第7話 美少女ガールズバンドのデスボイスボーカルとしてお迎えされました
「最っっっっっっっっ高~~~~~~~❤」
橘さんはぐい~っと伸びをしてそう零した。
あの後、一時間延長して二人で互いに好きなバンドの曲を歌いまくった。
俺と橘さんはびっくりするくらい趣味がドンピシャで、デンモクの履歴には互いに知らない曲がなかった。
――楽しかったなぁ……
「やっぱクリーンとスクリームのマリアージュは最高ね! こっち系の曲でデュエットしたのは初めて! ほぼイキかけたわ!」
同感だ。クリーンとスクリーム交互に回すのもよし。交差するのもよし。歌い方や声帯の絞り具合で様々な組み合わせを出せるのが魅力の一つだ。
「それにしても想像以上だった。できるってだけですごいけど、まさかcoopsのダニーばりのドスの利いたのを出せるとは思わなかったわ」
「苦労したよ。彼のキメ細かいフォルスコードを再現するのに二年かかったからね」
こうして自分と同じ趣味を持つ人と喋ることの楽しさを知れたのはとてもよかった。
きっと俺と彼女はよき友人になれるだろう。
「やっぱさ、須賀君バンドやろうよ。私達、絶対いいコンビになれるって」
でも、俺の心は――
「なーんてね。もう無理には誘わない。でもバンドやってほしいのはホント。私達のじゃなくてもいいから――」
「橘さん」
――それだけで終わりたくないと思った。
「俺、バンドやりたい」
――彼女の隣に立ちたいと思ったんだ。
「君の隣で歌いたい。あの吹き抜ける様な風を、熱を、音圧をもっと集めたい」
須賀雅貴、一世一代の大告白だ。
それを聞いた橘さんは呆気にとられたように口を大きく開け、やがてぱあっと破顔した。
「須賀く――」
「君の綺麗な声を隣で聞きたい。一生懸命本気で歌っている君の横顔を見たい。もっと、もっと君と一緒にいたい!!」
俺がそう言うと、橘さんは目をパチパチと瞬きし始めた。
「君のその声に魅かれた。魅了されたんだ。繊細かつ鋭いハイトーンに惚れた。中性的でありながらどこか可愛らしさのある歌声が好きだ。歌っているときの本気の表情が好きだ。儚げで寂しげな眼差しが好きだ。心からスクリーモを愛してやまない高潔な魂が――」
「ちょちょちょ、ストップ! すとおおおおおっぷ!!」
橘さんは真っ赤な顔でわたわたと手を振り回しながら俺の口を塞いだ。
「わかった! わかったから! もう終わりっ!!」
両手で顔辺りをパタパタあおぐ橘さん。そりゃあそんなに暴れちゃあ熱くもなるわな。
「はあ、じゃあこれ」
橘さんはスマホをこちらに向けてくる。液晶にはQRコードが表示されていた。
「バンドメンバーにも紹介しなきゃいけないから、とりあえず私と交換ね」
そう促されて、QRコードを読み込む。家族と飲食店しか『お友達』がいない俺のラインに華やかな女子高生のアカウントが追加された。
「これからよろしくね! 須賀君♪」
拝啓お父様、お母さま、不肖なわたくしめですが、美少女が所属するガールズバンドのデスボイスボーカルとしてお迎えされました。