表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/34

由佳とデイキャンプ1

今日は、久しぶりにキャンプに来ている。

コンフォートチェアに体を預けてビールを飲んでいると、気が遠くなっていく。

では、ダイブ。


数日前の電話。

「だいぶ涼しくなってきたし、今度、デイキャンプに行かない。」

「行きたい。私、キャンプって行ったことないの。」

「デイキャンプも?」

「うん。私の家、基本インドア派だから。」

「そう。じゃ、僕も気合が入るわ。僕の秘密のキャンプ場に招待するよ。」

「秘密の?」

「そこまで言ったら大げさだけど、もともとほとんど知られていないキャンプ場があってね。星の里キャンプ場っていう小さなキャンプ場なんだ。ネットで知って行ってみたんだけど、すごく気に入って、毎週のように泊まってはブログに上げてきたんだ。最初はいつ行っても僕だけだったけど、ブログのせいかはわからないけど、来るキャンパーが増えていって、今じゃ、予約を入れてもいっぱいで断られることさえあるんだよな。イベントやってることもあるし。キャンピング俱楽部の会長さんは、あそこがあんなに人気になったのは、メタさんのおかげやって言ってくれるよ。あ、メタさんは、僕の倶楽部でのハンドルネーム。」

「ブログやってるんだ。後で教えてね。で、メタさんのメタって何?」

言わなきゃよかった。

特に後半は。

でも、由佳には本当のことを言おう。

「実はな。そのころって・・・5年ほど前かな、僕、今より15キロくらい太ってて、メタボリックシンドロームから、自虐的にメタって名乗ってたんだ。」

「え、ほんと?」

「うん。でもこのままじゃいけないと思って、努力してここまで痩せた。でも、今でもかなりぽっちゃりなのはわかってる。由佳だって、こんなのよりもっとスリムな男の方がいいよな。」

由佳が笑う。

「何で?」

「そりゃ、イケメンになるの無理だし、今さら背は伸びないし。なら、スリムになるくらいしかできないだろ。」

「で?」

「その方が連れて歩いてていいだろ。だから、またダイエット始めたんだぜ。まだ効果は現れてないけど。由佳と歩いてて、なんでこんなかわいい子がこんな男と?って視線感じるんだよな。今の僕じゃ由佳に釣り合ってないし、由佳に悪いなって思うんだよな。」

「それ、本気で言ってる?」

静かに言うが、これはいつもの由佳じゃない。

怒っている、だけど・・・。

「私、いつそんなこと言ったかな。スリムになって欲しいとか。連れて歩くならスリムな人がいいとか。私のこと、そんなふうに思ってたの。」

「いや。」

「寂しいな、それ。」

「・・・。」

言葉が出ない。

「外見なんてどうでもいい、なんてきれいごとは言わない。でも、大切なのは中身でしょ。私が真ちゃんのどこが好きかなんて、どうでもいいんだね。わかってくれてると思ってたのに。」

「違うよ。」

「何が違うのよ。私は今の真ちゃんと出会って好きになったの。だから、今の真ちゃんが好きなの。・・・なのに・・・何で・・・。」

由佳が泣いている。

「ごめん。」

軽はずみなことを言ってしまって、由佳を傷つけた。

「ごめんね。今、普通に話できない。」

由佳が電話を切った。

謝らないといけないのは俺だけなのに。


それから2日経った。

由佳から電話はない。

それは当然だろう。

俺からしないといけないのはわかっているけど、許してくれなかったらどうしよう、出てくれなかったらどうしよう・・・いろいろな悪い結末が頭をよぎって電話ができない。

LINEはダメだ。

そんな軽いものじゃないから。


さらに2日経った。

このままじゃ、いけない。

もう、由佳が俺のもとを離れてしまうかも知れない。

許してくれないなら、謝り倒すだけだ。

電話を掛ける。


「もしもし。」

「真ちゃん。」

「うん。」

「長かったね。こんなに長いこと話さなかったの初めてよね。」

「うん。ごめん。もっと早く電話しないといけなかったのに。怖くって。この前のこと、本当にごめん。」

「もういいよ。私もつい苛立って、きついこと言った。」

「そんなことない。」

「あるよ。」

「今日までずっと思ってたんだ。もうこのまま由佳と会えなくなるんじゃないかって。由佳がどこかへ行っちゃうんじゃないかって。」

由佳はしばらく黙った後

「真ちゃんって・・・馬鹿だな。」

「えっ?」

「馬鹿だって言ったの。」

「馬鹿?」

「うん。頭はいいけど馬鹿。」

「どういう意味かな?」

「わからない?じゃ、はっきり教えてあげる。私が真ちゃんから離れていくなんて考えるのが馬鹿。大馬鹿。」

こうも馬鹿、馬鹿と言われると、本当に自分が馬鹿だと思ってしまいそうになる。

でも、その通りだな。

由佳を信じられなくなるなんて。

「ほんと、馬鹿だ。」

「わかった?わかったら、もう絶対にそんなこと言わないで。」

「わかった。ごめん。絶対に言わない。約束する。」

「なら、もういいよ。」

何か忘れている。

そうだ。

「デイキャンプ、行ってくれるかな。」

「うん、行きたい。そう言えば、デイキャンプの話が途中だったね。」

「そうなんだ。ずっと気になってて。」

よかった、通常運転の俺たちに戻れて。

「キャンプ場でどんなことするの?」

「ゆっくりくつろいだり、散策したり、ご飯を食べたり、かな。泊りだったら、飲んだり、焚火したり、テント張ってあんなことやこんなことも。」

「最後のは聞かなかったことにしてあげる。楽しそうね~。」

「バーベキューとかしてもいいけど、最初だからキャンプの雰囲気を楽しんで欲しいな。あっちで調理をするとなると、準備も片付けも大変だから。」

「うん、バーベキューは次のときにしよう。」

「行ってもないのに、もう次か?一回で懲りてもう行かないって言うかもよ。」

「さあ、どうだろう。じゃあ、お昼はお弁当?」

「そうだな、途中でスーパーで買ってもいいし。」

「ん~。」

由佳が何か考えているみたいだ。

「私、お弁当作って行こうか。」

「いやあ、それは悪いよ。」

「全然。そうするよ、いいでしょ。」

「うん。ありがとう。すごく期待してるよ。」

「わーやめてよ。頑張るけど、あんまり期待しないで。」

「うそうそ。由佳が作ってくれるんなら僕には何でも美味しいよ。」

「真ちゃん、嫌いな物ある?」

「食べられないのはキューイフルーツだけ。食べたらしばらく口の中がヒリヒリするんだ。」

「へーそんなアレルギーあるんだね。」

「で、嫌いなのは、アジの塩焼き。塩焼き以外だったら、アジフライも刺身も好きなんだけど、塩焼きだけダメ。あとは、カボチャくらいかな。てんぷらはいいけど、煮物が嫌い。」

「わかった。じゃあ次のお弁当は、キューイフルーツとアジの塩焼きとカボチャの煮物」そこで由佳が切る。

「うん。」

「を、いっぱい詰めていくね。」

「わお~!」

「すごく期待してて。」

二人でしばらく笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