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由佳の入院とユッコちゃん

今日は寒い。

こんな日はコタツに入って何もしないに限る。

だからダイブ。


大変ことになった。

由佳が入院してしまった。

昨日の夜に届いたLINE。


「突然のことだけど、ただいま入院中」

は?何があった。

でも入院しているって言う割には文面からは悲壮感は全く感じないし、なんかのんきな感じ。

「何で?」

「へへへ、虫垂炎」

「へへへじゃねえよ」

ないとは思っていたが、やはり大病や事故とかじゃなくてよかった。

虫垂炎って盲腸っていうやつじゃないか。

盲腸と虫垂は違うんだけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

「で、どうなの?」

「手術した。5日くらいで退院できるみたい」

「よかった」

「もっと早く病院に言ってたら日帰りの手術もできたらしいんだけど、かなり痛くなってから行ったから。でも、そんなのわからないでしょ。虫垂炎の経験なんてだれも初めてだし」

確かにほとんどの人は虫垂の位置など知らないし、虫垂炎の初期症状など知るよしもない。

俺も知らない。

「まあ、それで済んでよしと思わないと」

「うん」

「明日、仕事の帰りに寄るよ」

「無理はしないでいいからね。私はだいじょうぶだから」

「わかってる。由佳は殺しても死なないこと」

「ひどいな。それ、今日手術して入院した人に言うセリフ?」

「それだけ元気ならだいじょうぶだ」

「うん。じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」


結局、由佳は6日間入院したのだが、先に言っておく。

この間は土日も挟んでいて、俺は毎日見舞いに行った。

その結果、由佳を取り巻くオールキャストに相まみえることとなった。

よくも悪くも。


翌日、2時間の有休休暇をとって早く職場を出た。

悪いとは思いながらも、副担任の先生には、親が入院してとウソをついてしまった。


見舞いに行くと、そこには普段どおりの由佳がベッドに座っていた。

「大変だったな。」

「うん。最初はおへその周りが痛くなって、吐き気がして。でも、わからないからしばらく様子を見てたんだけど熱も出てきて。」

「そう。で、勉強がてら調べてみたら、ひどいと2週間くらい入院しないといけなくなるらしいから不幸中の幸いと思おうよ。」

「へーそうなの。何でも勉強のネタなんだね。彼女の虫垂炎まで。」

「そっちか。」

そのときコンコンと扉を叩く音が。

「どうぞ」の由佳の返事の後にドアが開く。

ミスドの箱を持った女の人が入ってきた。

「ユッコちゃん!」

由佳が嬉しそう。

この子があのユッコちゃんか。

由佳からよく聞いていたお母さんのような友達。

ただし、これを言ったら最後、由佳に縁を切られてしまう。


丸顔で、面倒見がよさそうな人の好さが一目見てわかる。

決して美人じゃないが、こんな子を好きなヤツは本当に好きになるだろうなって、男の本能が勝手に思う。


俺を見て

「お邪魔だったかな。」

とイタズラっぽく由佳に。

「もう、やめてよ。ユッコちゃん、座って。真ちゃん、そこのイス。」

「あ、ああ。」

由佳に言われるままに予備のイスを広げる。

「この瞬間に二人の力関係がわかったな。」

ユッコちゃんがおもしろそうに笑う。


何て呼んで話を始めようか?

いきなりユッコちゃんはマズいんじゃないのか?

