由佳とカラオケ
今日は、姉一家に呼ばれて、鍋をご馳走になる。
楽しみだ。
では、出発。
ダイブだ。
珍しく、由佳から誘いの電話が掛かってきた。
いつもはLINEなのに。
よっぽどのことなのかな?
「ねぇ、今度一緒に行って欲しいところがあるんだけど、いいかな。」
「うん。次の土曜日でもいい?今までほとんど僕の行きたいところに付き合ってもらってたから、どこでも行くよ。」
「うん、私も土曜日がいい。絶対にどこでも一緒に行ってくれる?」
「うん。で、どこ?」
「それは、土曜日まで秘密。」
「何で?」
「真ちゃんが、嫌がるかもしれないから。」
「えー、どういったところ?僕が嫌がりそうなところって。」
「今まで真ちゃんに聞いたことがないから、本当はわからない。サプライズで土曜日に言うね。そうだ、その日は私が車を出すよ。場所がわかってるから。」
「近いの?」
「うん、近いよ。一日もいらないからから、午後からにしようか。」
「いいよ。ほんと、どこだろう。」
「楽しみにしてて。」
「そうだ。前々からしようって思ってたんだけど、その後、晩ご飯で鍋しない?」
「どこで?」
「僕の部屋。」
「うーん・・・いいよ。」
「何か心配事でも?」
「そんなんじゃないけど。元日に行ったばかりだなって思っただけ。」
「別に、彼氏の部屋なんだから、しょっちゅう来たらいいじゃない。仕事の帰りにちょっと寄ってくれてもいいし、なんなら泊まっていってもいいよ。だいじょうぶ、何もしないから。」
「もう、すぐそんなこと言う。」
「じゃあ、OKってことでいいね。土鍋はあるから。」
「うん。寒い季節は鍋よね。楽しみ。」
そして、土曜日。
小元駅に由佳が迎えに来てくれた。
「もう教えてくれてもいいだろ。今日はどこに行くの?」
「そうだなー、もういいかな。真ちゃんの身柄を確保したし、もう逃走の心配もないしね。」
「何か、僕、犯人みたいだな。で、どこ?」
何かたくらんだ笑みを浮かべたまま運転し続けて、なかなか言わない。
「どこ?」
「カラオケ!」
思いもよらない答えにしばらく脳がフリーズした。
「カラオケ?」
言葉の意味を理解しようとしているのか、由佳に問うているのか、自分でもわからない。
「そう、カラオケ。」
やはり、あのカラオケのことだったんだ。
「絶対にどこにでも行ってくれる約束だよね。」
「うん。そうだったな。」
とは言いながらも、頭は現実が受け入れられていない。
「よかった。すごく嫌がられたらどうしようかって思ってたから。」
やっと落ち着いてきて、ものごとを判断することができるほどに頭がはっきりとしてきた。
そうなると、当然、拒否したい。
でも、話の流れから断れない。
「嫌なのは嫌だけど約束だから行くよ。歌うかどうかは別。」
「えっ、歌わないの?カラオケに行って。」
「その約束はしてない。」
「ウソ、歌おうよ。」
「悪いけど、真昼間からシラフでは歌えないよ。」
「え、カラオケ行ったことないの?」
「カラオケボックスには入ったこともない。カラオケは、忘年会とかの二次会でスナックでしか歌ったことがないよ。水割り飲みながら1曲歌うっていうのを年に2、3回やるくらいかな。」
「えーそうなの。」
「うん。だから、こんなにお天道様が明るいうちから人前でシラフでは歌えないよ。」
「人前って私だけよ。」
「えっ、由佳って人じゃないの?ホモサピエンスではないと?」
「もう、面白く言わないでよ。・・・そうだ、カラオケボックスってお酒飲めるよ。」
「えっ、本当!」
「うん、ビールから日本酒からウイスキーから何でもあるよ。」
「えーほんと、それを先に言ってよ。それなら話は別だよ。で、飲んでいいかな?」
「いいよって、真ちゃん、もう飲む気満々じゃない。その代わり歌ってよ。」
「歌う歌う、歌いまくるよー。」
「もう酔ってるみたいだよ。私にはお天道様が明るいうちからお酒を飲む方がありえないわ。」
「何か言った?」
「別に。」
カラオケボックッスに到着。
こんなに近い距離でヤツと向き合いのは初めてだ。
ついにカラオケボックスデビューか、緊張するな。
システムがわからないから由佳の後ろについて歩く。
部屋番号を教えられて部屋に向かう。
206号室に入る。
割と広いな、あたりまえだけどきれいだ。
「じゃあ、いくか。」
「いきなり?いいけど。そこの電話で注文できるよ。」
メニューを見てびっくり。居酒屋とレストランとカフェが一つになった感じ。うどんやラーメンまである。酒の種類も、由佳が言っていたのに加えてカクテルやサワーも居酒屋並みに種類が多い。
そして安い。
電話の受話器を持つと、すぐに店員の声がした。
「206号室の桐島です。生ビールの中と手羽先とフライドポテトとチキンナゲットをください。それとオレンジジュース。」
受話器を置いたら由佳が笑いだす。
「部屋番号は言わなくていいよ。向こうはわかってるから。それに自分の名前も言わなくていい。言われても困ると思うし。」
まだ笑っている。
そんなにおかしいか?
