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由佳と初詣

リアルの世界でも今日は元日。

昨夜は、ついつい遅くまでテレビを見たりネットをしたりしてしまった。

元旦は、朝から飲みながらおせちをつまんだ。

初詣は昼からにしよう。

少し部屋で寝ようかな。

寝正月も悪くない。

では、元旦ダイブ。


今日は元日。

由佳と初詣だ。

そして、初めて由佳が俺のアパートに来る日だ。

昨日は、年末恒例のいろいろなテレビ番組をBGMに大掃除をした。


明けて元旦。

いつものように駅に由佳を迎えに行く。

車の中で新年の挨拶をして、俺が毎年初詣にお参りしてる神社へ向かう。


「昨日は遅くまで起きていたの?」

「ううん。いつもと同じくらいに寝たよ。真ちゃんは?」

「僕も夜更かしはしていないよ。でも、夜はずっと掃除してた。長い間、掃除らしい掃除してなかったから。新年を迎えるのもあったけど、なんたって由佳様がおいでになるんだから。」

「由佳様って何よ。普通でいいのに。」

「僕の普通はとても見せられないよ。」

「そうなの?じゃあ、次は仕事の帰りにアポなしで行ってみようかな。」

「それはやめて。1時間は待ってもらうことになるから。」


「来年の大晦日は年越しキャンプだな。キャンプ場で新年を迎えるなんてどう?」

「私には無理。前にマイナス対応のシュラフがあるって聞いたけど、顔は出てるんでしょ。寒くて絶対に眠れないよ。」

「それなら奥の手があるよ。」

「何?奥の手って。何か怖いんだけど。」

「小さなヒーターをテントに入れるんだ。電源のあるキャンプ場は結構あるから。すぐにテントの中がポッカポカになるよ。」

「そんなにしてまで真冬にキャンプしたいかな?」

「キャンパーにとっては、一年中キャンプをすることに意義がある。」

「私にはその意義はわからないわ。それに、家電品に頼るなんてキャンプの道から外れてない?」

「キャンプに正道なし、ゆえに邪道なし。これは、キャンピング倶楽部の仲間の岡ちゃんの名言。」

「それ、名言なの?」

「駆け出しキャンパーの由佳にはまだ早かったかな。いつかはわかるよ。」

「そうかな。キャンプを続けたら、いつかはわかるのかな。」

半分、冗談で言ったけど俺としても半分はそう思っている。

真面目に考え込む由佳が、なんともかわいい。


「去年までは、由佳はだれと初詣に行ってたの?」

「ゆっこちゃん。高校の頃から。」

「あのお母さんのような友達?」

「それは本人の前では絶対に言っちゃダメだからね!」

「わかってる。」

「でもね、ゆっこちゃんも少し前に彼ができて、その人と初詣だからいいの。でね、ユッコちゃんって、今まで彼ができるたびに初詣に彼と行くから、その年はお母さんと行ってたよ。」

「彼ができるたびにって、そんなにしょちゅう新しい彼ができてたの?」

「そこまでじゃないけど、なぜか長く続かないんだよね。でもすぐに新しい彼ができるの。」

「へー。でも、それってもてるってことだよね。」

「うん。とってもいい子だから。そうだ、ユッコちゃんが、そろそろ真ちゃんに合わせろって言ってたよ。」

「そう、僕はいいよ。由佳がお世話になっています。お母さんのような友達って由佳からかねがね伺ってますって挨拶しないと。」

「それ言ったらもう口きかないから。」

「冗談だよ。口が裂けても言わない。」


「そう言えば、真ちゃんのブログのテーマに神社ってあるよね。神社が好きなの?」

「うん。大学のときに写真部の先輩に西宮の大きな神社の後継ぎがいてね、よく僕たち後輩をいろいろな神社へ連れて行ってくれたんだ。僕たちはそれを『柏手同好会』なんて名前で勝手に呼んでたよ。」

