由佳と誕生日プレゼント
今日は妻の誕生日。
今年の3月までは、子どもが同居していたので家でのお祝いだったが、大学を卒業するとと同時に家を出たので、今年は二人で外で祝った。
帰ると、風呂に入るくらいしか用事はない。
今日は、早く床に就いて、寝ながらダイブだ。
9月に入ってしまった。
由佳の誕生日が半月後ほどに近付いている。
何をプレゼントしたらいいものかと思うが、やはり由佳の欲しいものをあげたい。
そう言えば、由佳に最初の食事に誘われたときに、物は人それぞれ好みが違うので、もらって困るものがあるから食事にしたいと言われたっけ。
だから欲しいものをあげたいのだけど、由佳に聞いても気を遣って本当に欲しいものは言わなさそう。
そこそこのものを言うんじゃないのかな。
次のデートで、それとなく聞き出せないかな。
今日は、デートで日生に来ている。
まずは、五味の市を見て回る。
由佳は初めて来たらしい。
「生きた魚が売られてるよ。」
「ほんと?どうやって?」
「どうやってでしょう。見たらわかるよ。」
中に入る。
タイやチヌ、カレイ、スズキなどが、エアレーションされた海水中でまだ生きている。
「これ何て魚?」
「スズキ。またの名はシーバス。」
「バスって、ブラックバスの仲間?」
「そう。ブラックバスは淡水魚。」
「これは?」
「コチ。」
「そう。見たことも聞いたこともない。」
「えっ、本当に?」
「うん。」
「それは・・・非常識だろ。コチを知らないって。」
「えー、ひどいな。うちでは食べないから。」
「そうか。特異な食文化だな。」
「何か、うちの食文化をディスってない?」
「ディスってはないけど・・・日本じゃないな。僕は、コチ釣ってたし。」
「やっぱりディスってるじゃない。うちは日本です。倉敷です。」
昼ご飯は、事前に調べておいた漁協直営店で海鮮丼を。
あまりにたくさんの種類の魚介類が乗っていて、驚いた。
どれも新鮮で本当に美味い。
例によって、由佳が聞いてくる。
「これ、何?」
「本当に知らないの?」
「またー。知らないから聞いてるのに。」
「いや、岡山県民が知らないってないだろ。」
「岡山と関係あるの?」
「あるなんてもんじゃないよ。マ・マ・カ・リ。」
「それ、聞いたことがある。」
「いや、食べたことがあって当り前だろ。これな、忘れたけど本当の名前があって、岡山だけでママカリって呼ばれてるんだよ。」
「へー知らなかった。ママカリって方言なんだ。」
「じゃ、今日がママカリデビューだな。これでやっと岡山県民になれるな。」
「おおげさだよ。じゃ、うちのお父さんやお母さんはどうなるのよ?」
「倉敷市民だけど、岡山県民じゃない。」
「それ無茶苦茶。」
エビの出汁の味噌汁も絶品だった。
腹も満たされたので、ドライブへ。
橋で結ばれた島へ渡る。
鹿久居島へ、そして頭島へ。
頭島の展望台で、瀬戸内海の島々を見はるかす。
意外に小豆島が近い。
俺と由佳しかいない。
「なぁ、夏のボーナスで、何か買った?」
「急に何?」
「ボーナスが出たら買おうって思ってたものあるのかなって思って。」
「あるよ。」
「何?」
「ワンピース。私、ワンピースが好きなの。」
「そう。似合うよね。」
「でね、すごくきれいなワンピースを見つけてね、ボーナスが出たら絶対買おうって思ってたんだけど、なかなか行けなくって、まだ買えてないのよね。」
「どこで売ってるの?」
「クラドの中のお店。」
「ボーナスで買うっていうくらいだから高いの?」
「うん、五万八千円。私には普通だったら無理な値段だけど、去年のボーナスもほとんど使ってないし、普段の服はユニクロだから。見た瞬間に、これ欲しいって思ったよ。私を待ってくれてたって。こんなことめったにないから。」
もうこれしかないな。
「由佳、もう少ししたら由佳の誕生日だろ。」
「うん。」
「それ、僕がプレゼントするよ。」
「えっ、それはダメ!このワンピは私が自分へのご褒美に買うって決めてるから。」
はっきりと断られて、へこむ。
でも、ここは引けない、絶対に。
「由佳へのプレゼント、何がいいかずっと考えてたんだけど、やっぱり由佳が欲しいものをあげたい。だから。」
「でも、こんな高いもの、もらえない。」
首を振りながら、また由佳がきっぱり断る。
「値段じゃないよ!由佳が一番欲しいものをあげたい。由佳が・・・好きだから。」
「でも、それは・・・もらえないよ。」
「もう決めたから!」
「え?」
「由佳へのプレゼント、それって決めたから。」
「でも。」
「行くよ。」
「え?」
「クラド!」
まだ何か言ってる由佳の手をつかんだ。
そのままま螺旋階段を降りる。
俺が助手席のドアを開ける。
由佳が俺を見る。
「どうぞ。」
手を差し出す。
やっと気持ちの整理を付けてくれたのか、由佳がシートに座る。
俺がドアを閉める。
そして車が走り出す、クラドに向かって。