「じゃ、歌うね。」
由佳が曲を入れて歌い始める。
伸びやかで張りのある歌声。
これはそうとう練習してるな。
自分はたっぷり練習する期間があって、俺は突然のことで歌う曲すら決まっていない。
歌い終わった由佳が
「次、真ちゃんよ。」
「ちょと待ってくれよ。まだ決まらないよ。」
「わかった。じゃ次も私が歌うから、その間に決めといてね。」
これじゃゆっくり飲めないな。
歌えるかどうかは別として、通勤のときに車で聞いている曲くらいしか知らない。
どれもだいぶ前の曲だ。
「決まった?曲名言ってくれたら入れるよ。」
「木山裕策のhome。」
これは歌える方だ。
「渋いな。」
とつぶやきながら由佳が入れてくれた。
前奏が始まるとドキドキしてきた。
歌い終わると
「うまいじゃない。声もいいし。練習してるんじゃない?」
「通勤のときに運転しながらな。」
「そうか、その方法もありだな。明日からやろっと。」
次は由佳が歌う。
その次は俺。
あいみょんのマリーゴールド。
その次は由佳。
そして、俺。
いきものがかりのありがとう。
由佳が歌っている間に追加の注文をする。
中途半端にこれ以上食べると、夕ご飯の鍋が食べられなくなるから飲むだけにしておく。
ハイボールを注文した。
次は?と由佳が聞く。
「ペンギンリサーチのボタン。」
「知らないなぁ。」
俺が歌い始めても何の反応もない。
そしてサビにはいる。
「あっ!」
と由佳が叫んだ。
そして
「ReLIFE!」
そう、由佳に初めて会ったときに、お勧めのアニメを聞かれて、一押ししたあの作品。
由佳が次のデートのとき、聞いた翌日に一気に全話を見たと言ってくれたあの作品。
歌い終わるやいなや
「始めは全然わからなかったけどサビでわかったよ。あの、みんなでフォークダンスしてたところよね。あれ、いいよね。また見たくなったよ。」
俺も無性に見たくなった。
その後も、俺たちは交互に歌った。
歌う歌が無くなった俺は、アニメソングを歌い続けた。
secret base ~君がくれたもの~
菫
乙女どもよ
DREAM SOLISTER
はじまりのセツナ
最後のはやめとけばよかった。
恥ずかしすぎた。
「時間からして次が最後になるよ。」
最後の歌は用意している。
「浜田省吾で、もうひとつの土曜日。」
イントロが流れる。
そして曲のラスト。
敢えて由佳を見ないが心は由佳に。
『子供の頃君が夢見てたもの
叶えることなど出来ないかもしれない。
ただいつも傍にいて手を貸してあげよう
受け取って欲しいこの指輪を
受け取って欲しいいこの心を』
曲がフェードアウトしていく中
「真ちゃん。」
由佳が泣き出した。
涙をポロポロ流して。
拭おうともしない。
「僕の由佳への気持ち。」
「・・・うん。ありがとう。」
泣き続ける由佳を、ぎゅっとした。
ReLIFEの最終話のあのシーンを思い出して、ずっと。
由佳が落ち着くのを待って、カラオケボックスを出た。
少し早いが、鍋の食材を買いに行こう。
帰ったら、ReLIFEを一緒に見るのもいいな。
見るなら最終話だな。
俺は一度見たアニメでも何度も見るアニメがある。
本とは反対だ。