「カシワデドウコウカイ?」

「そう、おシャレだろ。ちゃんと正しい参拝の仕方も習って、みんなでそれをやってた。今日は、由佳にも正しい『二礼二拍手一礼』を教えてあげる。」

「うん。なんかすごいな、楽しみ。」

「そう、神道は奥が深いから。でね、それから神社が好きになって、就職してこっちに帰ってきてからも岡山県神社庁のホームページを見て、行ってみたくなった神社に行ってるんだ。」

「そうなの。よくわからないから、またゆっくり教えて。」

などと言っている間に神社の駐車場に着いた。

「大きな神社ね。」

「とは言っても県社だけどね。」

「ケンシャ?」

「これ、今はないっていうか、戦争で日本が負けてなくなったんだけど、それまであった近代社格制度での社格。社格が高いのは官国幣社で岡山には3社しかないんだ。次が県社。ほかに郷社や村社があるよ。社格のない無格社もあった。」

「あの、真ちゃん。」

「何?」

「ちょっと、怖いんですけど。」

「あっ、そうだよね。ごめん。ついトリップしちゃった。」

参道を歩く。

神様の前では不謹慎かなって思って、手は繋がなかった。

でも、この前初めて手を繋いだのも祭りの参道だったな。

人はまばらで拝殿の前も誰もいない。

しっかりと由佳に、正しい二礼二拍手一礼を伝授した。

俺のお願いは今年も由佳と一緒にいられますように。

由佳はどんなお願いをしたんだろう?

その後おみくじを引いた。

俺のは大吉で由佳のは吉。

「大吉が一番いいっていうのは知っているけど、吉ってどれくらいのあたりなんだろう?いい方かな?」

皆目わからないといった様子。

吉は大吉の次で、その次が中吉、で小吉、末吉と続く。

教えてあげてもいいが、そんな由佳を見ていたら、かわいくって、つい意地悪したくなってしまった。

わざと大げさに

「えーっ!そんなことも知らないで、おみくじ引いてきたの!」

「何!知らないよ、そんなこと。みんな知らないでしょ。」

「知ってるよ、みんな。常識だよ。」

「えっ、そうなの?」

「いや、逆に、知らない人、いたんだ。」

「えーっ。どうしよう。真ちゃん、教えてよ。」

「これは教えちゃいけないことなんだ。」

「何で?」

「神道での決まり。」

「本当?」

「うん、本当。」

「じゃあ、どうやったらわかるの。」

「それはね、神代のころから伝わってる、唯一知る方法があるんだ。」

「そう。それ教えてもらえるの。」

「うん。今日は特別だから、これは誰にも言っちゃいけないよ。」

「うん、言わない。」

「じゃあ、教えてあげる。それはね。」

「うん。」

「それは。」

「うん。」

「それは・・・ネットで調べる。」

「は?」

「だから、インターネット。順番が乗ってる。」

しばらく由佳が呆然とする。

やがて怒りがこみ上げてくるのがわかる。

「騙したな!本気で聞いてたのに!」

それを聞いて、笑いが止まらなくなってしまった。

「本気って・・・それ・・・普通・・・わかるよな。」

「ひどい。もう真ちゃんの言うことは本気にしない。全部疑ってかかるよ。」

悲しそうな眼をする。

あっ、またやってしまった。

何でいつも、ほどほどのところで止められないんだろう。

「ごめん。って言ってももう遅いよな。いつもいつもこんなで。前に由佳に言われたけど、ほんと、僕は馬鹿だな。」

「ほんと、馬鹿。どうしようもない馬鹿。人が知らないのを何も考えずに馬鹿にするようになったら、いつか言葉で失敗するよ。真ちゃんにはそんなことになって欲しくないし、そんな人であって欲しくない。」

