんばかりに由佳が目で俺を牽制してくる。
「そうですね、採用が二人だったから、同期は美玖ちゃんだけって聞いています。」
「え~美玖ちゃんだなんて~。ほかには?」
すぐに美玖ちゃんはため口になった。
「ん~元気で活発ってことくらいかな。」
かなりマイルドに言ったので由佳が安心している。
男子社員並にパワフルっていうのはマズいのかな?
「そう。」
美玖ちゃんは少しつまらなさそうだ。
恵さんが
「桐島さんは高校の先生をしていらっしゃるんでしょ。どこの高校ですか?」
これは困った。
3人もいたら何らかの関係者がいるかもしれない。
由佳とチラッと目を合わせる。
ここで「勤務校は言わないことにしてるんです」はないよな。
仕方がない。
「岡山北高校です。」
「えっ、北高ですか。私の娘、北高に行きたいって言ってるんですよ。まだ中一なんですけどね。全然、勉強できなくって、今のままじゃ無理って言われているんですけど。」
ということは、3年後に入ってくるかもってことか。
「私のいとこ、北高の2年。」
と美玖ちゃん。
「そう言えば、近所の娘さんが北高に入ったっていってたかな。」
と正代さん。
なんてことだ。
頭が痛くなってきた。
三人が三人とも関係者か?
恵さんはオープンスクールに親子で来るかもしれない。
それより、美玖ちゃんのいとこって誰だろう?
聞いても教えてくれないだろうな。
正代さんは、その子とよく顔を合わせるのか?
話題を替えよう、強引に。
「僕、公務員しか経験したことがないんですけど、会社って、ゴールデンウイークや盆休みや年末年始も、カレンダー通りに休みってことじゃあないんですよね?由佳から聞いたことがあるんですけど。」
「まあ、会社によるでしょうけどね。うちの会社は小売店さんが相手だから、小売店さんがやってるときは安めないのよね。」
と恵さん。
美玖ちゃんが不満いっぱいに
「そう。だから、ゴールデンウィークだって、シフトを組んで出勤よ。連休なんてあって1回。世間では7連休とか9連休とか言ってるのに!」
「先生はカレンダー通り?」
と正代さん。
「はい。お客さんがお休みですから僕たちも休みです。」
「いいなー!」
美玖ちゃんが叫ぶ。
「でも休日出勤って結構ありますよ。オープンスクールなんかの学校行事とか校外模試の監督とか。まれに部活の大会の引率もあります。」
「部活か~、なつかしいな。私、高校3年間バレーボールやってたのよ。桐島さんは何部の顧問なの?」
と恵さん。
「柔道部です。高校までやってて。」
「わ、かっこいい。私は弓道やってたの。あの白の胴着と黒の袴にあこがれて入ったの。」
と美玖ちゃん。
「引率あるの?今年あった?」
由佳が意外そうだ。
言ったことなかったかな。
「今年はなかったけど、今までにはあったよ。本当にまれだけど。男女で会場が違ってて、第2顧問の先生が都合が悪いときとか。」
「そう。でそのときは、真ちゃんは当然女子よね」
由佳がニヤっとする。
俺は当然女子って何だよ。
危ないこと言うなよ。
まずい。
あのことは絶対に言うなよ、わかってるよな、と由佳を目で威嚇する。
全くその効果はないようで、おもしろいことになってきたとばかりのたくらんだ顔になる由佳。
本当、頼むからやめてくれよな、俺の人間性が疑われることになるから。
「女子もいるんだ。」
と美玖ちゃん。
そこに食いつかないでくれ、そこは流してくれ。
「そうよ。でね、女子は男子や先生とも練習するのよ。」
「えー、いいの?それ。」
由佳の意図する展開に引き込まれていく。
あえて由佳は答えない。
俺に答えさせようとしているのがわかる。
「いいっていうより、そうじゃなきゃ強くならないよ。女子だけじゃ部員は少ないし、同じ相手とばかりやっても手の内がわかってるし。」
「じゃあ、桐島さんも女子とするの?」
何か聞きようによって変にとれる質問。
「するよ。相手をしてくれと来たらね。」
これもまた変な答え。
「でも、体が当たるでしょ。」
由佳より表現がマイルドだ。
ここは失敗できない。
前の由佳のときみたいな本音は厳禁だ。
「うん。でも互いに本気だから、そんなの全然気にならないよ。そんなの気にしてたら投げられるよ。女子でもかなり強いから。」
決まった。
「そうなんだ。」
美玖ちゃんが納得している。
由佳は・・・笑っている。
女3人寄れば姦しいというが今日は4人だ。
由佳も加わって4人で楽しく話す。
次々と話題が変わって、ボケやツッコミも入る。
ボケ役はいつも美玖ちゃん。
恵さんのツッコミが鋭くて、その後は爆笑になる。
会社への愚痴もいっぱい。
最後に由佳に業務上の連絡などをして終了。
そして3人は帰っていった。
「いい人たちだね。」
「うん。みんなとってもいい人たち。」
「よかったな。」
「うん。」
由佳が本当に嬉しそうにうなずく。
それだけで、由佳の気持ちが十分に伝わった。