こんなことになるなんて思ってもいなかったから、本当の名前なんて憶えていない。

由佳との会話の中ではずっとユッコちゃんだったし。

などと考えていたら

「真ちゃん、彼女はユッコちゃん。前に話したよね、ずーっと同じ学校に通った幼馴染。あ、名前は藤原有紀子さん。」

よかった、情報がゲットできて。

「桐島です。藤原さんのことは由佳からよく聞いています。由佳がいつもお世話になっています。」

由佳が笑いながら

「真ちゃん、堅いよ。私と話すときはいつもユッコちゃんじゃない。ユッコちゃんも真ちゃんでいいからね。」

「わかった。で、真ちゃんのことも、これでもかっていうくらい由佳から聞いてるよ。真ちゃんって学校の先生なんだよね。」

俺へのユッコちゃんの一言目がこれだった。

何ともフランク。

俺もオープンになってしまう。

「うん。高校で生物の教員してる。」

「北高よね。」

えっと思って由佳を見る。

口だけ動かして「ごめん」。

「あ、これって言っちゃダメなヤツだった。ごめ~ん、由佳。」

何とも憎めない人だ。


その後は、三人、入り乱れての乱闘のようになった。

「でね、由佳ったらね、真ちゃんとのデートの後は必ず、あんなことした、こんなことしたって言うのよね。聞かされてる方の身にもなれよって。」

「ま、待ってよ、ユッコちゃん。あんなことって何?私、そんな話してないよね、ね。」

「はぁ、真ちゃんの前だからって、何いい子ぶってるの?私は本当のことしか言わないからね。」

「もう、ユッコちゃん!」

由佳が真っ赤になる。

「ユッコちゃんが聞いてくるから、それに答えてただけじゃない。」

「そうかな。そうなの、真ちゃん?由佳はああ言ってるけど、あんなことやこんなことやしてるよね。」

ユッコちゃんが、もうちょといこうぜって顔で煽ってくる。

これには応えないとな。

「まあ、由佳がユッコちゃんにどこまで話してるかだよな。でも、まさか、あのことまでは話してないよな、由佳。」

「そ、それって、どの話?あれのことかな、いや・・・。」

「へー、結構いろんなことしてるんだ。」

「違うよ、私たちは、まだだよ。」

俺たちの攻めにあって、由佳が完全にパニくっている。

最後のはさすがに気になったが。

「ははははは。」

ユッコちゃんが豪快に笑うから、俺も笑った。

「ごめ~ん、由佳。ちょっとやりすぎちゃったかな。」

「僕も。ごめ~ん。」

「もう、いい加減にしてよね。病状が悪化したら二人のせいだからね。」

それを聞いて、俺とユッコちゃんでまた笑ってしまった。

由佳は怒っていたけど。


その後は、二人から、由佳とユッコちゃんの今までの付き合いの中の、おもしろい話を聞かせてもらった。

ユッコちゃんには持ちネタがあるみたで、ある話が始まると立て板に水で、由佳やユッコちゃんのそのときの光景が俺の目の前に広がるようにリアルにおもしろく話してくれた。

何せ、幼稚園から今に至るまでの20年の歴史だ。

人生24年のうち、20年を一緒に過ごしてきたなんて。

まだ、付き合って1年にも満たない俺にとっては、ユッコちゃんが話してくれる由佳は俺の知らない由佳で、全ての由佳が愛おしく思えた。


そろそろ面会時間の終わりが近付いてきた。

「そうだ、由佳が退院したら3人で飲みに行かない?」

「うん、いいな、それ。」

俺たちが意気投合する中、一人焦る由佳。

「ダメだよ。ユッコちゃんも真ちゃんも酔ったら何言うかわからないし。」

「だから面白いんじゃない。よかったね、彼氏が飲める人で。決まりね。」

「え~。」

まだ由佳がしても仕方がない抵抗をしている。

「じゃあ、ユッコちゃんの彼も連れてきてよ。」

してやったりとばかりに切り返す。

「言ってなかったっけ。先週別れた。」

普通に言うユッコちゃん。

「聞いてないよ。」

と由佳。

ユッコちゃんのプライベートなので、俺にとっては正直言ってどうでもいいことなのだが、流せない雰囲気。

「そうだったの。」

由佳が深刻な顔でユッコちゃんを見る。

「もう、あんた、いつもそう。私はとうにキリを付けてるのに。」

「そうだね。ごめん。」

「あ~あ、真ちゃんみたいな人に出会えないかな~。」

「え?」

「だから。真ちゃんみたいな人、どこかに落ちていないかな~。」

前に由佳から聞いたのとはだいぶ違う。

「え、ユッコちゃんって、イケメンで背の高い男がいいんじゃないの?由佳からそう聞いてるけど。」

「えっ、由佳。あんた、そんなことまで言ってるの!」

「さあ、どうかな。覚えてないな、そんなこと。」

さっきの分の仕返しをする由佳。

「もーあんたって、いつも言わないでいいことばかり言うんだから。」

「それはユッコちゃんも同じだよ。今日だって・・・。」


なんとも仲のいいい二人だ。

由佳が退院したら、本当に3人で飲みに行こう。

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