自分でもわかっているから、大きなため息しか出ない。

「だから、私がついてなきゃだめなの。やっていいことか、言っていいことか、教えてあげないと。」

明らかに由佳の方がお姉さんだ

「うん。」

としか言えなかった。


気まずいまま、車で俺のアートへ向かう。

「お昼はどうする?」

何もなかったかのように由佳が聞いてきた。

俺も普通に答えないと。

「どうしよう。外で食べる?弁当買って帰ってもいいけど。」

「私、何か作ろうか。」

「えっ。」

「あー、私に作れるのかって思ったでしょう。」

「いや、思ってもみないことだったからびっくりしただけ。デイキャンプのときのお弁当、すごくおいしかったから、由佳が料理が上手なことわかってるよ。」

褒めたつもりだったのだが、由佳のテンションが下がる。

「・・・あれね・・・だいぶお母さんに手伝ってもらったの。」

「そうだったの。」

「でもね、真ちゃんが絶対に好きだろうなって思った鶏のから揚げとサーモンのムニエルとポテトサラダは最初から全部私が作ったよ。」

「わかるんだ、本当に僕の好きなもの。やっぱり、僕の彼女だよな。」

「うん。」

由佳が恥ずかしそうに、でもはっきりと返事をしてくれた。


何でもいいよと由佳が言うので、八宝菜をリクエストした。

もちろん市販の八宝菜の素で作る。

せっかくだから、八宝菜に入れられる食材を全部入れたスーパー八宝菜にしようと言ったら由佳もうんといってくれた。

途中のスーパーで食材を買って帰る。

俺がカゴの乗ったカートを押して、由佳がそれに入れていく。

何か、夫婦のような、同棲してるような感じがしてきた。

周りの人の目が恥ずかしいが嬉しい。

白菜、小松菜、豚バラ、エビ、イカ、ニンジン、シイタケ、キクラゲ、茹でたけのこ、ウズラの玉子、どんどん由佳が入れていく。

買い出しが終わって俺のアパートへ。


鍵を開けて由佳を通す。

由佳をというより、俺以外の人間が入るのが初めてだ。

リビングに入る。

開口一番

「へー、思った以上にきれいに片付いているじゃない。」

由佳が褒めてくれた。

でも、初めて彼の部屋に入っての感想がそれ?

じゃない。

こんなんじゃない。

俺が由佳を初めて部屋に招き入れるシュチュエーションは。

由佳が戸惑いながら「私、男の人の部屋に入るの初めて」とかから始まるんじゃないのか?普通は。

で、ためらう由佳に「まあ、入れよ」なんて声を掛けて・・・・

俺が古いのか?

今の時代に、そんなこと求めちゃいけないのか。

「わー、すごいね、古代史の本。マニアックなのもいっぱい。これ、私も持ってる。これ、面白そう。」

一人ではしゃいでいる。

ひょっとして、俺、勝手に由佳の人物像を作っていたのか?

普段は明るくて元気だが、ここというときには、奥ゆかしくなって、古風で、控えめになって・・・なんて。

でも、それは、俺のただの幻想。

そうではないことがはっきりした。

由佳は、今まで通り、人懐っこくて、はっきりしていて、おもしろくて、行動的な子で、でも時には古風で・・・それが由佳なんだ。

そして、思いやりがあって、優しくて、温かくて。

そう、初めて会ったとき、最後のチャンスなのに、なかなか一歩が踏み出せない俺に勇気をくれたあの優しくて温かい微笑み。

あれをもらえたから今があるんだ。


「読みたい本があったら持って帰ったらいいよ。僕は一度読んだ本をもう一回読むことはないから。」

「それ聞くの2回目。」

「そう?いつ言ったかな?」

「初めて真ちゃんと電話で話したとき。だからあの本をくれるって。」

「そうか。そんなこと言ったかもな。この本たちもここで本棚に飾られているより、読みたいと思ってくれる人のところに行く方が幸せだから。」

「それ聞くのも2回目。同じとき。」

由佳が3冊の本を本棚から抜き出した。

「これ、借りていい?」

「あげるよ。」

「ううん、読んだら返すよ。でまた読みたい本を借りるよ。ここは私の図書館。」

「そうか。ならいつでもおいで。仕事の帰りにも寄ったらいいよ。」

「うん。」

本当に嬉しそうに由佳がうなずいた。

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