由佳とデイキャンプ1
今日は、久しぶりにキャンプに来ている。
コンフォートチェアに体を預けてビールを飲んでいると、気が遠くなっていく。
では、ダイブ。
数日前の電話。
「だいぶ涼しくなってきたし、今度、デイキャンプに行かない。」
「行きたい。私、キャンプって行ったことないの。」
「デイキャンプも?」
「うん。私の家、基本インドア派だから。」
「そう。じゃ、僕も気合が入るわ。僕の秘密のキャンプ場に招待するよ。」
「秘密の?」
「そこまで言ったら大げさだけど、もともとほとんど知られていないキャンプ場があってね。星の里キャンプ場っていう小さなキャンプ場なんだ。ネットで知って行ってみたんだけど、すごく気に入って、毎週のように泊まってはブログに上げてきたんだ。最初はいつ行っても僕だけだったけど、ブログのせいかはわからないけど、来るキャンパーが増えていって、今じゃ、予約を入れてもいっぱいで断られることさえあるんだよな。イベントやってることもあるし。キャンピング俱楽部の会長さんは、あそこがあんなに人気になったのは、メタさんのおかげやって言ってくれるよ。あ、メタさんは、僕の倶楽部でのハンドルネーム。」
「ブログやってるんだ。後で教えてね。で、メタさんのメタって何?」
言わなきゃよかった。
特に後半は。
でも、由佳には本当のことを言おう。
「実はな。そのころって・・・5年ほど前かな、僕、今より15キロくらい太ってて、メタボリックシンドロームから、自虐的にメタって名乗ってたんだ。」
「え、ほんと?」
「うん。でもこのままじゃいけないと思って、努力してここまで痩せた。でも、今でもかなりぽっちゃりなのはわかってる。由佳だって、こんなのよりもっとスリムな男の方がいいよな。」
由佳が笑う。
「何で?」
「そりゃ、イケメンになるの無理だし、今さら背は伸びないし。なら、スリムになるくらいしかできないだろ。」
「で?」
「その方が連れて歩いてていいだろ。だから、またダイエット始めたんだぜ。まだ効果は現れてないけど。由佳と歩いてて、なんでこんなかわいい子がこんな男と?って視線感じるんだよな。今の僕じゃ由佳に釣り合ってないし、由佳に悪いなって思うんだよな。」
「それ、本気で言ってる?」
静かに言うが、これはいつもの由佳じゃない。
怒っている、だけど・・・。
「私、いつそんなこと言ったかな。スリムになって欲しいとか。連れて歩くならスリムな人がいいとか。私のこと、そんなふうに思ってたの。」
「いや。」
「寂しいな、それ。」
「・・・。」
言葉が出ない。
「外見なんてどうでもいい、なんてきれいごとは言わない。でも、大切なのは中身でしょ。私が真ちゃんのどこが好きかなんて、どうでもいいんだね。わかってくれてると思ってたのに。」
「違うよ。」
「何が違うのよ。私は今の真ちゃんと出会って好きになったの。だから、今の真ちゃんが好きなの。・・・なのに・・・何で・・・。」
由佳が泣いている。
「ごめん。」
軽はずみなことを言ってしまって、由佳を傷つけた。
「ごめんね。今、普通に話できない。」
由佳が電話を切った。
謝らないといけないのは俺だけなのに。
それから2日経った。
由佳から電話はない。
それは当然だろう。
俺からしないといけないのはわかっているけど、許してくれなかったらどうしよう、出てくれなかったらどうしよう・・・いろいろな悪い結末が頭をよぎって電話ができない。
LINEはダメだ。
そんな軽いものじゃないから。
さらに2日経った。
このままじゃ、いけない。
もう、由佳が俺のもとを離れてしまうかも知れない。
許してくれないなら、謝り倒すだけだ。
電話を掛ける。
「もしもし。」
「真ちゃん。」
「うん。」
「長かったね。こんなに長いこと話さなかったの初めてよね。」
「うん。ごめん。もっと早く電話しないといけなかったのに。怖くって。この前のこと、本当にごめん。」
「もういいよ。私もつい苛立って、きついこと言った。」
「そんなことない。」
「あるよ。」
「今日までずっと思ってたんだ。もうこのまま由佳と会えなくなるんじゃないかって。由佳がどこかへ行っちゃうんじゃないかって。」
由佳はしばらく黙った後
「真ちゃんって・・・馬鹿だな。」
「えっ?」
「馬鹿だって言ったの。」
「馬鹿?」
「うん。頭はいいけど馬鹿。」
「どういう意味かな?」
「わからない?じゃ、はっきり教えてあげる。私が真ちゃんから離れていくなんて考えるのが馬鹿。大馬鹿。」
こうも馬鹿、馬鹿と言われると、本当に自分が馬鹿だと思ってしまいそうになる。
でも、その通りだな。
由佳を信じられなくなるなんて。
「ほんと、馬鹿だ。」
「わかった?わかったら、もう絶対にそんなこと言わないで。」
「わかった。ごめん。絶対に言わない。約束する。」
「なら、もういいよ。」
何か忘れている。
そうだ。
「デイキャンプ、行ってくれるかな。」
「うん、行きたい。そう言えば、デイキャンプの話が途中だったね。」
「そうなんだ。ずっと気になってて。」
よかった、通常運転の俺たちに戻れて。
「キャンプ場でどんなことするの?」
「ゆっくりくつろいだり、散策したり、ご飯を食べたり、かな。泊りだったら、飲んだり、焚火したり、テント張ってあんなことやこんなことも。」
「最後のは聞かなかったことにしてあげる。楽しそうね~。」
「バーベキューとかしてもいいけど、最初だからキャンプの雰囲気を楽しんで欲しいな。あっちで調理をするとなると、準備も片付けも大変だから。」
「うん、バーベキューは次のときにしよう。」
「行ってもないのに、もう次か?一回で懲りてもう行かないって言うかもよ。」
「さあ、どうだろう。じゃあ、お昼はお弁当?」
「そうだな、途中でスーパーで買ってもいいし。」
「ん~。」
由佳が何か考えているみたいだ。
「私、お弁当作って行こうか。」
「いやあ、それは悪いよ。」
「全然。そうするよ、いいでしょ。」
「うん。ありがとう。すごく期待してるよ。」
「わーやめてよ。頑張るけど、あんまり期待しないで。」
「うそうそ。由佳が作ってくれるんなら僕には何でも美味しいよ。」
「真ちゃん、嫌いな物ある?」
「食べられないのはキューイフルーツだけ。食べたらしばらく口の中がヒリヒリするんだ。」
「へーそんなアレルギーあるんだね。」
「で、嫌いなのは、アジの塩焼き。塩焼き以外だったら、アジフライも刺身も好きなんだけど、塩焼きだけダメ。あとは、カボチャくらいかな。てんぷらはいいけど、煮物が嫌い。」
「わかった。じゃあ次のお弁当は、キューイフルーツとアジの塩焼きとカボチャの煮物」そこで由佳が切る。
「うん。」
「を、いっぱい詰めていくね。」
「わお~!」
「すごく期待してて。」
二人でしばらく笑った。