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由佳とクリスマスイブ

だんだんと、現実世界と由佳ワールドの暦が一致してきた。

折しも今日は、両方の世界でクリスマスイブ。

夫婦二人暮らしの我が家では何のイベントもないが、あちらの世界は一大イベントだ。

では、ダイブ。


今日は、12月24日。

クリスマスイブ。

俺の職場の終業式でもある。


一時間だけ有給休暇を取り、由佳を迎えに行く。

何かあってはいけないので、少し早く帰ることを副担任のベテランの女性の先生に伝えておく。

「どうぞどうぞ。」

と言う目が笑っていた。

バレてるな、これは。


駅には長時間停められないので、少し離れたところにあるコンビニに停めて由佳からのLINEを待つ。

一応、大人なので、缶コーヒーを1本買った。

カーナビのテレビでニュース番組を見ていたら、LINEが入ってきた。

「今、駅の駐車スペース」

「わかった、すぐに行く」

「ありがとう」


由佳を乗せて、予約したレストランに向かう。

由佳はファミレスで十分と言ったが、イブは特別な日だし、それに今日のイブは、由佳と過ごす初めてのイブだ。

繁華街なので店の駐車場はなく、コインパーキングに車を入れる。

店に入る。

名前を告げて、テーブルに案内される。


「こんなレストランで食事するなんて初めて。高いんじゃないの?」

「実は、僕も。せっかくのイブに、お金のことは言わないでよ。」

「ごめんなさい。・・・そうだ、この前会社の忘年会があって、彼氏がいるのかって聞かれた。」

「で?」

「ウソは言えないからいるっていったら、すごく驚かれた。」

「そうか。何でだろう?」

「みんな、私にはいないっていうことが前提だったみたい。」

「それも失礼な話だな。」

「でもね、営業の先輩が、何か月か前からそんな気がしてたって言ってたよ。」

「何でだろ?」

「久しぶりに見かけたら、前と雰囲気が違ってたんだって。色っぽくなってたって。」

「えっ、由佳に色気が?」

「それ、どういう意味?どうせ私には色気はありませんよーだ。」

「いやいや。それにしても鋭い人がいるんだな。」

「うん、ほかの人はそんなの全然わからなかったって。」

「今日は、何か言われた。」

「帰り際に、同期の営業の子に、この後会うんでしょ、いいなーって言われた。」

「前に言ってた美玖ちゃん?その子は彼氏は?」

「忘年会のときに聞かれて、今はいないって言ってた。」

「今は、か。別れたのかな。」

「そうかもね。」


コース料理の最初の前菜が運ばれてきた。


「そういえば、真ちゃも、最初に本のお礼に食事に誘ったとき、今はいないって言ったよ。」

「へー、よくそんなの覚えてるなぁ。」

「それって、別れたってこと?・・・ごめん、言いたくなかったら聞かないから。」

「いや、いいよ全然。今年の始めごろから付き合ってた人がいたんだ。友達が年上の彼女と付き合ってて、その彼女の友達を紹介されて、気も合うし、付き合うことにしたんだ。僕にとって初めての彼女で。」

「その人も年上?」

「うん、2つ上。」

「上手くいってるって思ってたんだけど、付き合って2か月ほどで別れてくれって突然言われた。好きな人ができたって。」

「そんな。」

「でも、今はよかったと思ってる。そんなのと長い間付き合ってもしょうがなかったろうし、早く本性が見られてよかったよ。そんなこと言われた時点で、もうどうでもよくなったから、すんなり別れた。」

