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由佳と忘年会

由佳を取り巻く人たちの中で、会社の先輩や同期も大切な存在だ。

今日は、由佳とゆかいな仲間たちの話。

では、ダイブ。


今日は、由佳の会社の忘年会。

30人規模の会なので、大きな居酒屋の二階の座敷を借り切って行われる。

始めは、部署ごとに集まって座り、始まったら、自由に移動する。


「はー。年に一度とは言え、めんどうだわ、これ。早く帰りたいわ。」

経理の最長老の正代さんが本当にめんどくさそうにため息をつきながらつぶやいた。

「ほんと、そうですよね。主婦にはやらなくちゃいけないことが山のようにあるのに。子どもも待ってるし。これって、だれがやりたいんでしょうね。」

恵さんが答える。

由佳は、二人のやり取りを聞くしかできない。

「由佳ちゃんもそう思うでしょ。」

正代さんが聞く。

由佳も正直そう思っているので

「はい。あんまり好きじゃないです。」

と無難に答える。

「経理のお姉様方、楽しくないオーラが激しく出てるんですけど。」

今しがた店に着いた営業の美玖ちゃんが、煽ってくる。

「美玖ちゃんもでしょ。これ、楽しい?」

正代さんがまたもや、わかり切ったことを聞く。

「会社には申し訳ないけど、楽しくないです。」

「そうよね。全然申し訳なくないよ。むしろ、私たちに申し訳ないって言って欲しいよ。」

そんな話がしばらく続く。

「なんか、いい話ない?」

恵さんが由佳と美玖に振る。

「メグちゃんこそないの、ときめくような話。」

「ないですよ。こんな二人の子持ちに。ていうより、正代さん、ときめく話ってどんな話ですか。」

「それは・・・燃えるような恋の話とか。」

「もう、そんなのとっくに終わってますよ。」

「そうなの。・・・美玖ちゃん、あんた、どうなのよ。燃えるような恋してる?」

正代さんが美玖ちゃんに振る。

急に振られた美玖が慌てる。

「そ、それは。」

「彼氏いるの?」

と恵さん。

少し間が空いて

「今はいません・・・。」

「そう、何か訳ありみたいだから、それ以上は聞かないけど。で、由佳ちゃんは?」

他人事として美玖を見ていたのに、急に自分に話の矛先が向いて動揺する。

「えっ!」

由佳の反応を面白がる美玖。

「そう言えば、由佳のそういう話って聞いたことないよね。ねえ、由佳って彼氏いるの?」

これは困った。

いると正直に言えば、かなりいじられるだろうし、いないとウソを言って、その後バレたらその方が大変だろうし。

「どうなの、由佳ちゃん、いるの?」

恵さんがプレッシャーを掛けてくる。

ウソはつけない。

「はい。」

小さな声で答える。

「え~!!」

みごとに三人の声がハモって、会場の注目を集める。

「ほんと?」

正代さんが詰め寄る。

正代さんにはきちんと答えなければならない。

「はい、います。」

「そんなの全然聞いてないよ、同期なのに。いつからよー?」

美玖ちゃんが同期を盾にして迫ってくる。

自分だって、そんな話、一度もしてきたことがないのに。

どうせ、答えるまで美玖はしつこく聞いてくるのがわかっている。

「半年ほど前から。」

「由佳ちゃん、そういうのはすぐに教えてくれないと。」

恵さんも、興味津々だ。

正代さんが、由佳に対して聞いて欲しそうにみんなを誘う。

「で、付き合ってるなら、結婚も考えてるんでしょ。なら、ね。生活のこととかあるし。経済的に安定してるって大切よね。」

遠回しに言っているが、正代さんが何を聞いて欲しいのか、みんなわかっているし、みんなもそれが最大の関心ごとだ。

でも、それを聞ける人はこの中にいない。

正代さんがもどかしそうだ。

そこに、トイレから帰って来た美玖の営業の先輩の美千代さんが加わってきた。

「なんか、おもしろそうな話してるね。」

美千代さんと恵さんは同期だ。

「みっちゃん、由佳ちゃんに彼氏がいることがわかってね。」

美千代さんはまったく普通に答える。

「そう。私、そんな気がしてたよ。」

「どういうこと?」

「私は営業だから、由佳ちゃんに会わないときはかなりの間会わないのも普通じゃない。でね、3か月前くらいに見かけたとき、今までとは違ってるなって思ったの。先月見たとき、もっと思ったよ。もともときれいな子だけど、それだけって思ってたんだけど、そのときは、なんていうのかな、艶っぽさ?色っぽさ?みたいなのが出てた。これは、何かあったなって思ってたよ。」

みんなが聞き入っている。

「そんなの、わかるんだ。」

と、美玖。

「でさ。」

正代さんが、話を戻す。

「みんなも、聞きたいよね?」

正代さんがしびれを切らしている。

美千代さんがうなずきながら

「あーわかった。さっきの、そういう話だったんだね。由佳ちゃん、彼って何の仕事をしてるの?」

こうもあっさり聞かれて、由佳の方が拍子抜けする。

「何してる人?」

美玖が身を乗り出す。

言いたくないが、言わないでこの場が収まらないのはわかっている。

しかたがない。

「先生。」

「えっ、先生って?」

美玖が聞き返す。

「高校の先生。」

「えー、本当!」

美玖が信じられないという顔で由佳を見ている。

「それって、県立よね?」

美千代さんが冷静に聞く。

「はい。」

「てことは、県の公務員じゃない。いいね。」

由佳には答えようがない。

「何を教えてるの?」

と恵さん。

「理科です。生物。」

「へー、理系男子なんだ。」


その後、美玖から質問攻めにあった。

どうやって知り合ったのか?

デートにどこに行ったのか?

彼から何て呼ばれているのか?

誕生日プレゼントに何をもらったのか?


美玖が

「あ~、うらやましくて頭がくらくらしてきた。もう、倒れそう。」

「じゃあ、倒れる前に何か言い残したことはない?」

美千代さんがおもしろがって聞く。

「公務員の彼氏が欲しい。空港デートしたい。美玖って呼ばれたい。6万円のワンピ買って欲しい。・・・ドサ。」

美玖が倒れた。

「いっぱい言い過ぎ。」

みんながあきれて笑った。

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