由佳とお姉ちゃん
今日は、祝日。
一日中フリーだ。
今日は、あの由佳のお姉さんの話だ。
それでは、ダイブ。
由佳は、これからユッコちゃんと倉敷駅前に先日オープンしたカフェで会う約束をしているのだが、出るのが遅れてしまって焦っていた。
そこに、由佳のスマホに姉から電話が掛かってきた。
年に一回あるかないかの電話が、こともあろうか、このタイミングで掛かってくるとは。
やめて欲しい。
「もしもし。」
「ねぇ、お母さん、生きてるの?」
「何、いきなり。縁起でもないこと言わないでよ。」
「朝から携帯に電話してるのに全然でないよ。」
「お母さん、今日は朝から外に出でてるよ。スマホ、家にあるよ。持って出るのを忘れてるのか、持って出たくないのかわからないけど。」
「はぁ?それって携帯の意味ないじゃん。」
「知らないよ、そんなこと私に言われたって。お母さん、帰るの夕方だって言ってたよ。」
「そう、帰ったら私に電話してって言っといて。」
「わかった。じゃあ。」
「待ってよ。そんなに急いで切ることないじゃない。久しぶりお姉様と話してるのに。」
「ごめん、私急いでるの。友達と待ち合わせがあって、遅れそうなの。じゃあね。」
「それって、女よね。」
なかなか切らせてもらえない。
「そうよ。」
「そうよね。あんたが男とデートなんて、250万年ほど早いよね。」
いつもそうだ。
自分がモテていたことを自慢して、彼氏がいない私を馬鹿にして。
腹が立つ。
「何、その言い方。」
「だって、そうじゃない。今も彼氏いない歴イコール実年齢を更新し続けてるんでしょ。」
「いい加減にしてよね。私だって」
と言いかけて、あっと思って止めた。
もう遅いかも。
「私だってって何?」
「何でもない。」
「面白い話聞けそうね。私だって、彼氏の一人や二人くらいいるって?」
「・・・。」
「えっ、いるの?マジ?。」
「・・・。」
「ちょっと、何か言いなさいよ。いいわ。あんたに聞いても教えてくれそうにないから、お母さんに聞いてみるわ。そうだ、ユッコちゃんってのもありか。あの子、私の子分みたいなものだったし。」
これはまずい。
ユッコちゃんは、お姉ちゃんに聞かれたら、怖くて何でも話してしまう。
聞かれてないことまで話しかねない。
「あー、ごめん、切るね、時間ないから。」
時間もないし、ヤバい展開になってしまったので、一方的に切った。
これから楽しい時間になるはずだったのに、最悪の時間になりそうだ。
カフェに入る。
先にユッコちゃんが座っていて、由佳に手を振ってくれる。
ユッコちゃんの向かいに座る。
「どうしたの、何かあったの?」
由佳がよほどひどい顔をしていたのだろう。
「お姉ちゃんから電話があって。」
そう言っただけで、ユッコちゃんの顔がこわばる。
よっぽど子どもの頃に、何らかの実害を受けていたのだろう。
先程のことを話す。
うんうんとうなずきながら聞くも、不安感いっぱいのユッコちゃん。
「でね、私が言わないならユッコちゃんに聞こうかなって。」
「それはやめてよ。姉妹のことは姉妹で片付けて。」
いつもは優しいユッコちゃんが、あからさまに関わりたくないとの意思表示をする。
それだけ由佳の姉が嫌いなのだ。
ユッコちゃんを巻き込むわけにはいかない。
「わかった。これ、お姉ちゃんの番号。出なくていいから。」
「わかった。ありがとう。」
お母さんが帰宅したので、由佳が、お母さんに今日の姉のことを話す。
「そう、大変なことになりそうね。」
やはり、母の顔も暗い。
「でね、この後お姉ちゃんに電話するでしょ。私のこと聞いてくると思うから、知らないとか、聞いてないとか言って。聞いても何も教えてくれないがいいかな。直接、私に聞けって言ってくれない。」
「うん、そうするけど、あの子、感がいいからいつまでも騙し通せないよ。」
「それもわかってるけど、今は少しでも時間を稼ぎたいの。何かいい方法考えないと。」
何か切実な作戦会議だ。
翌日曜日。
昼過ぎに姉から電話が。
早いな。
出たくないけど出ざるを得ない。
「もしもし。」
「何、そのいやそうな言い方。」
「・・・・・・。」
「何か、周りに警戒網張らせてるみたいね。」
「何のこと。」
「ユッコちゃんは出てくれないし、お母さんも芝居が下手。わかりやすすぎるよ。あんた、彼氏できたんでしょ。やっと春が来たか。」
最悪。
バレてるのはわかっていたけど、こんなにはっきりと言われるとは。
「で、いつからなの。」
「・・・。」
「何してる人?」
「・・・」
応えたくない、この人には。
実の姉だけど。
「何で黙ってるのよ。お姉さんに教えなさいよ。」
「もういいよ。」
由佳がつぶやくように言う。
「何がよ。24年待って、やっとできた彼氏でしょ。どんな人よ。そうだ、今度うちに連れてきなよ。」
「もういいよ。お姉ちゃんには何も言いたくない。ずっと、私のことを馬鹿にしてきて。」
「何よ。何のことよ。」
「自覚もないって、幸せだね。私はずっと私我慢してきたのに。」
「ちょっと待ってよ、何マジになってるの。」
「そう、そうやって、お姉ちゃんはマジになるのから逃げて、ふざけてばかりだったよね。それで、周りの人がどれだけ傷ついてきたかわかってるの!お父さんやお母さんだって。」
お姉さんは黙っている。
「だから、もう、はっきりした。こんなお姉ちゃんいらない。・・・私、彼氏できたよ。とってもいい人で、とっても好き。だから、こんなお姉ちゃんには、絶対会わせられない。会わせたくない。恥ずかしいし、迷惑、掛けられない。」
由佳は泣いている。
しばらくどちらも話さない。
姉から切った。
その夜、由佳の姉から母へ電話が。
「お母さん、今日、由佳と話してね、説教された。」
「だいたいのことは聞いてるよ。」
「私のような姉はいらないって言われた。」
「そう。」
「私、そんなに変かな?」
「それがわかってないなら救いようがないね。」
「お母さんもはっきり言うね。由佳にも同じようなこと言われたよ。みんなを傷つけている自覚がないって。恥ずかしいから、彼氏に会わせられないって。怒られるのより泣かれた方がきつかったな。」
「だろうね。」
「私、どうしたらいいんだろう。ほんと、どうしたらいいのかな。」
「それは・・・それらしいことはいくらでも言えるけど、あんたが考えなさい。」
「・・・うん、そうする。しばらく考えるよ。で、由佳の相手ってどんな人?」
「まだ会ったことはないけど、県立高校の先生。」
「えーっ、私にはハードル高すぎるわ。」
それから先、姉から連絡はない。
でも、何かが動いていた。