「そんなことがあったの。」

「でも、その人と別れていたから、由佳と食事に行けたよ。彼女がいたら、食事もダメだったんだろ?」

「うん、それはダメ。不義理だよ。」

「不義理か。そんな言葉、久しぶりに聞いたな。由佳って、言うことが結構古風だよな。」

「そうかな?」


「キャンプに行ってる?私に遠慮しないで、行きたいときに行ってよ。仕事してたらストレスたまるし、リフレッシュって大事だから。」

「ありがとう。土日ともに由佳と会えない日には行ってるよ。でも、会えるときは会いたいから。」

「前に言ってたキャンプの倶楽部ってどんなことするの?」

「話をしながら、ひたすら食べてひたすら飲む。それだけ。」

「やっぱり、飲みに行くようなものなんだ。」

「うん、みんなもそれが楽しみで集まってるようなもんだし。でな、みんな、ハンドルネームで呼び合うんだよ。会長はアクアさん、その参謀が岡ちゃん、ほかにタカミっちとか、シュンさんとか、花ちゃんとか、プリシアさんとか教授とか。教授って言うけど普通のサラリーマンの若いお兄ちゃんだけど。で、僕は。」

で切って由佳に目で合図すると

「メタさん。」

と楽しそうに答えてくれる。

「倶楽部っていうけど、別に会費がいるとか、規約があるとか堅いものじゃなくてね、会長がキャンプ場で出会ったキャンパーに声をかけて、繋がっていくって感じ。」

「へー、いいね。それだったらどんどん会員が増えそう。」

「基本、仕事の話はしないんだ。で、みんな酒が強くて、何時まででも飲んでるよ。次の日はみんな二日酔い。なんか、廃人のようになってる人もいるし。ただ、会長が飲みすぎちゃって、よくケガをするんだ。僕がいないときのことだけど、足を滑らせて沢に落ちて、ろっ骨を折ったって。それも2回。ほんと懲りないんだよな。」

「えー!それ大けがじゃない。」

「そう。だけど激しく酔ってるから、這い上がってきて、わけがわからないままにテントに入って寝て、朝起きたら痛くて、病院に行ったら折れてたらしいよ。」

「なんか、無茶苦茶だね。」

「そう。ほんと、無茶苦茶。」


最後のデザートを食べて、コース料理が終わった。

実は、このあとサプライズを用意している。

「今日は、遅くなってもいいかな。3時ってことはないから。」

「うん。どこかへ連れて行ってくれるの?」

「前に行った星の里キャンプ場に行こうと思って。」

「これから?」

「うん。由佳に見て欲しいものがあるんだ。」

「何?」

「行ってみてのお楽しみ。」

由佳を乗せて星の里に向かう。

「今日は金曜日だから、だいたい誰かキャンプしてるよ。」

「それなら安心ね。誰もいないと怖いよ、夜は。でも、この寒い中で本当にするんだね。」

「前も言ったろ、冬用のシュラフがあったらだいじょうぶって。冬の方がいいこともあるよ。虫に刺されることがないし、暑くないし。」

「冬なんだもの、暑くないのは当り前よ。」

「僕、暑いの本当に嫌いなんだよな。一年中、冬でもいいよ。」

「じゃあ、アラスカとかにでも移り住んだら?」

「それいいな。一緒に来てくれる?」

「それは無理。私は寒い方が苦手だから。」

などと話していたら、星の里に着いた。

由佳が降りると、俺はわざと足元に注意するようにばかり言いながら、由佳をキャンプ場の中心に連れて行った。

じゃあ、サプライズだ。

「由佳、メリークリスマス。」

腕をまっすぐ上に伸ばして天を指さす。

由佳が空を見上げた瞬間

「わー!!!。すごい・・・。」

住宅街では見られない、まさに満天の星。

夜空には、本当はこんなにたくさんの星があるんだってことを教えてくれている。

またたく大小、無数の星たち。

「あー吸い込まれそう。」

由佳の目に涙が浮かんでいる。

「すごいだろ。僕も最初にここに泊まったときに、何も知らないでふと空を見て、思わず『わー!』って叫んでしまったよ。だから、星の里なのかって。」

「きれい。最高のプレゼント。」

「そうか、よかった。プレゼント、まだお互いに渡してなかったね。」

「メリークリスマス。」

プレゼントを交換した。

「また来たい。」

めずらしく由佳がはっきり言う。

よほど気に入ってくれたみたいだ。

「うん、来よう。星は夜の間はずっと見られるから、いつでも言って。何時でも迎えに行くよ。」

「ありがとう。」

由佳の左目から涙が伝った。


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